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リヒト

結婚式

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この、大きな手も。
大きな身体に包み込まれるように抱き締められるのも。


「ジャンのこと、好きだよ?」

ジャンみたいに、激しい感情じゃないけど。
少しずつ、育っていく気持ちもあるんだって知った。

ダメなところとか、可愛いとことか。

いつの間にか。
色々ひっくるめて、ジャンのことを好きになってたんだ。


†‡†‡†


『クロエ……、』
「前も言ったと思うけど。黒江は名字で名前は理人だから。名前で呼んで欲しいかなって」

『リヒト、』

うわ。
ぞくっとした。

囁くような話し方をするから。耳がくすぐったいというか。


ひょいと持ち上げられて、向かい合う形になる。

『リヒト、愛している。一生、大切にすると誓う』
「……結婚式は明後日だよ?」

『この気持ちは死ぬまで変わらない。何度でも誓うし、愛していると言いたい』
青灰色の瞳が、真っすぐに僕を見ている。

よく見れば、瞳孔が人間とは違うようだ。
獣人はみんな猫みたいな目なのかな?


「また伸びてきてる。キスする時、ヒゲが痛いんだけど?」
顔を寄せてくるジャンに告げると。

僕をベッドまで運んで。
ジャンは大急ぎでヒゲを剃りに行った。


こういうところ、本当に可愛いと思う。


†‡†‡†


日曜日だ。
結婚式の日が来た。

雲一つない晴天で、結婚式日和って感じかな?


ジャンは、見違えるような立派な礼服姿で。
僕はお城で出された、あの中世の貴族みたいな派手な服だ。

これは国から英雄と認められた者しか着られない服なんだって。

ジャンも名誉職なんだっけ?
そういえば、他の人とは違う感じの服だ。


デュランは立会人として、インターンの二人も、お祝いに参加してくれた。
王様の前で結婚を誓うのには、ルイとベルナールも驚いていた。

この国でも、以前までは城にいる王様に向かって結婚を誓うだけだったらしい。

それが、王様の前で誓うようになったのは、ルロイ王が一生に一回でも国民と顔を合わせて話をする機会を設けたかったからだそうだ。

ルロイ王は、国民すべての顔と名前を憶えているとか。

凄い。
そんなの、感激しちゃうよね。


『ジャン=ジャック・フォスター、クロエ・リヒト。前へ』
名前を呼ばれて、ルロイ王の前に進む。

王様の前には机があって。
誓いの言葉を述べてから、そこで結婚証明書に記入する。

でも、誓う前にルロイ王から真顔で『本当にJ・Jこやつが相手でいいのかね?』と訊かれた。
前代未聞だ。


†‡†‡†


『そんな顔をするな、J・J。ツガイとなった経緯が経緯だけに合意の上の結婚か気になっていただけだ』
苦笑しながらジャンに言って、僕のほうを見た。

『救世主、クロエよ。そなたにとって異世界人であるこやつと添い遂げ、この世界に留まるとのこと、私も嬉く思う。そなたの功績は、治療法と共に各国で代々語り継がれることとなろう。これからも我が国の医者メドゥサンとして、魔法使いソルシエとして。益々の活躍を願う』
「はい、頑張ります」

では誓いの言葉を、と促されて。


『私、ジャン=ジャック・フォスターはクロエ・リヒトを生涯の伴侶とし、この命尽きるまで、ツガイを愛し敬い助け、守る。……この場に居る、全ての者に誓う』
ジャンは、堂々と宣言した。

宣言の内容は、各自で考えるようだ。

これもプレッシャー凄いだろうな。
だって、王様に聞かれちゃうんだもんな。

パーシヴァルは涙目で手を叩いている。
涙もろかったんだな。


ルロイ王の目の前で、結婚証明書にサインをする。

僕は日本語で名前を書いた。
ジャンもルロイ王も、初めて見る漢字に興味津々の様子だ。


交換するのは首飾り。

お揃いのデザインだけど。
ジャンのはサイズが大きいから、作業がギリギリになるまで終わらなくて焦った。

そして、ジャンは意外と細かい作業が上手だという再発見もした。


屈んだジャンに、僕が首飾りをかけて。
ジャンが僕にも首飾りをかけて、頬にキスをされる。

『グラン・テール王国国王、ルロイ・オーレリアン・エルネスト・シルヴェストルの名において、二人の婚姻を認める。……おめでとう』
王様から祝福を受けて、結婚式は終わりだ。


大きな拍手に包まれた。


†‡†‡†


『おめでとう!』
メイベルが駆け寄ってきて。

可愛らしい花束を渡された。
結婚式のブーケというのは、こっちが次に結婚するほうに渡すのでは、と一瞬思ったけど。

異世界だし、決まりが違うんだった。


『クロエって、結婚できる年齢だったんだね? 僕と同い年くらいだと思ってたけど。一つ上だったの?』
と訊かれて。

笑ってごまかしてみたり。
えへへ。

『プリマット国から来た子が退院したら、結婚祝いも兼ねて改めてパーティしようよ。来られるなら、その子も呼ぼう?』
「うん、楽しみにしてる。ドニが全快したら誘ってみるね」

ドニは熱や咳もおさまって、起きて自分で食事できるようになったし。
もう、終息宣言を出しても大丈夫だろうとみている。

解析魔法をかけてみて、他に感染する恐れがなければ退院だ。


『何事もなく済んで助かりましたね、陛下』
『ああ。こちらの国民に一人の感染者も出さずに済んだのは、クロエが前もって警戒していたからだな』

アンリとルロイ王に改めてお礼を言われた。


こないだは、午後の診察もあって慌ただしく帰ってしまったから。
もうちょっと話したかったという。

「あ。アンリさん、立派な家を用意してくださって、ありがとうございました」
頭を下げると、アンリは慌てて手を振った。

『いえいえ、二人で普段住むには広すぎだとデュランに叱られて。至らなくて申し訳ない。掃除や炊事など、こちらの使用人を回そうかと思っていたところで』

『しかし、J・Jは自分の巣に他人が入ることを嫌うのではないか?』

そういえばそのようなことは言ってた。
王様、よく知ってるな。さすが幼馴染み。


でもって。
虫や鳥じゃないんだから。
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