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リヒト

救世主の帰還

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国境を越え、暁の森フォレアラゥブを抜けて。
村を通って、城へ向かう。

インターンの二人は、興味深げに車窓を覗いている。


『こちらは、随分復興が進んでいるのですね?』
『獣人だから体力があるんでしょう?』

『そうでもない。力自慢もいるが』
今まで沈黙していたジャンが、二人に答えた。

僕も、以前は獣人って全員がジャンみたいな体力自慢みたいな印象があったけど。
種族によってはか弱い獣人もいるって、医者になってから知った。


ルロイ王は、城の改修よりも村の復興を優先して予算を回して。
食糧を確保するため、牧場や農場を再生させたという。

だからまだ城壁の一部は崩れたままだと。
立派な王様だなあ。


『国王より、ルロイ陛下はとてもお強い方だと聞いてます』
『ジャン=ジャック先生よりもお強いのですか?』

きらきらと目を輝かせたインターン二人に。

『ツガイを得た俺のほうが、ずっと強い』
真顔で言い切った。


ルロイ王のことは尊敬していても、そこは譲れなかったようだ。


†‡†‡†


城門が開いて。
馬車は石畳の道を走る。


お城の前では、ドレス姿の少女……いや美少年が待っていた。

メイベルだ。
隣には、パーシヴァル。

手を振りながら、全開の笑顔を向けている。


『おかえりなさい、クロエ。久しぶり! 待ってたよ!』
「わわ、……ただいま、メイベル」

メイベルは僕が馬車を降りるなり、抱きついてきた。

消毒したし、ウイルスが残ってないことは確認済みだけど。
無防備だなあ。


『よ、おかえり』
『ああ』

パーシヴァルとジャンは淡々としてる。
もうちょっと無いんかい。

診療所にこもってから、しばらく会ってないのに。
僕は仲の良い友達はいないから知らないけど、これが男の友情なのだろうか。


インターン二人は、可愛らしい姫様に見惚れていた。

どうやらメイベルはプリマット国でも噂になるほど有名らしい。
可愛い姫だって。噂より可愛いだろ?


†‡†‡†


とりあえず、ルロイ王に報告だ。

スキップするように嬉しそうな足取りのメイベルと、僕とジャン。
ガチガチになっているインターンの二人、しんがりを護衛のパーシヴァルが歩くのを、城の兵たちに見送られる。


『クロエよ、世を救う大役、ご苦労だった。ジェリーは健勝であったか?』
ジェリーって。

ああ、ジェローム王の愛称か。
そういえばあっちもロイって言ってたな。マブダチか。

「なかなか復興が進まないようで憂鬱そうでしたけど、健康でした」

『なるほど。こちらからも人員を回すとしよう。……アンリ、』
アンリと相談して。

力自慢の職人を復興支援に送ることを決めたようだ。
こんな風に、フットワークの軽いトップがいるから、この国の復興も進んだんだろうな。

ルイとベルナールも、王様の決断の早さに感心していた。


ジェローム王から預かった親書を渡して。
ボール村であったことを話した。

こちらでも、動物とのは禁止したほうがいいと進言した。

『そのような変態はこの国にはいないと思うが。国民にそう伝えておこう』
変態なんだ。


そして、後ろで緊張しながら跪いているインターンの二人、ルイとベルナールを紹介した。
二人はアンリから、滞在許可証をもらっていた。


僕はそういうのもらって無いけど。
いいのかな?


†‡†‡†


「では、午後の診察があるので。これで失礼します」

今日の午後から診察を再開する、とデュランが看板を出してくれたらしい。
ドニの様子も見たいし。


『そっか。今日の晩餐は? 来られる?』
メイベルが小首を傾げた。

「残念だけど。ドニの具合が良くなるまで、念のため、城には入らないほうが良いと思う」

診察や看病をすると、ウイルスが付着するだろうし。
万が一、ということもある。可能なら、根絶したいから。


『じゃ、完全に治ったらパーティを開こうよ。その子も呼んでさ』
楽しみにしてるね、とメイベルは微笑んだ。

『看病はデュランの魔導人形に任せればよいではないか』
『陛下、子供のような我儘を言ってクロエ殿を困らせてはいけません』

アンリがルロイ王を抑えているうちにお城から退出して。
診療所に向かったら。


……いつの間にか、診察所の隣に見慣れない邸宅が建ってるんですけど。

え、これ、僕とジャンの家?
ここに住めって?

ルロイ王からのはからいだとか。

そうか。
暑苦しいほどのご厚意ありがとう……。

お城から、徒歩2分くらいかな?


うわ、診察所の前。
早くも患者が並んでいる……。

「お待たせしました。すぐ開けるので!」

診察所に飛び込むと。
中ではデュランが待っていた。


『おかえり、。君はこの国じゃなく、世界を救ったよ!』
占いの結果が出たんだ。

ってことは。
最悪の未来は、回避出来たんだ!


†‡†‡†


荷台を返しに来た兵士から、僕とジャンがボール村の処置を終えてプリマット国の城へ招待された、と知らされて。
デュランはまた、占いをしてみたそうだ。

占いの結果というのは、時間の経過や、占いを聞いた人の行動などによって変わるので。


そしたら。
この国どころか、他の国も。

病に倒れる未来はすっかり消えていたという。


どう転んでも、これ以上の被害は出ないって。
死人も最小限で済んだっていうけど。

発生源がわかっていれば、もっと多くの人を救えたかもしれない、と思うと。
やるせない気持ちになる。

でも。この先、病に苦しむはずの人を救えたんだ。
現在病で倒れている人の命も。

自分に出来る限りのことはしたと考えよう。


「そうだ、初めの村で耐性の出来た人の血から作った抗体があるんだ。これ、ドニに打ちたいんだけど」
『そりゃすごいや。僕の魔導人形でやっておくよ。君は診療所を開きなよ。患者が待ってるんだろ?』


「そうだった。ありがとう、デュラン」
『これくらいお安い御用さ』

ドニの処置が終わったら。
さっそく占いの結果をルロイ王に報告しに行くという。


よほど嬉しいのか、ぴょこぴょこ飛び跳ねてる。
僕も嬉しい。

自分の知識が役に立ってよかった。
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