オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙

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リヒト

伝染病、発生

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診療所以外の施設も、着々と完成していっているようだ。

完全に隔離出来る病室、大勢を収容できる病室。
厨房、トイレなど。

僕とジャンの居住スペースは、今のところ、病室の一角を使用しているけど。
後でちゃんとしたのを作ってくれるそうだ。


『頼まれてた粉薬と丸薬、出来たよ』

デュランが紙に包まれた薬を手に、診療所に顔を出した。
痛み止めや咳止め、熱冷ましなどの薬だ。

白血球が病原菌などと戦う際に身体の熱を上げて代謝を進め殺菌しようとするため、下手に熱を冷ましてはいけないが。
さすがに高熱が何日も続く場合には熱冷ましが必要になる。

「ありがとう。とりあえず、風邪の対策にはこれで大丈夫だと思う」
『追加が必要なら言って。すぐ作るよ』


†‡†‡†


診療所にはメスや医療用ハサミ、ピンセット、注射器などの道具、消毒用アルコールに滅菌ガーゼや包帯もある。
ちょっとした怪我や病気なら対処できるだろう。

気軽に来れるよう、そういう患者も受け入れ可としている。


今までは、軽いケガや病気で自分で何とかしていたし。重い病気は諦めて放置してしまうか、魔法使いの医療魔法に頼っていた。
そのため、この国に医者や、治療専門職はいなかったという。

僕がこの国初の、”医者”になるのか。

ただの薬学部の院生だっていうのに。
医療魔法も何とか覚えたから、何とか詐称にはならないけど。

何だか後ろめたい気持ちもある。

入院施設があるのは、本当は”病院”だ。
でも、診療所、って名称が一番しっくりくる感じだ。昔見た孤島にある診療所のイメージが大きいかも。


新しくできたこの診療所、早くも、かなり評判が良いらしい。

患者の口コミで。
日に日に咳や熱以外で来る患者も増えてきた。

それは好都合でもある。
ここに来れば体調が悪くても治る、と有名になれば。

躊躇していた人も来てもらいやすくなるだろう。

王命といっても、たかがこのくらいでお世話になるのは申し訳ない、と。
行くのを遠慮していた国民も多かったようだ。


僕はクロエ先生とか、こども先生と呼ばれてる。

確かにこの国じゃ、見た目は子供っぽいけど。
子供にまでこども先生と呼ばれるのは納得いかない。


†‡†‡†


『クロエ先生が処方されるお薬はよく効くとうちの村でも評判ですよ』

タウリン不足で目が悪くなったネコの獣人が、お礼に来ていた。

ツガイの夫が犬の獣人だったため、栄養が偏ってしまっていたようだ。
それで、薬を処方して。
偏らないメニューの提案をした。

「いえいえ、だいぶ良くなりましたね。僕も嬉しいです」


この国に来てくれたことと、僕を呼んでくれた国王に心から感謝する、と言って帰っていった。
人から感謝される仕事というのもいいものだな、と思った。

薬学部に通ったのも、無駄ではなかった。
両親に感謝しなくては。


午前中の診療が終わり。
まったりと食後のお茶を飲んでいた時だった。


『先生、急患だ!』
ばたばたと慌ただしい足音がして。

棒とシーツで出来た即席担架に乗せられた子供が運ばれてきた。


暁の森フォレアラゥブ付近で倒れていた』
意識が無く、物凄い高熱だという。


”解析”してみると。
この世界にはまだデータのない病原菌が原因の高熱、と出た。

だ!」

『例の伝染病か!?』
ジャンに頷いてみせる。


急いで患者を運んできた二人を”解析”して。
二人はまだ、体内に菌を取り込んでいないことを確認。

手を消毒、うがい薬でうがいをさせて。
着ていた服を消毒するため、着替えてもらう。


突然の緊迫した状況に動揺している二人に。
これは伝染性の病気だけど、適切な処置をすれば伝染しないので安心するよう言った。

それと、しばらく暁の森には誰も近寄らないよう、近隣住民に報せて欲しい、と。


†‡†‡†


午後の診察を待っていた他の患者に、やっつけで悪いけど、ざっと医療魔法をかけて。
今日の診察は休診、明日も休むかもしれないことを伝える。

みんな、これはただごとではない、と気取ったようで。
他の患者にも伝えておく、と言ってくれた。


隔離用の病室に子供を運んで。

詳しく”解析”した結果。
子供は、獣人じゃないことがわかった。

この世界には、普通の人間もいるって言ってたっけ?
隣の国から来たのかな?


子供の唾液を採取して。解析の魔法で詳しく見てみる。

結果、細菌由来の感染症ではなく、ウイルスだった。
インフルエンザウイルスに似たもののようだ。

人間の住む国で発生したのかな?

飛沫感染、接触感染に注意しておかなくては。
インフルエンザは床に落ちたウイルスも、70時間は生きていて感染可能だったし。

とりあえず、床も消毒しておかないと。


ジャンは、子供が自力では水を飲めないほど衰弱しているので、生理食塩水を点滴している。


†‡†‡†


しばらくして、子供が目を覚ました。

『助けて、』
「大丈夫。もう助かるよ。今、病気が治るよう治療してるからね」
安心させるように声を掛けると。

子供は、首を横に振って。
すがるような視線を僕たちに向けた。

『おねがい、家族を、村を、助けて』


少年の名前はドニといって。
暁の森フォレアラゥブを抜けた先にある隣国。

プリマット国との国境付近にある、ボール村に住む子どもだった。


まず、隣の村の大人達が謎の病に倒れて。
医者を呼んでも原因不明。

やがて医者までも謎の病に倒れた。
そうなると、もう医者すらも近寄らなくなった。

体力のない老人や、幼い子から死んでいったそうだ。
わずかに生き残った元気な者が、自分たちの村に助けを求めに来たので、特に警戒もせず受け入れたという。


しばらくして。
隣村を蝕んだ病気は、自分の村にも蔓延していった。

原因不明の病によって多くの村人が死んだ隣村は、国王の命令により家屋ごと焼かれた。


このままでは自分の両親や村の人もそうなると思って、助けを呼びに飛び出したはいいが。
森で迷っているうちに病が進行して、倒れたという。
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