上 下
15 / 74
リヒト

魔法の属性

しおりを挟む
デュランは本棚から一冊の本を取り出した。
大きくて重そうだ。


『この本の表紙に手を置いて』
言われるまま、本の上に手を置くと。

本全体が。
眩く光りだした。


『いいよ、手を離して』
本から手を離すと。

光を放ったまま、勝手に本の表紙が開いた。光が強いページと、弱いページがあるようだ。
デュランはそれを見て、納得したように頷いた。

『ああ、やっぱり一番光が強いのは医療魔法だね。次に植物、土、水……。だいたいの魔法は使えるけど、攻撃系はさっぱりだ。あ、通信魔法も取得できそうだよ。良かったね』


†‡†‡†


この本は、魔力の属性を調べるものらしい。
一番光が強いページに記載されている魔法が、最も得意な魔法だという。

通信魔法が使えるってことは、元の世界にいる家族に、連絡可能だってことか。
一番の懸念が解決しそうで、ほっとする。


「……デュランさん、どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」

ローブを被ってても、声が嬉しそうだし。
にこにこしてるのがわかった。

『だって。僕の得意分野とは被らないのに、不得意分野が得意な同僚が出来たんだ。そりゃ嬉しいよ』

デュランはこの国で唯一の”魔法使い”だったので。
今まで苦手なことを無理矢理やらされて辟易していたという。

なるほど。
ライバルにはならない同僚が出来たわけか。

僕は素直に喜べないけどね!


デュランは棚から僕が使えそうな魔法の魔導書を数冊抜き出し、渡された。
内容を頭に叩き込めと言われた。

異世界の文字が読めるか心配だったけど。

さすが魔導書というか。
文字はわからないのに、見るだけで内容が頭に入ってくる。不思議だ。


†‡†‡†


『これは、魔法の才能がないと、文字も見えない。クロエはこんなにたくさんの本が読めるのか。凄いな』
ジャンが僕が読んでいる医療魔法の魔導書を覗き込んだ。

「ジャンさんには、どう見えてるのこれ?」
『俺は医療系魔法を少し使えるから、この本なら、少し読める』

「えっそうなの!?」
魔法の才能がある人って、かなりレアっぽいイメージだったけど。

『J・Jは成人してすぐ、名誉ある森林管理人に選ばれたくらいだからね。魔法の才能はあるよ。ちょっとだけね』
デュランはちょっと、の部分を強調して言った。

森林管理人ってこの国じゃ名誉職なの?
教えてよ!


魔法がいくらか使えても、魔法使いになれる訳じゃないのか。

どれか一冊でも、全部のページを読めないと駄目なんて。
ハードル高いな。

不得意とはいうものの。
だいたいの本が読めて、魔法を一通り使えるというデュランは凄い魔法使いみたいだ。

先の戦争でも、前線に出て戦っていた生き残りだっていうし。

今までポンコツ魔法使いだと思ってたデュランの印象が一気に変わったよ。
そこは素直に尊敬しておこう。


『クロエにも何度か治療魔法を使ったが。気づかなかったか?』

そういえば。
転んで足を挫いてたはずなのに、起きたら痛くなかった。

それって、ジャンが治療してくれたからだったんだ。


噛みすぎた首筋や、痣みたいになったキスマークや歯型も消した?
知らないよそんなの!

あと、そういうこと、人前で言うのやめて欲しいんだけど。


†‡†‡†


魔導書はしばらく貸し出してくれるというので。
ジャンに、客室に運んでもらった。


夕食の時間だというので、食堂に呼ばれた。

今日はデュランも同席するようだ。
食事の合間、王様に新たにわかった占いの結果とか、僕が魔法を覚えることとかを報告してる。


『なんと、賢いとは思っていたが、クロエは魔法の才能もあったか。ならば災禍が過ぎたのちはここで働くといい。J・J、城に住居を設けるか? 森へはここから通えばよいだろう』

デュランも住み込みだし。
魔法使いは基本、城に常駐するもののようだ。

王様の誘いに、ジャンは前向きに検討するようなことを答えてた。


かなり楽観的な王様だな。
気が早いよ。

伝染病が、実際どんなものかわからない内は、まだ安心できないんだけど。

絶対に僕がどうにかするだろう、って信頼されてるのかな?
救世主だから?

プレッシャー半端ないわ!
僕はまだ、学生なんだってば!


「とりあえず、明日は森の植物を見てみたいと思ってます。薬になりそうな草とかを探したいので」

散策には、森林管理人のジャンと。
護衛として、パーシヴァルが一緒についてきてくれるそうだ。


明日も城内を案内したかったメイベルは残念そうだったけど。
国の危機を回避するためなので我慢する、と言った。

『僕たちも、協力できることはいくらでもお手伝いするから、何でも言ってね?』
「ありがとう。その時は遠慮なくお願いするね」


『薬作りには僕も協力するよ。というか、異世界の薬の作り方とか見たいし』
デュランが手を挙げた。

それはありがたい。


†‡†‡†


「あ、そういえば毒薬について、ちょっと尋ねたいことが……」

毒も使いようによっては薬になる。
蛇の毒から血清を作ったりするし、神経毒も少量なら痛み止めになったりする、という話をした。

『へえ、毒にも平和的な使い方があるんだねえ』
デュランは感心している様子で言った。

ええ……。
今まで、平和的じゃない使い方しかしてなかったのか……。


猛毒細菌界トップ3に入るボツリヌス菌ですら、ボトックスとかいって美容に利用したり。
毒物の平和的活用法は色々あるんだ。

今は倫理的に許されていない、人体実験・動物実験など。
たくさんの犠牲の上で、現代の医療は成り立ってる。


理論的に成分を分析して、効能を予想できても、実際に誰かが試さないと本当の効能はわからないものだ。数年たって副作用が現れるものだってある。
年齢や体格によっても許容量は変わるし、アレルギー、体質などの問題もある。


麻酔薬ができる前までなんて、麻酔なしで手術をしていたんだよな。
今でも投薬で失敗することはあるし。

麻酔がどうして効くのかも、まだ理論的に証明されてはいないんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで

キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────…… 気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。 獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。 故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。 しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?

処理中です...