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登山していたら赤龍王のツガイにされました。

初めての夜

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夏国に着いたら。


『お帰りなさいませ』
使用人たちが全員揃って、出迎えてくれているようだ。

何百人いるんだ?
随分大勢居るんだな。

一国の王だからか? 皇宮だともっと居るのかな。やたら広かったし。


『今日から我が妃となった、朔也だ』
朱赫が皆に紹介した。

妃か。
男の嫁もアリな世界なんだな。望ちゃんもそうだし。

王族は子供作っちゃいけないルールがあるそうだから、そうなったとか?


「今日からお世話になります。よろしく」
挨拶すると。

一斉に、拝礼された。
おお、すごい統率の取れた使用人だなあ。

白い服に、赤いラインが入ってる。
警備兵っぽい人も、帯は赤だ。

夏国は赤龍の国だから、赤が国色なのかな?


『先に告げた通り、朔也は異世界の人間なので、入浴や着替えなどの世話は不要だ。部屋付きは……』

一人の女官が、前に出た。

美琳メイリンか。慣れぬ事が多いだろうが、不自由のないようにしてやりたい。よろしく頼む』
はい明白了かしこまりました


あ、あの時の。
初めてここに来た時見た女官だ。

やっぱ中国語とダブって聞こえるなあ。

龍玉を取り込んだことで、世界の言語が理解できるようになるらしいんだけど。
半端に中国語の知識があるせいかな? 知ってる言葉は中国語で聞こえるのかもしれない。

龍たちの名前も漢字だし、発音がどうも中国語っぽいんだよな。

何箇所か異世界と繋がってるようだし、あっちと言葉とか文化とか、同じところがわりとあるのかも。
どっちが先かはわかんないけど。

これ、歴史学者が知ったら発狂モンだよ。色々な常識が引っくり返るもんな。
うちの大学の教授に見せてやりたいくらいだ。


そもそも、ここの大地が常識から外れてるし……。
浮く大陸って。ラピュタかよ。


*****


『じゃ、また後で』
俺の肩をぽん、と叩いて。

朱赫は別の部屋に行くようだ。
ちょっと寂しい。


『では、こちらへ』
美琳の案内で、部屋に向かう。

廊下をしばらく歩いて。

そちらは居間、とか応接室とかそこを真っ直ぐ行けば会議室、とか説明しながら歩いてくれている。
こっちは基本的に、平屋建てなんだな。


屋敷の奥の方にあるのが、王妃の間らしい。

おおぅ、天蓋付ベッドだ。ゴージャス!
こっちの掛け布団には刺繍は入ってないのか。

でも、ふかふか布団だ。良かった。


『こちらが王妃様専用の浴室でございます。着替えはこちらにございますので、脱いだものはこの籠へ』
浴室に案内された。

へえ、専用の浴室まであるんだ。
古代中国だと薄衣を羽織って入浴するけど。ここは違うのか。


細かく使い方を教えてくれて。
身体を磨いて、寝台で朱赫が来るのを待ってるよう言われた。

……ん?

身体を磨いて……ベッドで……待つ?
何故?


……あっ。


*****


『私はこれで失礼します。御用がありましたら備え付けのベルを鳴らしてくださいませ』

「あ、はい。ありがとう」
美琳は礼をして、浴室から出て行った。


うぎゃああああ!
辺りを走り回って、叫び出したくなった。

そうだった。
今日は、結婚式で。

言うなれば、今から……初夜ってことになるんだった。
結婚したんだもんな。

そりゃ、そうなるよな。


仕度を終えたら、朱赫が来て。
……するのか。セッ……、あれを。朱赫と。

ひえええ。
どうしよう。心臓がバクバクしてきた。

と、とりあえず、風呂に入ろう……。


おぅ……、風呂に赤い薔薇の花びらが浮いている……。
新婚仕様ですかそうですか。

かけ湯をして、湯船に浸かろうとしたら、かなり深かった。
何で湯船がこんな深いんだろう。

座って浸かれない……。いいやもう、泳いじゃえ。

ここの人たちは、みんなガタイがいいし。女の人も座高が高いのか?
朱赫なら、肩が出るくらいかな。


浴室全体、いい匂いがする。

入浴剤も薔薇なのかな。お湯がピンク色だ。
何だろうこの、今からえろいことしますよ、みたいな雰囲気作り。

うう……。


頭まで沈んで。ぶくぶく空気の泡が上昇していく。

うん。
座ったら駄目だこれ。

「ぷはぁ、」
浮上して。


ああ、余計頭に血が回ってしまう。


*****


『……大丈夫か、朔也!?』

うわ、朱赫。
早いな!


振り返ったら、ほっとした様子で。

『良かった。溺れたのかと……』

朱赫は髪をゆるく縛っていて。
湯上りらしく、浴衣のような着物一枚だった。

湿って、やや乱れた髪。やたら色気がある。


溺れてたんじゃなくて、座れないから泳いでた、と言った。

『そうか、朔也には深かったか』
朱赫は着物を脱いで、湯船に入ってきた。


ちょ、ちょっと待ってください。
は、裸ですよ、裸。

思わず向こうを向いてしまった。


高校まで心臓を患っていたので、修学旅行も参加したことがないし、銭湯にも入ったことがない。
高温のお湯は心臓に負担が掛かるから。

家族以外の人の全裸なんて、初めて見る。


……いい身体してた。
うわあ。


*****


『朔也……、』
「ひゃ、」

持ち上げられて。
朱赫の膝の上に乗せられた。

『こうすれば、ちょうどいいだろう?』
確かに、そのようだけど。

近い。
っていうか密着してる。肌が。


腰に手を回されて。
『……この日が来るのを、ずっと待ってた』

嬉しそうな声。
背中に当たった胸板から、どくどくと、速い鼓動が伝わってくる。

朱赫も、ドキドキしてるんだ。
こういうの、慣れてそうな感じなのに。


「っ、」

首に、鼻先を埋めて。
肩を舐めてる。

うわ、お尻に、当たってる。

これ、朱赫の……だよな。
……でかくないか!?


『これは?』
胸の、手術痕に触れている。

事故で負った怪我は綺麗に治ったけど。
古傷はそのまま残っていた。

「心臓の、手術痕だよ。……あんま見ないで。気持ち悪いだろ?」

何度かに分けてしたので、でこぼこしてる。
ミミズみたいで、自分で見ても気分のいいものではない。


『気持ち悪いわけがない。……これは、朔也が頑張った証だろう? これのお蔭で、今こうして健康でいられるのだし。……とても愛おしいものだよ』

朱赫。
そう言ってくれると。

手術して。生きてて良かったって、本当に思える。
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