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登山していたら赤龍王のツガイにされました。

皇宮にて

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「青峰、朱赫。そんなところで何してるの?」


日本語!?
はっきりとしたが聞こえた。

二人の言葉は、どこかエコーが掛かったように聞こえるが。今のはクリアな音だった。

『望殿。俺にもようやくツガイが見つかったんだ。望殿と同じ、異世界人だよ。……朔也』
さっき初めて名前聞いた癖に、前から知ってたみたいに呼ぶな。


望殿と呼ばれたのは、これまた美少年だった。

黒い髪に大きな黒い目。ちっちゃくて可愛らしい。男だけど、庇護欲を掻き立てるタイプというか。
この子も異世界人なのか? と思ったけど。

深町ふかまち のぞみだよ。よろしく」
ぺこりと頭を下げられた。

ああ、これは間違いなく日本人だ。
何か安心する。


*****


望ちゃんは地味な深衣を着ているが。
良く見れば裾や袖に、見事な銀の龍が刺繍してある。

そういえば、青峰さんの服にも緑の龍の刺繍が入ってるな。こちらは手縫いっぽいけど。

『ああ、望殿の作品と比べないでください。拙くて、お恥ずかしい……』
俺の視線に気付いて。

青峰さんは恥ずかしそうに、望ちゃんの後ろに隠れた。
背がでかいから隠せてないが。


あれ、自分で刺繍したのか。
望ちゃんの服の刺繍、プロの商品じゃなかったんだ。凄いな。

服の模様、皇帝は龍、皇后は鳳凰、文官は鳥、 武官は四本脚の獣だったりするけど。
ここは異世界だから、そういう階級とか関係ないのか?


「そういや朱赫の家の布団も、赤い龍の刺繍してあったっけ。あれもお手製だったり?」

布団がふかふかだったのも、望ちゃんによりふかふか布団文化が輸入されたからだったりして。
枕もクッションみたいだったし。

『うん、俺が作って刺繍したものだよ』
全部お手製かよ!

「マジか。上手いな……」
俺は不器用なので、ああいうのは無理だ。

『そうかな? ありがとう』
朱赫は笑顔だ。

何でさっきからそんなにご機嫌なんだ、あんた。


望ちゃんは、頬を染めている。
はっ。
朱赫の家の布団の話なんかしたから。ヤったって誤解したのだろうか?


違います、誤解です!!


*****


『皆、このような所で立ち話などして、どうした?』

『陛下』
「あ、雷音」


雄のフェロモン駄々洩れな美声の持ち主は、これまたゴージャスな男前で。
何と、皇帝陛下だった。

ホァン 雷音レイン陛下は望ちゃんのツガイで。
金色の龍なんだそうだ。

へえー。金龍か。ゴージャスな龍だな。最強のゴッドドラゴンって感じ?

金色の髪に、金色の目。浅黒い肌の、男らしいイケメンだ。
何なんだよこの世界、イケメンパラダイスか。しかもみんな背が高い。


しかし、望ちゃんとこの人だと、あまりにも犯罪的な体格差じゃないか?
いや、具体的に想像はしないが。

まあ、ツガイといっても、手を出してなければセーフか。


朱赫は陛下にも、同じような説明をして。

『それはめでたい。元白たちも、先を越されたとさぞ悔しがるだろうが。式は、ここの式殿を使えばよい』
『ありがたき幸せです』
朱赫は拝礼して。

おめでとう、とかみんなに言われているが。

……ちょっと待って欲しい。

何か、俺と朱赫が結婚式を挙げる流れになってるような気がするんだが。
俺の意志も聞かずに。


*****


「あの、あっちの家族とか、大丈夫? 俺は向こうには家族もいないし、未練もないからいいけど……」

望ちゃんが俺の傍に寄ってきて。
伺うように尋ねてきた。


ああ、やっとまともな感性の人がいた! 神様ありがとう!

感動のあまり、抱きつきたいけど。
我慢する。

皇帝陛下のツガイに気安く触れる訳にはいかないだろう。


「大丈夫も何も、俺、酸欠で気を失ってる間に異世界に連れて来られて、訳がわからない内にここに来たんだけど……」
酸欠の理由は言えない。

「ええっ!?」
飛び上がらんばかりに驚いていた。

だよねー。
びっくりだよな。


「相手の意志も確認せず異世界に連れてきたらダメだから!」

『返す言葉もありません……』
朱赫は、望ちゃんから叱られて、しょげている。

『いくらツガイであろうと、意志の確認もなく連れて来てはいかんだろう』

陛下からも怒られてやんの。
ははは。

……そんなしょげるなよ。かわいそうになってきた。

「…………」
望ちゃんは、お前が言うな、みたいな顔で雷音陛下を見ていた。


ああ、こっちもそんな感じだったのか。

陛下はその視線に気付いて、あわあわしている。
おお、どう見ても尻に敷かれている……。


*****


「とにかく俺はまだ学生の身だし。卒業するまでは結婚は出来ないよ。授業料が無駄になるし」


俺の発言に、皆、首を傾げた。

『卒業すれば、してくれるのかな?』
朱赫に訊かれて。

ん?
そういえば。絶対嫌だ、とは思わないな。

キスされても、気持ち悪くはなかった。
息が出来なかったけど。


運命のツガイ、というやつだからだろうか?
何で説明しないんだ、とか本人の意思を確認しないんだ、ってムカついたけど。

ま、いいか。


「いいよ。卒業したらな」
朱赫はやったー、と大喜びして。

よかったですね、と青峰さんに言われてる。
何か、ここの人って、みんないい人たちっぽいな。


「え、いいの!?」
望ちゃんは驚いている。

「とりあえずやりたいことはやったし、いいかな、と」

入りたかった大学には入った。
登りたかった山にも登れた。
見るべき程の事は全て見つ、みたいな感じだろうか、と言うと。

「人生諦めた人みたいなこと言ってる!」

おお、平家物語が通じたか。
見た目より子供じゃないのか?


「うーん、俺さ。心臓が悪くて、高校の時に成功率3割くらいの手術して健康体になったんだ。だから今の人生、ボーナスステージみたいな感じなんだよな。余生っていうか」
「いやいやいや、よく考えようよ。永遠のパートナーだよ!?」

何でそんなによく考えろ、と言うのかと思ったら。


龍の王族と結婚すると。
相手が死なない限り、ほぼ永遠の時を生きることになるらしい。

自分は二十歳の時に結婚したけど、結婚するまではかなり悩んだって。

マジかよ。
望ちゃん、そんな高校生みたいな顔して二十歳過ぎなのかよ! ……じゃなくて。


不老不死とか、それ何て中二病?
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