人生に絶望した俺が異世界で龍のツガイにされるなんてこれはきっと悪い夢に違いない。

篠崎笙

文字の大きさ
上 下
34 / 61
ツガイのつとめ

心ばかりの

しおりを挟む
羅刹の国の剣舞に続いて、鳳凰の舞が始まる。


隆鳳夫妻と、天女のような格好をした女性達が華麗に舞い踊っている。
夢のように綺麗な光景だ。

迫力満点な剣舞とは正反対というか好対照の、優美な舞。
これも素晴らしい。


……あれ?
結婚式のときより何か、やたらと気合入ってない?


『うむ。羅刹の見事な舞に刺激されたのだろうな』
本気を出したという事か。

『……それと、おそらく……』

何だよ。
言葉を濁すなよ。


*****


美しい舞に、またまた拍手喝采。


舞を終えた隆鳳夫妻が、挨拶に来た。
やり終えた! って感じの、いい笑顔だ。

『素晴らしい舞であった』
『ありがとうございます。指輪の交換とは、素敵な催しですね。私も妻に何かを贈りたいと思いました』

隆鳳と目が合う。

期待に満ちた目をしている……。
あ、ハイ。

「あの、これ、もしよかったら、」
用意していたプレゼントを渡す。

『あ、いえ、決してそんなつもりでは、……ああ、何と素晴らしい……!』
『わたくしにまで……! ありがとうございます!』

お揃いの鳳凰クッション、喜んでくれたようだ。

嬉しそうにクッションを抱き締めて。
二人はうきうきした足取りで下がっていった。


『前回、予想外のご褒美を貰えたので、頑張ったのだろう』

ああ……。
なんていうか、わかりやすくてかわいいね。鳳凰も。


麒麟の国は、桃の酒とジュースを持って来たという。

手ぶらでいいって言ったのに。
嬉しいけど。

蓮麒には、もう一つ欲しいと言ってた麒麟クッション。
剛麒には、俺から話を聞いて以来、興味津々だったドリームキャッチャーをあげた。


やっぱり反物を持ってきたという飛陽には、九尾の狐のクッションと、聖獣たちの根付。
想像図だから似てないかもというと、今度紹介してくれるらしい。

それと、反物を織る工場を見学したいと言ったら、是非いらして下さい、と言われたので。
訪れるのが、今から楽しみだ。


*****


心ばかりの品だけど。
みんな喜んでくれたようでよかった。

国の間で祝いの品を贈ることはあっても、個人的に純粋な感謝の気持ちでプレゼントを贈る、という習慣がなかったそうで。

みんな大袈裟に喜びすぎだと思ってたけど。
初めてのプレゼントで、本当に喜んでくれてたんだ。


冬雅が、練習用の翡翠の玉を青峰にあげれば喜ぶだろう、と言ったのは。
失敗してひどい出来でも、翡翠ならまあ捨てないで受け取るだろう、くらいの気持ちだったらしい。

わりと酷い。


魚石の周りには、人が集まってて。
龍帝は素晴らしいツガイを得た、とか話してる。

いやいや、どう考えても俺が玉の輿でしょう。

皇帝陛下のツガイに相応しい自分には、まだ程遠い。
頑張らないと。


自分の左の薬指を見る。

金色の、結婚指輪。
金ではなく、金色の鱗からできてるからか、どことなく透明感があって、すごく綺麗だ。

……そっか。これが、雷音が生まれて初めて、誰かに贈ったプレゼントになるのか。
嬉しいな。


そういえば、裏には何て彫ったのかな、と見てみる。
どれどれ。

我永远ウォーヨンユエン爱你アイニー

同時通訳のように。
日本語で、文字が浮かんだ。


……永久とこしえに、君を愛す。


*****


うわあ。
慌てて指輪を指に戻した。

今見ちゃいけないやつだ、これ。


俺は、”俺の一番は雷音だよ。望”だ。
子供かよ。

だって。
愛の言葉とか照れるし……!

愛してる、とか。真顔でそんなの彫れないし! これが今の俺の精一杯なんです……!
って、誰に言い訳してるんだ俺。


『望、これは、あちらの言葉だな。何と書いたのだ?』

ひいいい!
そんなの、人前で言える訳ないだろ!?

俺はこっちの言葉が理解できたり読んだり可能だけど。
雷音は駄目なのか?

何でだ。


「ひ、秘密……」
思わず視線を明後日の方向へ。

『そういえば、青峰は向こうの言語を研究していて読めたな』
人に見せるのはやめてえええ!!

腰を上げようとした雷音の上衣を掴む。
「……後で教えるから」

『ふむ。それは楽しみだ』


いや、そんな期待するほどのラブな言葉じゃないけど。
稚拙すぎて、恥ずかしいんだよ!


*****


そんなこんなで。
龍の国初の、指輪交換式披露宴はつつがなく終わったのだった。

平和が何より。よかったよかった。

『おにぎりとやらの話も、じっくり聞かせてもらおう』
覚えてるし。


おにぎりは、誰もいなかったから、お腹を空かせた可畏に作って食べさせたんだと言ったら。
そんなの自分も食べたことなかったのに! と拗ねるので。

作った。
唐揚げと、温めのお茶も。

作る様子を間近で見てるもんだから、やりにくくて仕方ない。
全く。かまってちゃんで甘えん坊なんだから。

かわいいな!


「はいどうぞ、召し上がれ」
おにぎりの皿を出す。

『うむ。いただくとしよう』

無言でもぐもぐ食べている。
品があるのに、いい食べっぷりだ。


あっという間に、皿が空になる。

ご馳走様、と手を合わせたと思ったら。
突然、雷音は机に突っ伏した。


『……惚れてしまうだろうが!!』

ええっ!?

『このような真心のこもった美味なる手料理を食べて、惚れない男がこの世にいるか? 否、いない!!』
二重否定きたこれ。


あ、美味しかったんだ。
そりゃよかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

誓いを君に

たがわリウ
BL
平凡なサラリーマンとして過ごしていた主人公は、ある日の帰り途中、異世界に転移する。 森で目覚めた自分を運んでくれたのは、美しい王子だった。そして衝撃的なことを告げられる。 この国では、王位継承を放棄した王子のもとに結ばれるべき相手が現れる。その相手が自分であると。 突然のことに戸惑いながらも不器用な王子の優しさに触れ、少しずつお互いのことを知り、婚約するハッピーエンド。 恋人になってからは王子に溺愛され、幸せな日々を送ります。 大人向けシーンは18話からです。

メトロポリタン

暁エネル
BL
グレーの長い髪 モデルの様ないで立ちのバーテンダー 幼なじみの後輩に思いを寄せるがなかなかそれはむずかしく 一方モデルの様なキレイ人に戸惑う後輩 

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

処理中です...