人生に絶望した俺が異世界で龍のツガイにされるなんてこれはきっと悪い夢に違いない。

篠崎笙

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ツガイのつとめ

心ばかりの

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羅刹の国の剣舞に続いて、鳳凰の舞が始まる。


隆鳳夫妻と、天女のような格好をした女性達が華麗に舞い踊っている。
夢のように綺麗な光景だ。

迫力満点な剣舞とは正反対というか好対照の、優美な舞。
これも素晴らしい。


……あれ?
結婚式のときより何か、やたらと気合入ってない?


『うむ。羅刹の見事な舞に刺激されたのだろうな』
本気を出したという事か。

『……それと、おそらく……』

何だよ。
言葉を濁すなよ。


*****


美しい舞に、またまた拍手喝采。


舞を終えた隆鳳夫妻が、挨拶に来た。
やり終えた! って感じの、いい笑顔だ。

『素晴らしい舞であった』
『ありがとうございます。指輪の交換とは、素敵な催しですね。私も妻に何かを贈りたいと思いました』

隆鳳と目が合う。

期待に満ちた目をしている……。
あ、ハイ。

「あの、これ、もしよかったら、」
用意していたプレゼントを渡す。

『あ、いえ、決してそんなつもりでは、……ああ、何と素晴らしい……!』
『わたくしにまで……! ありがとうございます!』

お揃いの鳳凰クッション、喜んでくれたようだ。

嬉しそうにクッションを抱き締めて。
二人はうきうきした足取りで下がっていった。


『前回、予想外のご褒美を貰えたので、頑張ったのだろう』

ああ……。
なんていうか、わかりやすくてかわいいね。鳳凰も。


麒麟の国は、桃の酒とジュースを持って来たという。

手ぶらでいいって言ったのに。
嬉しいけど。

蓮麒には、もう一つ欲しいと言ってた麒麟クッション。
剛麒には、俺から話を聞いて以来、興味津々だったドリームキャッチャーをあげた。


やっぱり反物を持ってきたという飛陽には、九尾の狐のクッションと、聖獣たちの根付。
想像図だから似てないかもというと、今度紹介してくれるらしい。

それと、反物を織る工場を見学したいと言ったら、是非いらして下さい、と言われたので。
訪れるのが、今から楽しみだ。


*****


心ばかりの品だけど。
みんな喜んでくれたようでよかった。

国の間で祝いの品を贈ることはあっても、個人的に純粋な感謝の気持ちでプレゼントを贈る、という習慣がなかったそうで。

みんな大袈裟に喜びすぎだと思ってたけど。
初めてのプレゼントで、本当に喜んでくれてたんだ。


冬雅が、練習用の翡翠の玉を青峰にあげれば喜ぶだろう、と言ったのは。
失敗してひどい出来でも、翡翠ならまあ捨てないで受け取るだろう、くらいの気持ちだったらしい。

わりと酷い。


魚石の周りには、人が集まってて。
龍帝は素晴らしいツガイを得た、とか話してる。

いやいや、どう考えても俺が玉の輿でしょう。

皇帝陛下のツガイに相応しい自分には、まだ程遠い。
頑張らないと。


自分の左の薬指を見る。

金色の、結婚指輪。
金ではなく、金色の鱗からできてるからか、どことなく透明感があって、すごく綺麗だ。

……そっか。これが、雷音が生まれて初めて、誰かに贈ったプレゼントになるのか。
嬉しいな。


そういえば、裏には何て彫ったのかな、と見てみる。
どれどれ。

我永远ウォーヨンユエン爱你アイニー

同時通訳のように。
日本語で、文字が浮かんだ。


……永久とこしえに、君を愛す。


*****


うわあ。
慌てて指輪を指に戻した。

今見ちゃいけないやつだ、これ。


俺は、”俺の一番は雷音だよ。望”だ。
子供かよ。

だって。
愛の言葉とか照れるし……!

愛してる、とか。真顔でそんなの彫れないし! これが今の俺の精一杯なんです……!
って、誰に言い訳してるんだ俺。


『望、これは、あちらの言葉だな。何と書いたのだ?』

ひいいい!
そんなの、人前で言える訳ないだろ!?

俺はこっちの言葉が理解できたり読んだり可能だけど。
雷音は駄目なのか?

何でだ。


「ひ、秘密……」
思わず視線を明後日の方向へ。

『そういえば、青峰は向こうの言語を研究していて読めたな』
人に見せるのはやめてえええ!!

腰を上げようとした雷音の上衣を掴む。
「……後で教えるから」

『ふむ。それは楽しみだ』


いや、そんな期待するほどのラブな言葉じゃないけど。
稚拙すぎて、恥ずかしいんだよ!


*****


そんなこんなで。
龍の国初の、指輪交換式披露宴はつつがなく終わったのだった。

平和が何より。よかったよかった。

『おにぎりとやらの話も、じっくり聞かせてもらおう』
覚えてるし。


おにぎりは、誰もいなかったから、お腹を空かせた可畏に作って食べさせたんだと言ったら。
そんなの自分も食べたことなかったのに! と拗ねるので。

作った。
唐揚げと、温めのお茶も。

作る様子を間近で見てるもんだから、やりにくくて仕方ない。
全く。かまってちゃんで甘えん坊なんだから。

かわいいな!


「はいどうぞ、召し上がれ」
おにぎりの皿を出す。

『うむ。いただくとしよう』

無言でもぐもぐ食べている。
品があるのに、いい食べっぷりだ。


あっという間に、皿が空になる。

ご馳走様、と手を合わせたと思ったら。
突然、雷音は机に突っ伏した。


『……惚れてしまうだろうが!!』

ええっ!?

『このような真心のこもった美味なる手料理を食べて、惚れない男がこの世にいるか? 否、いない!!』
二重否定きたこれ。


あ、美味しかったんだ。
そりゃよかった。
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