人生に絶望した俺が異世界で龍のツガイにされるなんてこれはきっと悪い夢に違いない。

篠崎笙

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ツガイのつとめ

指輪の交換

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鱗を加工する術を教わって。
雷音の指を見ながら、大きさを調節する。

お揃いの、シンプルなデザインにしようと二人で決めた。
結局、そのほうが飽きがこないだろうし。


「でね、指輪の内側にメッセージを入れたりするんだよ。お互いのイニシャル……ええと、名前を書いて。愛を込めて、とか」
『ほう。互いにしかわからぬ愛の告白か』

じゃあ、当日まで内緒で指輪にメッセージを入れよう、ということになったんだけど。


「え、そんな大々的にやるの!?」

また、他の国も招待して、盛大に祝うらしい。
指輪交換会という名目で。

でも、もう結婚式はやっちゃったし。
内々うちうちでよくない?


『羅刹国のこともありますし、皆、賛成でしたよ?』

羅刹国の女王も呼んだので。
これを機に、実際に会って、和解してもらおうという試みだそうだ。


そうだな。
直接会って、話してみれば、どういう人たちかわかるだろうし。

悪意があって襲ったわけじゃないって、分かり合えればいいな。


じゃ、俺の服も仕上げちゃおう。雷音と色違いのお揃いなやつ!
と、張り切っていたら。


*****


『すみません……、私のものまで……』
青峰が申し訳なさそうに頭を下げた。

「いいよ。みんなお揃いのデザインにしよう?」


自分も蔽膝に刺繍が欲しい、と元白にねだられて。
結局、四王みんなの蔽膝にそれぞれの色の龍を刺繍することになった。

こっちにもお針子さんというか、服を作ったりする専門の職人もいるんだけど。

王の龍姿をかたどるなど、とんでもない! 畏れ多い! と言うので。
俺が縫うのである。

なんでも、緊張して手が動かなくなるんだそうだ。


みんな、そこまで雲の上の人、って感じはしないけどなあ。
それは俺が異世界人で、龍帝のツガイって立場だったからかもだけど。

ここで生まれた龍人にとって、龍帝や龍王って、ほんとに尊敬の的なんだな。


俺にはそういうオーラがないせいか、わりと気安く声を掛けてきてくれる。
距離を置かれるより、俺はそのほうがいいかな。

でも、身の回りのお世話は、極力断った。
それは異世界育ちだからってことで納得してもらってる。

使用人に身体を洗ってもらったり、服を脱ぎ着させてもらうなんて、どうしても無理だった。
男に襲われたトラウマのせいもあるだろうけど。

でも、女の使用人に洗わせるとか、もっと無理!


雷音とか、素っ裸のままでも堂々としてるのは、そういうので慣れてるせいかも。
まあ、あれだけ立派な肉体なら、他人に見せても恥ずかしくないんだろう。

俺は無理!


*****


機織はたおり機よりも速いですね……しかも精確ですし』

気付けば、青峰が側に寄って、俺が刺繍しているのをまじまじと見ていた。
機織り機はあるのか。

そうだよな。
布を織るのって大変だし。足踏み式かな?

今度、聖獣の国に見学に行きたいな。
鶴の恩返しみたいに、織るところを見ちゃ駄目だったりして。


『ああ、この赤龍、夏王の龍姿りゅうしそっくりですね。この、首の後ろのたてがみが長いところとか』
青峰は頬を緩ませた。

この間、全員の龍姿を見たし。せっかくだから似せてみたんだ。
気付いてくれて嬉しい。

みんな、喜んでくれるといいな。


出来上がった蔽膝を渡したら。
みんな喜んでくれた。

まだ成龍じゃない元白は、正確に似せすぎだ、とか言って拗ねたけど。
成龍になったら新しいのを作るよ、と言ったらご機嫌を直した。

成長記録みたいで嬉しいって。

手乗りサイズだった時も、かわいかったなあ。
考えてみれば、龍の成長、っていう物凄く貴重なものを見てるのかも。

カメラが無いのは残念だ。


あ、そういえば、招待客は前と同じなんだよな。
今回は単なる披露会なので手ぶらで来てください、と言ってあるけど。

まあ十中八九、何か持って来るだろうな……。


返礼品とかは、雷音が考えてくれるからいいとして。
来てくれてありがとう的な、ちょっとしたお礼の品を作っておこう。

何がいいかな。


*****


当日。

冬雅は、俺が磨いた魚石を会場に飾っていた。
由来書きまで添えてあった。

『この素晴らしい業績は、是非他国にも自慢すべきだ』
とか言って。

え、そこまでのものなの?


『ああ、これが噂の……』
朱赫が寄って来た。

じっと見詰めていたと思ったら。

『国宝指定する?』
『そうだな、これに値は付けられん。国宝にして、皇宮美術館に展示するか』
朱赫に言われて、冬雅が頷いている。


ここ、美術館とかもあるんだ……。
皇宮だけでも広いから、まだ全部の施設を回れてないんだよな。

でも、国宝指定ってさあ。朱赫も冬雅も大袈裟だってば。


『ああ望殿。それは新しい服だね。似合ってるよ。……いや、すごいなあ。見事な腕だ』
朱赫はさっそく、俺の蔽膝の刺繍に見入っている。

「うん、雷音のと色違いのお揃いなんだ」

『それは楽しみだ。陛下のは金糸なんだっけ?』
「そう。我ながら会心の出来だよ」
俺のは、襟と袖を銀の糸で刺繍してある。

『これも、ありがとう。俺にそっくりだって評判だよ』
自分の蔽膝を示して。


『私のも似てると評判だ。ほら』
冬雅も寄って来て、見せびらかしている。

『あ、本当だ。似てるなあ。この角の角度。ひげの長さといい、冬雅そっくりじゃないか』
『おお、朱赫の特徴を良く捉えている』

お互いの蔽膝を見てる。
何だかかわいいな。


龍って、ほんとかわいい。


*****


『望殿、そろそろ席に着いてください』
進行係の青峰が呼びにきた。

「あ、はーい。じゃあまた、」
二人に手を振って。雷音の待つ席に向かった。


青峰が、本日は皆様お忙しい中足をお運びいただいてまことにありがとうございます、などと始まりの挨拶をして。

『雷音陛下のツガイであらせられる望殿の故郷、異世界では結婚の際、指輪を交換されるとのことで。今回急遽宴を設けた次第でございます』

青峰の声、聞きやすくてよく通るなあ。
司会向きだ。


いよいよ、指輪の交換である。

こんな大々的にやらなくてもいいのに。
指輪の交換をするだけだよ? 恥ずかしいよ。

ああ、緊張する。


『我が最愛のツガイ、望へ。永久の愛を誓って』
雷音が、俺の薬指に金色の指輪をはめて。

「雷音へ。いつまでも仲良く寄り添えますように」
雷音の薬指に、銀色の指輪をはめた。


でも。
こうして、目に見える形で結婚を証明するのもいいもんだな、と思った。
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