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ツガイのつとめ
ツガイのしるし
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『まさか、何千年と続いた羅刹国との争いが、話し合いで解決するとはねえ』
朱赫はしみじみと頷いている。
『ええ。悪鬼と断じて、頭から話などできぬ相手だと思い込んでいましたから……』
青峰は、まだまだ世の中わからないことだらけです、と溜め息を吐いた。
『望殿の人徳あってこそだと思うが? いやあ、望殿はまさしく福の神だ。ありがたい』
冬雅はにやにやしてる。
鉄製品の使い道について、色々儲け話を思いついたようである。
『うん。俺も望に助けられたし。他の国だって、羅刹の国へというより、望の願いを叶えたくて支援物資を出したんだよ。羅刹の連中も、感謝を忘れないと思う』
元白はにこにこしてる。
『わたしのツガイが魅力的過ぎて困る』
雷音に抱き締められる。
いや、みんな、買いかぶりすぎだよ……?
*****
たまたま拾った子が、羅刹の大将で。
お腹空いてたようだから、ご飯を食べさせて。
困ってたみたいだから話を聞いただけだ。
羅刹国のしたことを許したのは、実際に戦争相手だった雷音や元白たちだし。
急いで支援物資を集めてくれたのも朱赫たちだ。
今までのことを許してくれた聖獣、神獣の国の人たちの心の広さだって、凄いと思う。
『いや、羅刹の大将をたまたま拾うっていうのが、そもそもおかしくない?』
朱赫が突っ込んだ。
「落ちそうな子供がいたら、誰だって助けると思うけど……」
『竜騎に乗ってる時点で羅刹だから、助けないと思う』
元白……。
いや俺、あれが竜騎だって知らなかったし。
今にも死にそうな子供を見捨てるとか、俺の常識にはない。
でも、大人で、敵だったらどうだろう?
うーん。
わかんないな。
死にそうだったら、つい、咄嗟に助けちゃうかも。
『元白も望殿に助けられたのですし、剛麒もそうでしょう。損得を考えず、咄嗟にそのような取捨選択をしないのが”仁”の心なのです。だからこそ、仁獣である麒麟たちも望殿を慕うのでしょう』
青峰は、にこにこと微笑みながら言った。
麒麟というのは本来、大変気難しい生き物なのだという。
剛麒は懐っこいけどな……。
「ま、何はともあれ。戦いにならなくて良かったよね」
『お手柄ではあるが。厳戒令を出しているのに抜け出した罰は受けてもらうぞ』
雷音は、俺を抱え上げた。
ええっ、俺、お仕置きされちゃうの!?
*****
竜騎が一騎、防衛線を突破したとの伝令を聞いて。
龍国に残ってる俺と剛麒をひとまず麒麟の国へ避難させようと、元白が迎えに行ったらしい。
でも、龍国には俺も剛麒もいなくなっていた。もしやと思い、麒麟の国に行ったら。
剛麒を送ってきてくれて、そのまま一人で帰った、と聞いた元白は。
慌てて雷音に報告に戻ってきたそうだ。その間も俺とは会えなかったって。
暴走竜騎から落ちた可畏を拾うために、一旦雲の下に行ったから。
すれ違ってもわからなかったのかな?
可畏を連れて龍の国に戻ったとき、何で皇宮に誰もいないのかと思ったら。
みんな、俺を探しに出てたのか。それは申し訳ない……。
まだ龍姿に慣れてないだろうし、術も使えないから。
敵に見つかり、捕まってしまったのではないかと心配していたそうだ。
『心臓が潰れるかと思ったぞ』
ぎゅっと抱き締められる。
「あれ? 俺が危ないときは、逆鱗でわかるんじゃなかったっけ?」
雷音は、今気付いた、みたいな顔をした。
『あまりに動顛して、忘れていた』
そんなに心配させちゃったんだ。
悪いことしたな。
「心配掛けて、ごめんな?」
俺の命は、俺だけのものじゃない。
雷音の龍玉……生命が、俺の中にあるんだ。
龍の愛は、一生に一人だけ。自分の生命をツガイに差し出すから。
俺の危機は、雷音の危機でもある。
それは、絶対に忘れてはいけないことだった。
黄龍大帝のツガイとして。
*****
『望が無事ならば、それでよい』
頬を摺り寄せてくる。
こんな一途でかわいい生き物、愛さずにはいられない。
雷音のツガイで良かった。
心からそう思う。
……あれ?
「抜け出した罰ってやつは?」
部下の前でこのような情けない姿を見せたくなかったので、罰を与えると言って連れ出しただけだ、という。
全く、甘すぎるよ。
「なんだ、お尻ペンペンとかされるのかと思った」
『……お尻、ぺんぺん……? それは、どのような?』
何その異様な食いつき。
目が爛々と光ってるんだけど。
「悪いことした子のお尻をペンペン叩いて叱ることだけど……」
最近は虐待とか体罰はよくない、と禁止する方向だけど。
痛みを身体で覚えないと、学べないこともあると思うんだよね。
いや、虐待まで行ったら駄目だけど。
転ばないように見守るより、実際に転んだりして。その危険や痛みを知ることも大切だと思うんだ。
『望は何も悪いことをしていないし、この小さく愛らしい尻は叩くより、心ゆくまで愛でたい』
真顔だよ。
真顔で俺のお尻撫でてるよこの人。
……全くもう。
「じゃ、いっぱい愛して?」
雷音の頬に、キスをした。
朱赫はしみじみと頷いている。
『ええ。悪鬼と断じて、頭から話などできぬ相手だと思い込んでいましたから……』
青峰は、まだまだ世の中わからないことだらけです、と溜め息を吐いた。
『望殿の人徳あってこそだと思うが? いやあ、望殿はまさしく福の神だ。ありがたい』
冬雅はにやにやしてる。
鉄製品の使い道について、色々儲け話を思いついたようである。
『うん。俺も望に助けられたし。他の国だって、羅刹の国へというより、望の願いを叶えたくて支援物資を出したんだよ。羅刹の連中も、感謝を忘れないと思う』
元白はにこにこしてる。
『わたしのツガイが魅力的過ぎて困る』
雷音に抱き締められる。
いや、みんな、買いかぶりすぎだよ……?
*****
たまたま拾った子が、羅刹の大将で。
お腹空いてたようだから、ご飯を食べさせて。
困ってたみたいだから話を聞いただけだ。
羅刹国のしたことを許したのは、実際に戦争相手だった雷音や元白たちだし。
急いで支援物資を集めてくれたのも朱赫たちだ。
今までのことを許してくれた聖獣、神獣の国の人たちの心の広さだって、凄いと思う。
『いや、羅刹の大将をたまたま拾うっていうのが、そもそもおかしくない?』
朱赫が突っ込んだ。
「落ちそうな子供がいたら、誰だって助けると思うけど……」
『竜騎に乗ってる時点で羅刹だから、助けないと思う』
元白……。
いや俺、あれが竜騎だって知らなかったし。
今にも死にそうな子供を見捨てるとか、俺の常識にはない。
でも、大人で、敵だったらどうだろう?
うーん。
わかんないな。
死にそうだったら、つい、咄嗟に助けちゃうかも。
『元白も望殿に助けられたのですし、剛麒もそうでしょう。損得を考えず、咄嗟にそのような取捨選択をしないのが”仁”の心なのです。だからこそ、仁獣である麒麟たちも望殿を慕うのでしょう』
青峰は、にこにこと微笑みながら言った。
麒麟というのは本来、大変気難しい生き物なのだという。
剛麒は懐っこいけどな……。
「ま、何はともあれ。戦いにならなくて良かったよね」
『お手柄ではあるが。厳戒令を出しているのに抜け出した罰は受けてもらうぞ』
雷音は、俺を抱え上げた。
ええっ、俺、お仕置きされちゃうの!?
*****
竜騎が一騎、防衛線を突破したとの伝令を聞いて。
龍国に残ってる俺と剛麒をひとまず麒麟の国へ避難させようと、元白が迎えに行ったらしい。
でも、龍国には俺も剛麒もいなくなっていた。もしやと思い、麒麟の国に行ったら。
剛麒を送ってきてくれて、そのまま一人で帰った、と聞いた元白は。
慌てて雷音に報告に戻ってきたそうだ。その間も俺とは会えなかったって。
暴走竜騎から落ちた可畏を拾うために、一旦雲の下に行ったから。
すれ違ってもわからなかったのかな?
可畏を連れて龍の国に戻ったとき、何で皇宮に誰もいないのかと思ったら。
みんな、俺を探しに出てたのか。それは申し訳ない……。
まだ龍姿に慣れてないだろうし、術も使えないから。
敵に見つかり、捕まってしまったのではないかと心配していたそうだ。
『心臓が潰れるかと思ったぞ』
ぎゅっと抱き締められる。
「あれ? 俺が危ないときは、逆鱗でわかるんじゃなかったっけ?」
雷音は、今気付いた、みたいな顔をした。
『あまりに動顛して、忘れていた』
そんなに心配させちゃったんだ。
悪いことしたな。
「心配掛けて、ごめんな?」
俺の命は、俺だけのものじゃない。
雷音の龍玉……生命が、俺の中にあるんだ。
龍の愛は、一生に一人だけ。自分の生命をツガイに差し出すから。
俺の危機は、雷音の危機でもある。
それは、絶対に忘れてはいけないことだった。
黄龍大帝のツガイとして。
*****
『望が無事ならば、それでよい』
頬を摺り寄せてくる。
こんな一途でかわいい生き物、愛さずにはいられない。
雷音のツガイで良かった。
心からそう思う。
……あれ?
「抜け出した罰ってやつは?」
部下の前でこのような情けない姿を見せたくなかったので、罰を与えると言って連れ出しただけだ、という。
全く、甘すぎるよ。
「なんだ、お尻ペンペンとかされるのかと思った」
『……お尻、ぺんぺん……? それは、どのような?』
何その異様な食いつき。
目が爛々と光ってるんだけど。
「悪いことした子のお尻をペンペン叩いて叱ることだけど……」
最近は虐待とか体罰はよくない、と禁止する方向だけど。
痛みを身体で覚えないと、学べないこともあると思うんだよね。
いや、虐待まで行ったら駄目だけど。
転ばないように見守るより、実際に転んだりして。その危険や痛みを知ることも大切だと思うんだ。
『望は何も悪いことをしていないし、この小さく愛らしい尻は叩くより、心ゆくまで愛でたい』
真顔だよ。
真顔で俺のお尻撫でてるよこの人。
……全くもう。
「じゃ、いっぱい愛して?」
雷音の頬に、キスをした。
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