30 / 61
ツガイのつとめ
ツガイのしるし
しおりを挟む
『まさか、何千年と続いた羅刹国との争いが、話し合いで解決するとはねえ』
朱赫はしみじみと頷いている。
『ええ。悪鬼と断じて、頭から話などできぬ相手だと思い込んでいましたから……』
青峰は、まだまだ世の中わからないことだらけです、と溜め息を吐いた。
『望殿の人徳あってこそだと思うが? いやあ、望殿はまさしく福の神だ。ありがたい』
冬雅はにやにやしてる。
鉄製品の使い道について、色々儲け話を思いついたようである。
『うん。俺も望に助けられたし。他の国だって、羅刹の国へというより、望の願いを叶えたくて支援物資を出したんだよ。羅刹の連中も、感謝を忘れないと思う』
元白はにこにこしてる。
『わたしのツガイが魅力的過ぎて困る』
雷音に抱き締められる。
いや、みんな、買いかぶりすぎだよ……?
*****
たまたま拾った子が、羅刹の大将で。
お腹空いてたようだから、ご飯を食べさせて。
困ってたみたいだから話を聞いただけだ。
羅刹国のしたことを許したのは、実際に戦争相手だった雷音や元白たちだし。
急いで支援物資を集めてくれたのも朱赫たちだ。
今までのことを許してくれた聖獣、神獣の国の人たちの心の広さだって、凄いと思う。
『いや、羅刹の大将をたまたま拾うっていうのが、そもそもおかしくない?』
朱赫が突っ込んだ。
「落ちそうな子供がいたら、誰だって助けると思うけど……」
『竜騎に乗ってる時点で羅刹だから、助けないと思う』
元白……。
いや俺、あれが竜騎だって知らなかったし。
今にも死にそうな子供を見捨てるとか、俺の常識にはない。
でも、大人で、敵だったらどうだろう?
うーん。
わかんないな。
死にそうだったら、つい、咄嗟に助けちゃうかも。
『元白も望殿に助けられたのですし、剛麒もそうでしょう。損得を考えず、咄嗟にそのような取捨選択をしないのが”仁”の心なのです。だからこそ、仁獣である麒麟たちも望殿を慕うのでしょう』
青峰は、にこにこと微笑みながら言った。
麒麟というのは本来、大変気難しい生き物なのだという。
剛麒は懐っこいけどな……。
「ま、何はともあれ。戦いにならなくて良かったよね」
『お手柄ではあるが。厳戒令を出しているのに抜け出した罰は受けてもらうぞ』
雷音は、俺を抱え上げた。
ええっ、俺、お仕置きされちゃうの!?
*****
竜騎が一騎、防衛線を突破したとの伝令を聞いて。
龍国に残ってる俺と剛麒をひとまず麒麟の国へ避難させようと、元白が迎えに行ったらしい。
でも、龍国には俺も剛麒もいなくなっていた。もしやと思い、麒麟の国に行ったら。
剛麒を送ってきてくれて、そのまま一人で帰った、と聞いた元白は。
慌てて雷音に報告に戻ってきたそうだ。その間も俺とは会えなかったって。
暴走竜騎から落ちた可畏を拾うために、一旦雲の下に行ったから。
すれ違ってもわからなかったのかな?
可畏を連れて龍の国に戻ったとき、何で皇宮に誰もいないのかと思ったら。
みんな、俺を探しに出てたのか。それは申し訳ない……。
まだ龍姿に慣れてないだろうし、術も使えないから。
敵に見つかり、捕まってしまったのではないかと心配していたそうだ。
『心臓が潰れるかと思ったぞ』
ぎゅっと抱き締められる。
「あれ? 俺が危ないときは、逆鱗でわかるんじゃなかったっけ?」
雷音は、今気付いた、みたいな顔をした。
『あまりに動顛して、忘れていた』
そんなに心配させちゃったんだ。
悪いことしたな。
「心配掛けて、ごめんな?」
俺の命は、俺だけのものじゃない。
雷音の龍玉……生命が、俺の中にあるんだ。
龍の愛は、一生に一人だけ。自分の生命をツガイに差し出すから。
俺の危機は、雷音の危機でもある。
それは、絶対に忘れてはいけないことだった。
黄龍大帝のツガイとして。
*****
『望が無事ならば、それでよい』
頬を摺り寄せてくる。
こんな一途でかわいい生き物、愛さずにはいられない。
雷音のツガイで良かった。
心からそう思う。
……あれ?
「抜け出した罰ってやつは?」
部下の前でこのような情けない姿を見せたくなかったので、罰を与えると言って連れ出しただけだ、という。
全く、甘すぎるよ。
「なんだ、お尻ペンペンとかされるのかと思った」
『……お尻、ぺんぺん……? それは、どのような?』
何その異様な食いつき。
目が爛々と光ってるんだけど。
「悪いことした子のお尻をペンペン叩いて叱ることだけど……」
最近は虐待とか体罰はよくない、と禁止する方向だけど。
痛みを身体で覚えないと、学べないこともあると思うんだよね。
いや、虐待まで行ったら駄目だけど。
転ばないように見守るより、実際に転んだりして。その危険や痛みを知ることも大切だと思うんだ。
『望は何も悪いことをしていないし、この小さく愛らしい尻は叩くより、心ゆくまで愛でたい』
真顔だよ。
真顔で俺のお尻撫でてるよこの人。
……全くもう。
「じゃ、いっぱい愛して?」
雷音の頬に、キスをした。
朱赫はしみじみと頷いている。
『ええ。悪鬼と断じて、頭から話などできぬ相手だと思い込んでいましたから……』
青峰は、まだまだ世の中わからないことだらけです、と溜め息を吐いた。
『望殿の人徳あってこそだと思うが? いやあ、望殿はまさしく福の神だ。ありがたい』
冬雅はにやにやしてる。
鉄製品の使い道について、色々儲け話を思いついたようである。
『うん。俺も望に助けられたし。他の国だって、羅刹の国へというより、望の願いを叶えたくて支援物資を出したんだよ。羅刹の連中も、感謝を忘れないと思う』
元白はにこにこしてる。
『わたしのツガイが魅力的過ぎて困る』
雷音に抱き締められる。
いや、みんな、買いかぶりすぎだよ……?
*****
たまたま拾った子が、羅刹の大将で。
お腹空いてたようだから、ご飯を食べさせて。
困ってたみたいだから話を聞いただけだ。
羅刹国のしたことを許したのは、実際に戦争相手だった雷音や元白たちだし。
急いで支援物資を集めてくれたのも朱赫たちだ。
今までのことを許してくれた聖獣、神獣の国の人たちの心の広さだって、凄いと思う。
『いや、羅刹の大将をたまたま拾うっていうのが、そもそもおかしくない?』
朱赫が突っ込んだ。
「落ちそうな子供がいたら、誰だって助けると思うけど……」
『竜騎に乗ってる時点で羅刹だから、助けないと思う』
元白……。
いや俺、あれが竜騎だって知らなかったし。
今にも死にそうな子供を見捨てるとか、俺の常識にはない。
でも、大人で、敵だったらどうだろう?
うーん。
わかんないな。
死にそうだったら、つい、咄嗟に助けちゃうかも。
『元白も望殿に助けられたのですし、剛麒もそうでしょう。損得を考えず、咄嗟にそのような取捨選択をしないのが”仁”の心なのです。だからこそ、仁獣である麒麟たちも望殿を慕うのでしょう』
青峰は、にこにこと微笑みながら言った。
麒麟というのは本来、大変気難しい生き物なのだという。
剛麒は懐っこいけどな……。
「ま、何はともあれ。戦いにならなくて良かったよね」
『お手柄ではあるが。厳戒令を出しているのに抜け出した罰は受けてもらうぞ』
雷音は、俺を抱え上げた。
ええっ、俺、お仕置きされちゃうの!?
*****
竜騎が一騎、防衛線を突破したとの伝令を聞いて。
龍国に残ってる俺と剛麒をひとまず麒麟の国へ避難させようと、元白が迎えに行ったらしい。
でも、龍国には俺も剛麒もいなくなっていた。もしやと思い、麒麟の国に行ったら。
剛麒を送ってきてくれて、そのまま一人で帰った、と聞いた元白は。
慌てて雷音に報告に戻ってきたそうだ。その間も俺とは会えなかったって。
暴走竜騎から落ちた可畏を拾うために、一旦雲の下に行ったから。
すれ違ってもわからなかったのかな?
可畏を連れて龍の国に戻ったとき、何で皇宮に誰もいないのかと思ったら。
みんな、俺を探しに出てたのか。それは申し訳ない……。
まだ龍姿に慣れてないだろうし、術も使えないから。
敵に見つかり、捕まってしまったのではないかと心配していたそうだ。
『心臓が潰れるかと思ったぞ』
ぎゅっと抱き締められる。
「あれ? 俺が危ないときは、逆鱗でわかるんじゃなかったっけ?」
雷音は、今気付いた、みたいな顔をした。
『あまりに動顛して、忘れていた』
そんなに心配させちゃったんだ。
悪いことしたな。
「心配掛けて、ごめんな?」
俺の命は、俺だけのものじゃない。
雷音の龍玉……生命が、俺の中にあるんだ。
龍の愛は、一生に一人だけ。自分の生命をツガイに差し出すから。
俺の危機は、雷音の危機でもある。
それは、絶対に忘れてはいけないことだった。
黄龍大帝のツガイとして。
*****
『望が無事ならば、それでよい』
頬を摺り寄せてくる。
こんな一途でかわいい生き物、愛さずにはいられない。
雷音のツガイで良かった。
心からそう思う。
……あれ?
「抜け出した罰ってやつは?」
部下の前でこのような情けない姿を見せたくなかったので、罰を与えると言って連れ出しただけだ、という。
全く、甘すぎるよ。
「なんだ、お尻ペンペンとかされるのかと思った」
『……お尻、ぺんぺん……? それは、どのような?』
何その異様な食いつき。
目が爛々と光ってるんだけど。
「悪いことした子のお尻をペンペン叩いて叱ることだけど……」
最近は虐待とか体罰はよくない、と禁止する方向だけど。
痛みを身体で覚えないと、学べないこともあると思うんだよね。
いや、虐待まで行ったら駄目だけど。
転ばないように見守るより、実際に転んだりして。その危険や痛みを知ることも大切だと思うんだ。
『望は何も悪いことをしていないし、この小さく愛らしい尻は叩くより、心ゆくまで愛でたい』
真顔だよ。
真顔で俺のお尻撫でてるよこの人。
……全くもう。
「じゃ、いっぱい愛して?」
雷音の頬に、キスをした。
11
お気に入りに追加
692
あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である


拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
後宮の華、不機嫌な皇子 予知の巫女は二人の皇子に溺愛される
たかつじ楓*LINEマンガ連載中!
キャラ文芸
【書籍化決定!23年12月13日発売です♫】
「予知の巫女」と呼ばれていた祖母を持つ娘、春玲は困窮した実家の医院を救うため後宮に上がった。
後宮の豪華さや自分が仕える皇子・湖月の冷たさに圧倒されていた彼女は、ひょんなことから祖母と同じ予知の能力に目覚める。
その力を使い「後宮の華」と呼ばれる妃、飛藍の失せ物を見つけた春玲はそれをきっかけに実は飛藍が男であることを知ってしまう。
その後も、飛藍の妹の病や湖月の隠された悩みを解決し、心を通わせていくうちに春玲は少しずつ二人の青年の特別な存在となり……
掟破りの中華後宮譚、開幕!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる