人生に絶望した俺が異世界で龍のツガイにされるなんてこれはきっと悪い夢に違いない。

篠崎笙

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ツガイのつとめ

瓢箪から駒?

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龍の国に向かって飛んでいたら。

『ぎゃああああああああ』
何だか見た事のない生き物に、必死にしがみついている子供が、悲鳴を上げているのに出会った。


何だあれ?
羽が生えた、トカゲ? 馬?

あ、手を離しちゃった。

危ない。
落ちちゃう!

雲の下は、砂漠だけど。
さすがにこの高さだと、落ちたらただじゃすまないだろう。


「良かった、間に合って。……大丈夫?」
慌てて、子供を拾い上げた。

6歳くらいかな? 変わった服を着てるな。鉄の破片を鎧にしたみたいな。
鎧武者ごっこだろうか? 危ないなあ。刺さったら痛いだろうに。


謎の生き物は、そのまま、凄い勢いでどこかへ飛んでいってしまった。
暴れ馬みたいなものだろうか?


*****


『……龍だ』

子供は、驚いたように見上げている。
龍を見るの、初めてなのかな?

『龍が、何故、オレを助ける?』
表情は固い。

「何故って。だって、ここから地上に落っこちたら、怪我じゃすまないよ? 危ないじゃないか」

『な……、』
想定外の返答だったようで、あんぐりと口を開けている。


よく見れば、子供の額には、角が生えている。
麒麟……じゃなさそうだけど。

赤銅色だっけ? 赤っぽい肌に、赤い目、白い髪だ。

白い髪か……。
また、何かのドジっこ属性な子を拾っちゃったのかも。


ぐりゅりゅりゅ……と盛大な腹の虫の音がして。
子供は、真っ赤になった。

痩せてるし。お腹が空いてるんだ。
よし、これも何かの縁だ。


「お腹空いてるの? ちょっと待ってて」


*****


龍の国に戻ると。
みんな出払ってるみたいなので、おむすびと唐揚げを作ってあげた。

「はい、どうぞ」
ぬるめのお茶を出す。


『ヒトガタになった……』
また、ぽかんと口を開けてる。

ん? 龍には龍姿りゅうしと人の姿があるのを知らなかったのかな?
地上に住む子だったのかな?


『何で、龍がオレに、メシをくれるんだ?』

子供は、出したご飯と俺を交互に見て。
途方に暮れた顔をしている。

「だって、お腹空いてるんでしょ? いいんだよ。食べな?」


子供は、泣きそうな顔をして、おむすびと唐揚げを食べている。
そんなにお腹が空いてたのかな。

かわいそうに。
お腹いっぱい、食べさせてやりたくなった。


「はいお茶。ご飯、足りなかったら言ってね。もっと作るから」

『うまい……オレより、腹を減らしてる国の者たちに食わせてやりたい……』
えぐえぐ泣きながら食べてる。


こんな子供が。そんな、健気なことを。

何か事情がありそうだ。
俺でも出来ることなら、力を貸してあげたい。


「ええと。良かったら、話を聞かせてくれないかな?」


*****


どうやら、この子供の住んでいる国は、とても貧しくて。

滅多に雨も降らず、作物も育たないし。荒れ果てて、皆が餓えているらしい。
だから、自分が食べ物を狩りに出たのだと。

こんな子供が……。


「雨くらいなら、俺でも何とかなると思うけど……」
龍なら、雨を降らせることは可能だし。

『ほ、ほんとうか!? 見返りは何だ! できることなら、何でもする!』
必死な様子で、すがりついてきた。

「え、見返りとか、いいよ。そんなに困ってるなら、喜んで力を貸すよ? みんなも、事情を話せばそう言うと思う」


『そんな、……ああ、オレは。オレたちは、愚かなことを……』
子供は肩を落として。

『龍……いや、あなたは。名を何とお呼びすればいい?』
言葉遣いを改めた。


「俺? 深町 望……望だよ。黄龍大帝、黄 雷音のツガイ」

『何と!』
子供は、跪いた。

それがしは、羅刹国将軍、宮毘羅くびら 可畏かいと申します。ご無礼を、平に』


羅刹国の……将軍!? こんな小さい子が?
ああ……。そうか。

元白みたいに、生まれ変わったばかりの将軍だったんだ!


*****


まさか、龍と言葉が通じるとは思ってもみなかった。
獲物を狩るのを邪魔する敵だと思っていた、と可畏は言った。

自分は一国の将なので、死ねないが。
国の皆が餓えて死んでいくのを見るのは辛かった、と。

いよいよ食料も底を尽き、貴重な竜騎の肉を食べねばならないほどになって。

龍が邪魔をして、を狩れないから。
自分は死んでも、国民には食べさせてやりたくて。まだ子供の姿だけど。決死の覚悟で、戦いに出たのだという。

聖獣も人の姿を持ってたり、同じように言葉を話せるんだと言うと、可畏は驚いていた。


『望殿のような方がおられると知っていれば、もっと早く……いや、それは言いますまい』
沈痛な面持ちで首を振った。

今まで誰も、話し合おうとは考えなかったのかな?


とりあえず、他の兵を下げさせる、というので。
龍の姿になって、可畏を乗せて飛んだ。

周りを見やすいように、頭に乗っけてるけど。落っこちないかな?
遠慮してないで、もっとちゃんと角を掴めばいいのに。


『望!? 何故ここへ!』
龍姿になった雷音が、俺の姿を見るなり、慌てて飛んできた。

『敵の一人が、防衛線を突破したというのだ。隠れていろ!』


防衛線を突破した、というか。
暴走してたよな、あれ。

見れば元白、冬雅、朱赫、青峰までいる。
全員出てきてたんだ。


「戦争やめ! ストップ!」

『は?』
雷音たちは、ぽかんとした顔をした。


*****


『龍国の皆、これまでの数々の蛮行、すまなかった! 某は、羅刹国が大将、宮毘羅 可畏と申す者だ! 某が全てのとがを負うので、どうか、我が国を救っていただけまいか!』
頭の上の可畏が、叫ぶと。

『ら、羅刹の大将……!?』
元白がすっとんきょうな声を上げた。


羅刹の国の状況を話したら。
みんなも同情的になっていた。朱赫とか、もらい泣きしてるし。

『成程。そういう理由であれば、酌量しようではないか。もう、他の大陸を二度と襲わぬと約束するならば、今までのことは水に流し、羅刹国を支援しようと思う』

雷音の言葉に、可畏は何度も礼を言った。


『まあ、もうお互い一回死んでるんだし、俺も水に流すことにする』
元白も、納得したようだ。

可畏の罪は問わない。
国民が餓えた状況ではそれも仕方がないだろう、ということで。


とりあえず支援物資を集めよう、と。
冬雅たちは、龍の国へ戻った。
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