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ツガイのつとめ
羅刹、来襲
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『陛下、そろそろ次の公務の時間ですよ。……俺も今日はこれで失礼するね』
朱赫が自分の道具を片付けて、雷音を促した。
『むう』
『望殿、今日はありがとう。ではまた、よろしく』
朱赫は笑顔で手を振って。
渋る雷音と一緒に出て行った。
「お仕事頑張ってね~」
俺も二人に手を振る。
*****
『……はあ、緊張しました……』
剛麒は胸を撫で下ろしている。
いち麒麟が龍の国の皇帝陛下と会うなんて滅多にないことなので、緊張したらしい。
『はっ、そういえば望様は皇帝陛下のツガイなのですよね。わたしったら何と畏れ多い!』
あわあわしている。
今、そのことに気付いたのか。
うっかりさんだな。
そこがかわいいんだけど。
「え、そんなの気にしないでよ。俺、剛麒好きだし。これからも気軽に遊びに来て欲しいな」
『俺も好きだぞ!』
元白も力強く頷いた。
剛麒は真っ赤になって、こくこく頷いた。
かわいいなあ。
なごむ……。
いっそ、元白とツガイになってくれればいいのに。
そしたら、気兼ねなくここに来れるよな。
作業を再開して。
違和感なく、銀の龍を足すことができた。
というか、出来上がってみれば、むしろ最初からこの図案だったみたいにしっくりくる。
雷音に早く見せたくて。執務室へ向かった。
*****
『おお、望。どうした』
「できたよ、ほら」
蔽膝を見せる。
『もう出来たのか、早いな!』
雷音は蔽膝を受け取って、じっくり見てる。
雲の間を上昇する、二頭の龍。
この龍のように、ずっと仲良く寄り添っていけたらいいなと思う。
『素晴らしいぞ、望。早く皆に披露したいものだ』
雷音は満足そうだ。
これは大陸間会議とか、公式の業務の時に着る服だ。
近いうちに、めでたい席があるといいな。
……誰かさんと誰かさんの結婚式、とかね。
ばたばたと、忙しない足音が聞こえた。
何かと思ったら。
『緊急伝令!』
兵が駆け込んできた。
『陛下、北方の見張り兵より、緊急の伝達です。……羅刹、来襲と』
羅刹って。
前の戦いのときに、元白が命を落としたっていう?
あの、羅刹が。また、襲ってきたって!?
元白も復活して、もう子供の姿じゃなくなったし。
向こうも、大将が復活したのかな?
*****
雷音たちは、緊急対策会議をしているので。
俺は図書室に戻って。
羅刹についての関連書籍を探して、読んでみることにした。
「あれ、剛麒」
図書室で、剛麒が一人でお茶を飲んでいた。
てっきりもう元白が送って行ったとばかり思ってたら。
『緊急の報せが入ったとかで……、羅刹がまた攻めて来たとは、まことなのでしょうか?』
不安そうな顔をしている。
「俺、羅刹ってよくわかんないんだよね。どういう人たちなんだろ?」
羅刹の国。
世界の端、北方にある浮島。そこには”鬼”が棲む。
鬼は残虐な性質で、闘争本能が強く。
獣を喰らうので、聖獣たちからは恐れられている。
竜騎という、飛ぶ馬に乗ってやってくる。
それ以外、詳しい情報がないそうだ。
何故、襲ってくるかも不明で。
今まで羅刹と交渉をした人もいないようだ。
龍の国が一番羅刹の国に近いし。
羅刹と戦える力を持つのは龍族くらいなので、ここ龍の国が、鬼が攻めてくるのを防御する最前線の砦になるという。
「元白は防衛役だからなあ。しばらくは会議から戻って来れないと思うよ。……あ、それじゃ、俺が送ろうか?」
麒麟の国は、わりと南の方だし。
雷音たちが目を光らせてるなら大丈夫だろう。
麒麟は空を飛べるけど、速度は遅いから危険だ。
でも、龍なら速く飛べるし。
『え?』
剛麒は目をぱちくりさせた。
*****
龍姿になるコツを教わったので、一人でも出来るようになった。
龍玉に集中して、龍になることを望めばいい。
『わあ、』
剛麒は俺の姿を見上げて、感嘆の声を上げた。
「はい、手に乗って?」
手を差し出すと。
『し、失礼します……』
ちょこんと座っている。かわいい。
防御結界は自分で張れるというので、張ってもらった。
そこまではまだ、教わってないんだよな。
麒麟の国に向けて、飛んでいく。
『わあ、速い……!』
驚いている。
元白はいつも、ゆっくり飛んでるのかな?
それだけ長く、一緒に居たかったんだろうか。
悪いことしたかな?
でもまあ今は緊急事態だし。
なるべく安全な場所に行ったほうが、元白も安心だろう。
「はい、到着」
麒麟の国に着いたので、そっと降ろしてやる。
『ありがとうございます、望様』
ぺこりと頭を下げている。
*****
『剛麒、心配したぞ』
蓮麒が迎えに出てきた。
蓮麒は、剛麒の親代わりなんだそうだ。
ああそれで、異世界で迷子になってたときも、迎えに行ったんだな。
『おお、望殿ではないか。向こうは今、物騒だというし。戻るのは危険だろう。こちらでゆっくりしていったらどうだ?』
手招きされる。
こっちにも、羅刹来襲の報せが来てたんだ。
剛麒も、危ないので戻らないでここにいたほうがいいのでは、と言ってるけど。
「うーん。俺でも、何か役に立つことがあるかもしれないし。あっちに戻るよ。二人とも、気をつけてね」
危ないから、あまりふらふら出歩かないように、と言って。
麒麟の国を後にした。
朱赫が自分の道具を片付けて、雷音を促した。
『むう』
『望殿、今日はありがとう。ではまた、よろしく』
朱赫は笑顔で手を振って。
渋る雷音と一緒に出て行った。
「お仕事頑張ってね~」
俺も二人に手を振る。
*****
『……はあ、緊張しました……』
剛麒は胸を撫で下ろしている。
いち麒麟が龍の国の皇帝陛下と会うなんて滅多にないことなので、緊張したらしい。
『はっ、そういえば望様は皇帝陛下のツガイなのですよね。わたしったら何と畏れ多い!』
あわあわしている。
今、そのことに気付いたのか。
うっかりさんだな。
そこがかわいいんだけど。
「え、そんなの気にしないでよ。俺、剛麒好きだし。これからも気軽に遊びに来て欲しいな」
『俺も好きだぞ!』
元白も力強く頷いた。
剛麒は真っ赤になって、こくこく頷いた。
かわいいなあ。
なごむ……。
いっそ、元白とツガイになってくれればいいのに。
そしたら、気兼ねなくここに来れるよな。
作業を再開して。
違和感なく、銀の龍を足すことができた。
というか、出来上がってみれば、むしろ最初からこの図案だったみたいにしっくりくる。
雷音に早く見せたくて。執務室へ向かった。
*****
『おお、望。どうした』
「できたよ、ほら」
蔽膝を見せる。
『もう出来たのか、早いな!』
雷音は蔽膝を受け取って、じっくり見てる。
雲の間を上昇する、二頭の龍。
この龍のように、ずっと仲良く寄り添っていけたらいいなと思う。
『素晴らしいぞ、望。早く皆に披露したいものだ』
雷音は満足そうだ。
これは大陸間会議とか、公式の業務の時に着る服だ。
近いうちに、めでたい席があるといいな。
……誰かさんと誰かさんの結婚式、とかね。
ばたばたと、忙しない足音が聞こえた。
何かと思ったら。
『緊急伝令!』
兵が駆け込んできた。
『陛下、北方の見張り兵より、緊急の伝達です。……羅刹、来襲と』
羅刹って。
前の戦いのときに、元白が命を落としたっていう?
あの、羅刹が。また、襲ってきたって!?
元白も復活して、もう子供の姿じゃなくなったし。
向こうも、大将が復活したのかな?
*****
雷音たちは、緊急対策会議をしているので。
俺は図書室に戻って。
羅刹についての関連書籍を探して、読んでみることにした。
「あれ、剛麒」
図書室で、剛麒が一人でお茶を飲んでいた。
てっきりもう元白が送って行ったとばかり思ってたら。
『緊急の報せが入ったとかで……、羅刹がまた攻めて来たとは、まことなのでしょうか?』
不安そうな顔をしている。
「俺、羅刹ってよくわかんないんだよね。どういう人たちなんだろ?」
羅刹の国。
世界の端、北方にある浮島。そこには”鬼”が棲む。
鬼は残虐な性質で、闘争本能が強く。
獣を喰らうので、聖獣たちからは恐れられている。
竜騎という、飛ぶ馬に乗ってやってくる。
それ以外、詳しい情報がないそうだ。
何故、襲ってくるかも不明で。
今まで羅刹と交渉をした人もいないようだ。
龍の国が一番羅刹の国に近いし。
羅刹と戦える力を持つのは龍族くらいなので、ここ龍の国が、鬼が攻めてくるのを防御する最前線の砦になるという。
「元白は防衛役だからなあ。しばらくは会議から戻って来れないと思うよ。……あ、それじゃ、俺が送ろうか?」
麒麟の国は、わりと南の方だし。
雷音たちが目を光らせてるなら大丈夫だろう。
麒麟は空を飛べるけど、速度は遅いから危険だ。
でも、龍なら速く飛べるし。
『え?』
剛麒は目をぱちくりさせた。
*****
龍姿になるコツを教わったので、一人でも出来るようになった。
龍玉に集中して、龍になることを望めばいい。
『わあ、』
剛麒は俺の姿を見上げて、感嘆の声を上げた。
「はい、手に乗って?」
手を差し出すと。
『し、失礼します……』
ちょこんと座っている。かわいい。
防御結界は自分で張れるというので、張ってもらった。
そこまではまだ、教わってないんだよな。
麒麟の国に向けて、飛んでいく。
『わあ、速い……!』
驚いている。
元白はいつも、ゆっくり飛んでるのかな?
それだけ長く、一緒に居たかったんだろうか。
悪いことしたかな?
でもまあ今は緊急事態だし。
なるべく安全な場所に行ったほうが、元白も安心だろう。
「はい、到着」
麒麟の国に着いたので、そっと降ろしてやる。
『ありがとうございます、望様』
ぺこりと頭を下げている。
*****
『剛麒、心配したぞ』
蓮麒が迎えに出てきた。
蓮麒は、剛麒の親代わりなんだそうだ。
ああそれで、異世界で迷子になってたときも、迎えに行ったんだな。
『おお、望殿ではないか。向こうは今、物騒だというし。戻るのは危険だろう。こちらでゆっくりしていったらどうだ?』
手招きされる。
こっちにも、羅刹来襲の報せが来てたんだ。
剛麒も、危ないので戻らないでここにいたほうがいいのでは、と言ってるけど。
「うーん。俺でも、何か役に立つことがあるかもしれないし。あっちに戻るよ。二人とも、気をつけてね」
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