人生に絶望した俺が異世界で龍のツガイにされるなんてこれはきっと悪い夢に違いない。

篠崎笙

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黄龍大帝のツガイ

黄龍大帝のツガイ

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『何もかも初めてだったというのに。意識の無い内に、全て奪ってしまったのか。なんという、勿体無いことをしたのだ……』

え?
「二回目の時のが初ちゅーじゃなかったの?」


龍気補給、っていう名目で抱かれた時。
愛してる、と告白されながらのが初めてだとばかり思ってたんだけど。

『無垢な身体なのは、触れてわかってはいたが。あまりに愛らしかったので、つい』

経験済みだと”気”でわかるらしい。

何だよ。
童貞オーラでも出てるのか?

つい、じゃないっての。
まあ色々しても怒られない自信はあったんだろう。モテてたから。

それが、あんたなんかに抱かれるくらいなら死んでたほうがマシだった、とか言われて。
さぞショックだったろうな。

唖然としてたっけ。
拒絶されるのは、初めてのことだったのかも。


*****


『……怒ってるのか?』

「うん。……してくれなきゃ、許さない」
雷音は首を傾げて。

言外の意味を理解したのか、力強く、頷いてみせた。


『元白は、泣きながらわたしに恩人を助けて欲しいと云い、わたしは朱赫と共に異世界へ向かった』

その時、俺はもうすでに意識を失い、水に沈みかけていたらしい。

『抱きかかえたその時に、このこそ、わたしのツガイであると感じた』

少年……。
まあ、龍人に比べれば小さいからな。


『瀕死ゆえ、急ぎ戻り、濡れた衣服を脱がし。氷のように冷たい身体を我が身であたためた』

腕に抱いてあたためているうちに、たまらなくなって。
つい、キスしてしまったという。


あたためても、目を覚まさないし。
元白はわんわん泣くわで。

万病の薬になるという、龍の精を与えてみた。


『少年は、目を開いて。驚いた顔でわたしを見た。ああ、何といのだろう。一度では足らぬ。何度も抱きたいと思った』

抱いて。
身体から自分のものにしようとしたようだ。

『元白を追い出し、命の恩人であると伝えたが。拒まれた』
「あー、押し付けがましく言われたから反発したんよね。……はい、じゃあ自己紹介からやり直し」

雷音は俺に、頷いてみせた。


*****


『わたしは龍国皇帝、黄 雷音というもの。元白に頼まれ、助けに参ったが、そなたはわたしの運命の相手であると確信した。蘇生のためとはいえそなたの貞操を奪ったこと、許して欲しい』

俺の手を握って。
真剣な顔をして言った。

「……ありがとう。助けてくれて」
今は、素直にそう思う。


あの時には、言えなかったけど。

氷みたいに冷たかった身体を、抱き締めてあたためてくれて、ありがとう。

助けてくれて、ありがとう。


『いや、礼はよいのだ。わたしはそなたが無事で嬉しい。……名は?』
頬に手を添えて、問われる。

「深町 望……望だよ」
『望。……そなたがあまりに愛らしいゆえ、寝姿に口付けてしまったことを謝罪する』

「ん、許す」
雷音の唇に、重ねるだけのキスをした。


『……あの時の望は、男嫌いではなかったか?』

「したかったから。嫌だった?」
答えがわかってて、わざと言う。


『嫌なわけがあるか。……許されたのなら、続きをしても構わぬのだな?』

「うん、して?」
ぎゅっと抱き締められて。

熱烈なキスをされた。


*****


ツガイには、どこまでも甘くて優しくて一途な龍。
かわいい生き物だと思う。

獰猛な戦神としての一面もあるようだけど。
俺には見せないようにしてるんだ。


すぐには無理かもしれないけど。

どんな雷音でも受け入れたいと思うから。
少しずつ、教えて欲しい。


黄龍大帝の、ツガイとして。




おわり
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