人生に絶望した俺が異世界で龍のツガイにされるなんてこれはきっと悪い夢に違いない。

篠崎笙

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黄龍大帝のツガイ

龍と麒麟の裁縫教室

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不幸の連続な人生で。

死ぬために山登りしたのに。
異世界で龍、しかも男のツガイにされてしまうとか、悪夢かよ、って思ったけど。

それも全て、今、こうして幸せになるための苦労だったと思えば。
いい思い出……とまでは、まだ達観できてないけど。

辛かった分、幸せを実感できるのかなって思える。


まさかこの俺が。
男と結婚して、幸福を感じるようになるとか、予想できないよな。

キスとかは、雷音以外の男とは絶対無理だけど。

……いや、素顔の冬雅はちょっとわかんないかもしれない。
ありゃ卑怯だ。イレギュラーってことで。


人間不信にまでなった男嫌いもだいぶ緩和して。

ハグくらいまでなら許容できるようになった。
この世界の人たちは懐っこいというか。わりとスキンシップ過剰だから、いちいち警戒してたら身が持たないし。


動物が懐いてきているようなもんだと思えば問題ない。


*****


「できたー」
剛麒にあげるための、元白とお揃いの白い玉飾り。

それと、ついでに蓮麒にあげる、麒麟をクロスステッチで刺繍したクッション。
自分を尻に敷くがいい。

成獣の麒麟は、酔っ払った蓮麒が見せてくれたので、それをモデルにした。


『わー、いいなこの坐垫クッション。俺も欲しい!』
麒麟の国に届けて欲しい、と元白に頼んだら。

麒麟クッション、意外に好評だった。

……尻に敷きたいのか?
まあ、別に敷かなくてもいいんだけど。


「クロスステッチは図案さえあれば初心者でも簡単に出来るよ。やり方教えようか」

『うん。剛麒と一緒にやってみたい』
元白と剛麒の二人はもうすっかり仲良くなったようだ。

ドジっこ枠同士、惹かれあったのかな?


『元になる図案があれば、職人に発注して量産できるな』
『ああ、自分達の絵姿を模様にする発想は無かったな。九尾狐狸や鳳凰の飾りも素晴らしかった』
冬雅と朱赫が、マジ顔で商品化の相談をしている。

『望殿が陛下に差し上げていた龍の刺繍も素晴らしかった。あれもいいな』
『え、何それ。俺見てないんだけど!?』

龍の刺繍とか、あっちじゃポピュラーというか、人気の図案だぞ? 今まで無かったのかよ。
びっくりだよ。

人間模様の服、みたいなものだろうか? アニメとか、キャラものならあったけど。


しかし、あっちでは女みたいとか女々しいとか散々言われた刺繍も、こっちじゃ職人技として見直されるんだな。
っていうか、裁縫=女って発想自体が失礼だよ。

学校で、暇さえあれば内職してた俺も俺だけど。


家でも、昔かたぎのじいちゃんだったから、「男が針仕事や台所に入るなんて」ってしょっちゅう渋い顔してたけど。
その考えは、化石並みに古いんだよな。

会社勤めして、会社員になるのが男として当然の生き方だと思ってた。
まるで洗脳みたいに。


考えてみれば、職人になる道もあったんだよな……。
内職で、お金もらえてたんだし。

でも、そうしてたら、今ここでの俺もいなかったんだと思うと、悩みどころだ。


*****


「……はい、これが龍の刺繍。サテンステッチとかファーンステッチとかアウトラインフィリングとか色々使ってるからややこしいかも」
朱赫に、龍の刺繍を刺してみせた。

『おお……』

朱赫は目をきらきらさせて見入っている。
図案化を考えてるのかな?


『もうすでに理解不能です、望殿』
冬雅は首を傾げている。

さすがに専門用語はわかんないか。

「そういえば冬雅、別に、俺に敬語でしゃべらなくてもいいよ? 地のしゃべり聞いてるから、何か違和感あるんだよな」

慇懃無礼に聞こえるというか。
なんか尻がむず痒くなる感じがして。

『身についてない敬語はよせ、と?』

大袈裟に肩を竦めてみせた。
動きがやたらオーバーなのは、仮面で表情がわかりにくいからかもしれない。


「いや、何か距離を感じて寂しい、かな?」

あ、笑ってる。
『距離を詰めて良いのなら、いくらでも詰めるが。いいのか?』

何で仮面を外すかな。


……いやほんと、綺麗な顔だよね。
何度見ても見惚れちゃうなあ。

『迫るな』
朱赫が冬雅の後ろ頭をはたいた。
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