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黄龍大帝のツガイ

初夜

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『お疲れ様です。……望殿、大変でしたね?』
青峰が苦笑しながら労ってくれた。

「ちょっとしたお礼のつもりだったんだけど。なんか大事になっちゃったな。でも、喜んでもらえてよかったよ」

『いやいや、もうあれは芸術品の域だから。商品として取り扱いたいくらいだし』
朱赫も来た。

大袈裟だってば。

『全く同意見で。……彫刻などにご興味は?』
冬雅まで。


元白とその部下達は、招待客を送るために出払っているらしい。
護衛役だ。

「彫刻は学校の授業でしかやったことないからな……。あ、白い石が欲しいんだけど。剛麒に、元白とお揃いの飾り作るって約束したから、前と同じ石で」

『お安い御用です。いくらでもご用意いたしましょう』
優雅に礼をしてみせた。

何とも芝居がかった動作が似合う男である。
仮面のせいかな?


「ありがとう、冬雅」
お礼を言うと。

『……んん?』 
冬雅は不思議そうな様子で、俺に近寄って。

……何で匂いを嗅いでいるんだろう。


『あの芳香が、しませんね?』
芳香って。


例のフェロモン?


*****


『ふむ、龍玉を取り込み、ツガイとなったので役目を終え、目印が消えたのであろうか』

「雷音。……それほんと?」
厄介な体質が消えたなら嬉しい。


『あ、本当ですね』
『確かに』
青峰と朱赫も寄ってきて、くんくん匂いを嗅いでいる。

『おお、これからは大変な忍耐をしなくて済みます』
それに冬雅も加わってくる。

そんなに我慢してたんだ……。


みんなして、俺の匂いを嗅ぐのやめてくれないかな……。
風呂はちゃんと入ってるし、洗ってるけど。

何か恥ずかしいし。
みんなガタイがいいから、圧が半端ないし。


『こらこら、気安くたかるな。わたしのツガイだぞ』
雷音に抱き寄せられた。

『……わたしには、相変わらずよい香りに感じるが?』

『ツガイにのみ、香るようになったのでしょうか?』
青峰が首を傾げている。


とにかく。やたらめったら男を誘う匂いとやらが消えたなら何よりだ。
これでもう、男に襲われる心配が消えたのか。

「じゃあもう普通に外に出て、大丈夫かな?」

『いや、それは……』
『無理じゃないかな……』
みんな難しい顔をして首を傾げているのは何故。


『望殿は小さくて愛らしいので、一人で出歩かれるのは普通に危険かと』
冬雅。

普通に危険って、どういうことだ。

『龍族は小さくて愛らしいものが大好きなので……』
朱赫も。

『龍族だけでなく、この世界の者は皆、そうではありませんか? 芳香は欲望を助長させますが、風下にいれば関係ないですし』
青峰は根拠となる文献を挙げて。

他のみんな、納得したように頷いてるけど。


俺、小さくて愛らしい生き物に見えてるの?
目、どうかしてんじゃないか?


*****


『ひと目で雷帝のツガイとわかる目印があればいいのではないでしょうか?』

「これは?」
冬雅に細工してもらった首飾りを青峰に見せる。

『わかりにくいです……』

逆鱗は見えにくいか。
常に上を向きながら歩くわけにはいかないし。

そういや蓮麒は黄金の鱗を見ても、雷音が雷を落とすまで引かなかったな。
冬雅は止まったけど。

フェロモンか、酔ってたせいだとばかり思ってた。


「ええと、なるべく単独行動はしないように気をつける……」
異世界こわい。

『それが一番のようですね』
青峰が頷いた。

『うむ。わたしが守る』
雷音は後ろからぎゅっと抱き締めてきた。マジで頼むよ?


『では、そろそろ野暮はやめにして、解散としましょうか』
青峰が手を叩いた。

『まだ話し足りない……』
『諦めが悪い』
不服そうな冬雅の背を、朱赫が押してる。

……野暮?


『今日は皆、ご苦労だったな』
雷音はそう言うと、俺を抱き上げた。お姫様抱っこみたいに。


そういえば。
今日は結婚式。今はその夜。


すなわち、初夜だった。


*****


まあ、初夜って言っても。

とっくに、アレだ。
色々と、済ましちゃってるし。

今更なんだけど!


雷音の部屋に向かうまでの道のりが、やたら長く感じて。
困って、雷音の顔を見上げたら。優しく微笑まれてしまった。

うう。
いつもより格好良く見えるのは何でなんだ……。

って。何ドキドキしてるんだよ俺。
乙女か!

男がお姫様抱っこされて運ばれるとか。
恥ずかしいだけだっての。


体格差がありすぎて、遠目には男同士には見えないかもしれないけど。
腕の太さとか、俺の太股と変わりないくらいだもんな。

龍人の男って、基本身長は2メートル以上あるのが普通みたいで。
肩幅も広いし体つきはがっちりしてる。

女の人でも、俺より大きかった。
更に俺が165cmしかないせいか、並ぶとまるっきり大人と子供だ。


そんなでかい男に圧し掛かられたら、恐怖しかないはずなんだけど。
何故か、雷音のことは恐いと思わなかったんだよな。

うわキモッ! とは思ったけど。
それでも、本気で吐き気がするほどではなかった。

それは、他の男に襲われて、改めて実感した。


*****


雷音だけが特別なのは、ツガイだからか?

でも、いくら運命で定められた相手といっても、断るのは可能だっていうのに。
何で俺、受け入れちゃったんだろうな。


人の意思を無視して勝手に抱いて。
精を受け入れなくちゃ死ぬとか騙して、エッチが上手いからって身体から篭絡しようとした男だぞ?

勝手に逆鱗はつけるし。

かまってちゃんだし。
かまってやらないと拗ねるし。

独占欲強いし。すぐ触ってくるし。抱きついてくるし。くっつきたがるし。


……でも、欲望だけを一方的に押し付けてきた、今までのセクハラ野郎達とは違った。

甘えたなくせに。
嫌だって拒絶したら、我慢して引き下がった。

拒絶したのに。
助けを求めたら、すぐに飛んできてくれた。

騙していたことをうやむやにしないで、ちゃんと謝ってくれたし。

こんな俺を、大切にして。
愛してくれた。


魚石を磨き上げたとき。最初に雷音に見せたいと思ったのは、俺と一緒に喜んでくれると思ったからだ。
綺麗だと思った気持ちを、共有したかった。

雷音なら、わかってくれると思った。
だから。


「雷音。……好きだよ」
告げると。

一瞬、ビタッ、と立ち止まって。


俺を抱いたまま、猛ダッシュで部屋まで走った。
疾風のように。
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