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黄龍大帝のツガイ

花嫁修業中

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魚石の美しさに、冬雅も元白も感動していた。

『この、周りの石の残し加減も素晴らしい塩梅あんばいで。もはやこれは芸術品です』
そう手放しに褒められると照れる。

元々、外側も翡翠みたいな石だったし。宝石みたいだよね。

『面白い石だよなあ……。あ、雷音陛下。これ望に作ってもらったんですよ。いいでしょう! 冬雅とお揃い!』
元白は、俺の作った服の飾り紐を雷音に自慢している。

皇帝相手なのに、大きく育ってもわりと気安いな……。


え、わたしのは? みたいな情けない顔でこっち見るのやめろ雷音。
……しょうがないな。

「はい、これやる」

金糸で編んだ龍を、削った石の余った部分で作った四色の管玉で囲んだ飾りを出す。
息抜きに作ったものだ。

『何っ、これを、望が全て作ったというのか!? 器用だな!』

驚いてる。
してやったりだ。


『え、こんな小さい管玉を、手作業で!?』
冬雅まで驚いてる。

『望殿を我が国に下さい、陛下ああああ』
本気で懇願してるし。

プロポーズではなく。
俺の腕を見込んで言ってくれてると思うと嬉しいもんだ。


「たまに墨国へ手伝いに行くくらいは、いいよな?」
雷音を見上げて。

「時間はいっぱいあるみたいだし、そのくらいは許してくれるだろ?」
『望……、それは、』


そう。
雷音との結婚を、認めるってことだ。


*****


宮中きゅうちゅうや国ごとの行事関係を仕切ってるのが青峰の緑国で。

美術品や財宝の管理をしてるのが朱赫の夏国。

外交や商売の取引をしてるのが冬雅の墨国。

兵隊をまとめてるのが元白の西国だという。


意外に思うけど、元白は物凄く強い龍で。
羅刹国という国から鬼が攻めて来た時も、手足がもげようとも敵将に喰らいつき、勝利を手にしたらしい。

元白はその時の戦いで命を落として、再生したのか。
凄まじいな。

おかげでここ十数年は平和なんだそうだ。


『聖将白龍王といえば、雷帝と並び称されるほど凄いもので。その名を知らぬ者はいないでしょう』
青峰はかつての雄姿を思い出しているのか、うっとりしている。

その聖将白龍王が、水溜りで溺れたのか……。

子供のうちは弱いし危ないからと大人になるまで外出禁止令を出されて、我慢できずに飛び出した先でのアクシデントだったようだ。
頭の中身も子供になっちゃうのも困りものだな。


外交の護衛でよく一緒になるので、冬雅と元白は仲がいいようだ。
元白はわりと誰にでも懐っこいような気がするけど。

墨国で採掘した玉や宝石を美術品に加工するのが夏国で、墨国が他の大陸へ売買するので、ここも仲がいい。
利益などの分配、書類仕事は青峰の国が仕切る。


国同士、助け合って暮らしてる。
得意分野によって、国民のトレードとかもよくあるそうだ。


*****


「色々予定外の行動して、ほんと申し訳ない……」

『いえいえ、あれはもう、全面的に陛下が悪いので。私はこんな素晴らしい贈り物を頂けて嬉しいです』
と、嬉しそうに飾りに加工したぎょくを出した。

玉を編んだ細い紐で包んで、太い紐の房を着けた飾りだ。


『墨王が望殿の腕に惚れこむのも納得です。夏王も大絶賛でしたね』

朱赫は家宝にするとか言ってた。
大袈裟だよ。

青峰はお世辞を言わないので、本心からの言葉だろう。
照れくさいけど、嬉しい。

伊達に内職でドリームキャッチャー五千個組んじゃいない。

……あれ? 俺、皇帝の后より職人向きなのでは?
丸カンとか延々と組むの楽しいしな……。


そうそう。
皇帝のツガイが男でも、問題はないという。

王族はほぼ不死で跡継ぎが必要じゃない、というのもあるけど。

四百年前に、皇帝と龍王がまるっと総入れ替えになったという血腥ちなまぐさい事件があって。
それが、玉座を狙った御子達による身内殺しだった。

神罰が下って。
前皇帝ら共々、修行しなおし、ということで他の生き物に輪廻転生させられたとか。


以後、王族はツガイを得ても子は成さない、という暗黙のルールが出来たという。

王族、と言っても皇帝と龍王のみで、他に血族はいない。
それも寂しい気がするけど。


超越した生き物なのに。考えることは人間とそう変わらないのかな?

欲もあれば、嘘も吐くんだ。
考える脳がある生き物なら、当然のことかもしれないけど。


……ということは、雷音たちは四百歳なのか。

昔からここの皇帝だったみたいに思ってた。
俺にしてみればめちゃくちゃ年上だけど。普通の龍人の寿命が二千歳なら、まだ若僧じゃないか?

それで、初めてのツガイ発見で。
みんな浮き足立ってて、扱いに困ってる感じなのかな?


*****


『望殿、』

あれ、冬雅。
何で仮面を外してんだ?

……いや、ほんと綺麗な顔だなあ。


『是非、私の気持ちを受け取って頂きたい』
手を取られて。

何か、あたたかいものが流れ込んできてる。

……龍気?


『ほら、受け取って頂けた。賭けは私の勝ちだな!』
冬雅はドヤ顔だ。

どんな表情でも綺麗だなあ。


『冬雅、仮面を外すのはズルいぞ!』
元白もいたのか。

……お前ら何やってんの?


元白が、自分が特別お気に入りだから龍気を受け取ってもらえたんだ、と言い張るので、賭けたらしい。
ほんと、仲良いな……。


でも、賭けに俺を巻き込むな。
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