人生に絶望した俺が異世界で龍のツガイにされるなんてこれはきっと悪い夢に違いない。

篠崎笙

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黄龍大帝のツガイ

桃色吐息

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『望……、』

雷音が、皇帝とは思えないような情けない声を出して俺を呼んでいる。
でも、掛け布団を頭から被ったまま、無視している。

別に、怒っているわけではない。


恥ずかしいんだよ!
あんな恥ずかしいこと、いっぱい言っちゃってさ。

忘れられればいいけど。しっかり覚えてるし!

してる途中で、俺ばっか乱されるのが悔しくなって、ついうっかり雷音の逆鱗に触れたら。
もうとんでもないことになっちゃって。


……すごかった。
理性を吹っ飛ばした雷音は危険すぎる。

男なのに孕まされるかと思った。

たまにはああいうのもいいかな……とか思ってんじゃねえよ俺。
雷音のバカ。

性豪! エロ龍!


そもそも、雷音が逆鱗に触ったせいだ。
俺がエッチなわけじゃない。雷音がやたら上手いのが悪い。

あああ、でも、恥ずかしい……! ゴロゴロ転がり回りたい。


*****


『もう逆鱗には触れぬよう、気をつける。機嫌を直してはくれぬか?』
俺が怒ってると思って、おろおろしてる。


何で一国の皇帝ともあろう偉いヒトが、俺なんかのご機嫌とろうとしてるんだか。
情けない。

ツガイだからか?
俺が、おかしなフェロモン出してるからか?


「……怒ってない」

掛け布団から顔を出すと。
雷音はほっとしたような顔をした。

『おいで。湯殿を用意させておいた。湯浴みをしよう』
手を差し出されて。

仕方ないので、その手に掴まった。


腹も足も背中も精液やらなにやらでどろどろで。
洗わないと気持ち悪いから。

だから、仕方なくついていくんだからな。


俺が嫌がるからと、使用人は下げさせてあるらしい。
だって。
誰かにお世話をさせるとか、落ち着かないし。


でも、今の内に、あっちの部屋ではシーツとか交換されてるんだろうな。
お疲れ様だ。


*****


ざっと身体を流して、湯に浸かる。

とろりとしたお湯は、温泉みたいだけど。
宙に浮かんだ大陸で温泉ってどうなってんだろ。

マグマとか地軸とか考えたら負けな気がする。

何しろ大陸が空に浮かんでいる世界だ。
ファンタジーで済ませるしかない。


龍人用で、深いので。
雷音の膝の上に乗って、大きな身体に寄り掛かる。

お湯の温度も心地いい。


『……望。まだ、わたしのツガイにはなりたくないか?』
見上げると、金色の逆鱗が見える。

俺もうっかり触らないように気をつけよう。
あれは危ない……。


「絶対、やだ」

びくり、と後ろの身体が揺れた。

「……って思ってたけど。今は、そうでもない……かもしれない」

『望……』
腕が前に回されて。

ぎゅっと抱きしめられる。


『皆に正式に、ツガイだと発表したい。結婚しよう、望』
「…………え?」

それは。
聞き間違えようの無い、プロポーズだった。


*****


「……はあ、」


お湯で、頭まで茹だっていたに違いない。
俺は、雷音にプロポーズされて。

うっかり頷いてしまったのだった。
うっかり過ぎる。

まあ、皇帝のツガイだと発表されたら、もう襲われる心配もないだろうし?
ウハウハのセレブ生活ですし?


「……はあ、」


この俺が、男と結婚か……。

同性愛とか、俺には全く関係ないと思ってたのに。
むしろ男から狙われて、酷い目に遭ってたから。ホモとか気持ち悪いと思ってたし。今でも嫌悪感があるけど。


そんな俺が、意志とは関係なく犯されて。
定期的に精液を受け入れないと死ぬような環境を受け入れて。

変な鱗付けられて、それを許して。

特に嫌悪感もなく受け入れちゃったとか。

信じられない。


だって雷音が、あんまり健気だから。
ほだされたんだ、きっと。そうに違いない。

やっぱ男もイケメンだと得だな! さらに皇帝陛下だもんな! 意外と俺、高スペックの男に弱かったんだな!


「……はあ、」


んな訳あるかい。
美形の石油王だろうが、プロポーズされたらフツーに断るっての。

他人のサイフをあてにするような生活なんて真っ平だ。
自分の食い扶持くらい、自分で稼ぎたいんだよ。


『望殿、いかがされました?』

冬雅から受け取った本をほくほく嬉しそうに読んでいた青峰が、俺の何度目かの溜め息に顔を上げた。
ちなみにジャンル的には、ジュブナイル。

冒険活劇が好みなようで、冊数もけっこうあった。
こっちにも出版社とかあるのかな。


*****


「あ、ごめん。分類はちゃんとやってるから」
手元にあった山は、きちんと整理した。

全部歴史書だ。
和綴じの手書きの本も相当数ある。巻物とかも。


青峰はパチンと指を鳴らした。
『ははあ、マリッジブルーというやつですか?』

横文字……だと……。

青峰の口から横文字とか。
似合わなすぎる……!

わりと異世界、っていうか元の俺の世界の本もあるので、それで覚えたようだが。


『西王など、陛下と望殿・結婚の報を聞いて、悲しみの涙で枕を濡らしているそうですよ』
元白……。あいつ、何でも泣くな。

「こっちは、結婚って好きな相手同士でするのが普通? 見合いとか政略結婚とか許婚いいなずけとか?」

『好きな相手、というか。それぞれ自分だけのツガイを見つけて結婚しますよ。運が悪いと、九百年以上待つこともあるようです』

「九百年……」
それは待たせすぎだろ。


龍人、というか龍の王族は、ほぼ不死の生物で。
死んでも、頭さえあれば復活するらしい。

元白は戦争で死んで、復活したばかりだという。
前は強くて凛々しい青年だったといわれても。今は泣き虫の子供だからなあ。


普通の龍人の寿命は、二千年ほどか。
それでも長い……。

「じゃあ、せっかくツガイを手に入れても、人間相手じゃ先に死んじゃうだろ。生まれ変わるのを待つの?」

それとも、普通ツガイって龍族同士限定なのかな?
俺がイレギュラーで。


『えっ。ツガイとして結婚することを受け入れられたのですよね? 婚姻を結べば、龍気を補給する必要もなくなりますし。陛下が命を落とされない限り、望殿も死にませんよ?』
青峰は不思議そうに目を瞬かせている。


……それ、初耳なんだけど。

何でそんな大切なこと、当事者である俺に言わないんだよ!?
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