人生に絶望した俺が異世界で龍のツガイにされるなんてこれはきっと悪い夢に違いない。

篠崎笙

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黄龍大帝のツガイ

黒龍王、来る

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目を覚ましたら、もう夕方だった。


雷音は、鼻歌でも歌いだしそうなほどご機嫌な様子で。
俺に添い寝をしていた。

もうすっかり亭主みたいな顔をしているのが何だか腹立つので、部屋から追い出した。


体調は、今朝までのだるさがまるで嘘のように、かなり良くなっていた。
心配してくれた元白と青峰にお礼とお詫びを言いに行ったら。

涙目になってる元白が飛びついてきた。
『俺がもっと大きくなったら、俺の龍気を分けるから。待ってて!』

命の恩人だからか、やたら懐かれている。

『西王、その方は陛下のツガイなのですよ。すでに御印みしるしもつけられているのです。あきらめなさい』
青峰は元白を たしなめるように言った。


「しるし……?」


*****


手鏡を渡され。
顎の下を見るように言われた。


喉の辺りに、薄い、金色の鱗のような物がついている。

何だこれ?
カサブタじゃないよな?

『それは、逆鱗というものです。他人には触れられないように気をつけてくださいね』
青峰は色白の頬を染めて。

そこは龍の弱点で。
そこを番う相手に弄られると発情してしまうのだと教えてくれた。

女の龍は持ってないけど。
結婚によって、男の龍から鱗を与えられるそうだ。


自分で触れるのは平気だから、服や飾りなどで隠しておいたほうがいいとアドバイスされたので、襟の高い服を着ていたら。
誰から聞いたのか、雷音からチョーカーのような飾りを贈られた。

次の日、つけて仕事をしていたら。
図書室に顔を出した雷音がそれを見て、とても嬉しそうな顔をした。


俺も、悪い気はしなかった。


*****


しばらく暮らしているうちに。
今、俺がいる場所は、皇宮と呼ばれる場所だと知った。

つまり、皇帝の住むお城、だ。
龍の国の大陸の、ほぼ中央にある。

俺はここに来てからずっと、雷音のテリトリーに居たわけだ。


本の整理という職も、朱赫が親切で世話をしてくれたわけではなく、実際は雷音の命令だったことを知った。
でも、そんなにツガイを手放したくなかったのかと思うと、怒る気にもならなかった。


青峰は、皇宮の図書室を管理する仕事もしているけど。本来、自分の統括する国がこの大陸内にあるらしい。
緑国の青龍王、と呼ばれているそうだ。

名前は青なのに、緑色の龍姿らしい。不思議だ。

毎日、わざわざ自分の国から通いで来てるのか。大変だな。
龍の姿になればひとっ飛びらしいけど。


元白も朱赫もそうだった。
朱赫は夏国、赤龍王で。元白は西国、白龍王。

元白、あんな泣き虫の子供なのに王様とか、大丈夫だろうか?

もう一人、墨国、黒龍王のぼく 冬雅とうがという人がいるそうだけど。
まだ姿を見ていない。


別の空飛ぶ大陸には、それぞれ麒麟とか鳳凰とか色々な種族が住んでいるという。

領空権について話し合うために、種族の代表者会議とかあるそうだ。
異世界も大変だな。


白虎・青龍・朱雀・玄武の四神なら聞いたことがあったが。
こっちには玄武や白虎は神にはいないという。

虎人なら、下界にいるみたい。
ちょっと見てみたいかも。

でも、下界の住人は野蛮で危ないらしいしな……。


*****


『緑王……青峰はここに居るか?』

と。
全身真っ黒の鎧装束の男が、図書室に入ってきた。


顔の半分以上が、黒い、鬼の仮面のようなもので隠れている。
武将みたい。

「青峰なら、今日は留守だけど?」

『……人間か? 何故、人間がここにいる』
俺を見て、ぎょっとしている。


「何故って。本の整理を頼まれたんだけど」

『下働きか。ふん、口の利き方もわからぬ人間を雇うとは、やつも物好きな……』
男は、がしゃがしゃと音を立てながら、こちらに寄って来た。


氷みたいな、薄い青の目をしていた。

男は、間近で俺を見ている。
『色子か? 何ともそそる匂いを発しているな』


……いろこ?

何だか、不穏な雰囲気を感じて。
逃げようと思ったが。

『どれ、味をみてやろう』
捕まえられて。


男は、兜ごと仮面を外した。

黒い髪に、アイスブルーの瞳の。やたら綺麗な顔をした男だった。


*****


……あれ?


うっかりその美貌に見惚れている間に、机に押し倒されて。
上着をはだけられていた。

「うわ、な、何するんだよ、やめろ、」

龍人は身体が大きく、やたら力が強い。
抵抗しても無駄だとわかっているけど、じたばた暴れる。


『ん? 喉を隠しているのか。あのむっつり、印でもつけたか? どれ、』
首の飾りを外されて。

ビタッ、と動きが止まった。


男は、俺の喉につけられた逆鱗を凝視している。

美形は目を剥いてても綺麗だなあ、と。
うっかり見惚れてる場合じゃないのに、見惚れてしまう。


『………………これは……まさか、嘘だろう……?』
あ、冷や汗だ。


『……冬雅、貴様よくもわたしのツガイに手を……』
地獄の底を這うような、低い声。

雷音が、おやつを持って来たところだった。


トーガ?
ああ、この人が噂の黒龍王か!


*****


鱗の色で、誰のかを判別できるようだ。

雷音は金色、元白は白、朱赫は赤で、青峰は緑。
でもって、冬雅は黒だとか。

この5色は唯一無二。龍王以外に存在しないという。


じゃあ、一般の龍人は何色なんだろう。
龍って、そんなにカラフルな生き物だったのか。

パープルドラゴンとかもいるのかな?
ちょっと見てみたい。


『陛下のツガイ殿とは露知らず、申し訳ありませんでした……!!』
冬雅は、平身低頭して謝った。

「いや、二度としなきゃ、いいけど。……龍人って、誰彼構わず襲うもんなの?」
俺をしっかりと腕に抱いている雷音を見上げる。

『いや、望は特別、龍人の男を誘う香りを放っているのだ。決して一人で外に出るなよ。襲われるぞ』
くんくん匂いを嗅ぐな。
『このわたしとて、理性が揺らぐ』


理性が揺らぐなら尚更、匂いを嗅ぐなっての。

この世界で俺は、更に男に襲われる危険度が増す、ってことか。
嫌な世界に来ちゃったな。

なんという運の悪さだろう。
何で俺、そんな厄介な体質に生まれてきちゃったんだろうか。


何かに呪われてでもいるのだろうか?
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