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黄龍大帝のツガイ
人生七転び八起きというけれど
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嘘だろ。
レインって、本当に、本物の皇帝陛下なのかよ!?
で。
その、ここで一番偉いヒトが、何で俺なんかをツガイにしたがってるんだ?
……ん? あの子供が、レインの部下とかで。
それで助けを呼んだってことか。
部下にしては、若すぎるけど。部下の子供とか?
まあいいか。
外国人みたいだし、日本語がおかしくてもしょうがない。
「事実を言っただけなんだけど。……とにかく、元の場所に戻して欲しいんだ」
とりあえず、話の通じそうなシュカクに言った。
『元の場所って。まさか、あの水の中かい? でも、君を死なせたら、元白が泣いちゃうけど。いいの?』
シュカクは苦笑したような顔で、肩を竦めてみせた。
う。
子供を泣かせるのは、ちょっと後味が悪いか。
でも。
決めたことだし。
「自分の家に戻ったって言えばいいよ」
俺のことなんて、すぐに忘れるだろう。
大人になったら。
シュカクは少し考えるように目を閉じて。
首を傾げていた。
『んー、では、雷音陛下のツガイとしてでなくて、自由にここで暮らしていい、と云ったら。元の場所に戻せとはもう云わない?』
「……それなら、うん。何か職があれば嬉しい」
頷いてみせたら。
シュカクは困ったようにレインを振り返った。
『……陛下、いったい何をしたらここまで嫌われるんです?』
『瀕死の身に精を注ぎ、ツガイにしただけだ』
レインはむすっとして。
『わたしを袖にしたこと、後で存分に悔やむがいい』
などと捨て台詞を言い残して、部屋を出て行った。
全裸のままで。
いいから服着ろ。
*****
信じられないことに。
ここは外国でもなくて、いわゆる”異世界”というところだった。
一つの大陸が、宙に浮かんでいる状態で。その下にはまた巨大な陸がある。
ここは”龍の国”だという。
西洋のドラゴンじゃなく、中華風の龍。
朱赫に大陸の端っこに連れてってもらって、この”国”が宙に浮かんでいることを確認したから間違いない。
実際にそれを目にしては、異世界であることを信じないわけにはいかない。
大地の下に雲がある光景は圧巻だった。
雲の下には”人間”の住む世界があるそうだけど。
俺の住んでいた世界とは違うという。
文化レベルが低くて危険だから降りないほうがいい、と言われた。
いや、そんなこと言われても、降りる方法わかんないし。
龍のあぎとは、この異世界への出入口になっているようだ。
うっかり外に出た元白が、風に煽られて。水溜りに落ちたパニックで溺れてしまったそうだ。
空を飛べるのに、泳げないんだ……。
あの龍は、元白の龍姿だという。
ここの国の人は皆、それぞれ龍姿を持っているらしい。
朱赫は赤い龍だそうだ。
レッドドラゴンか。かっこいいな。
*****
親切な朱赫のはからいで、ここの事を学びながら働ける職を紹介された。
膨大な図書の整理だという。
異世界なのに、何故ここの言葉や文字が理解できるのかは不思議だけど。
図書室には緑 青峰という、黒髪に碧色の瞳をした物静かな美青年がいて。
自分はここの蔵書の管理をしていると言った。
とにかく本が多すぎて、どこに何の本があるかわからず困っているというので。
棚ごとに、歴史なら歴史を年代順に、ジャンルで分けて並べることにした。
制服として与えられた着物のような服は、深衣というらしい。
部屋も与えられて、三食・おやつも出る。
休憩あり、残業はなし。
上司は優しいし、セクハラもしてこない。
衣食住、全てに恵まれた環境である。
ホワイトにもほどがある。
ここが天国か。
すっかり俺に懐いてしまった元白が、ちょくちょく図書室に顔を出してはおやつなどを一緒に食べたりして。
とても快適に過ごしていた。
しばらくの間は。
しかし。
良い事ばかりは続かなかった。
俺は、不幸な星の元にでも生まれているのだろうか。
*****
ある日。
突然、起き上がれなくなってしまった。
起きようとしても、身体の力が抜けてしまう。
脱力感、というか。
極限までの飢餓感って、こんな感じだろうか? みたいな。
全身の細胞が渇して、何かを求めている感覚。
来るのが遅いからと、様子を見に来てくれた元白が、俺が寝床でぐったりしているのを見て。
慌てて青峰を呼んでくれた。
『ああ、これは。……”龍気”が切れたようですね』
青峰が教えてくれた。
ここで暮らすには、”龍気”というものが必要だという。
元白や青峰らは生まれながらに持っているので大丈夫だけど。
異世界から来た俺は、定期的に誰かから与えられないと、ここでは生きていけないのだそうだ。
つまり。
精を注入されないと、死ぬってこと?
それで、あんな風に言ってたのか。
雷音の捨て台詞を思い出して、ムカムカしてきた。
あいつにお願いして精を注入してもらうくらいなら、元の世界に戻って首でも吊った方がマシだ。
「ええと、では、お世話になっておいて申し訳ないですが、元の世界に戻していただけませんか?」
青峰にお願いした。
『えええ、帰っちゃうの……?』
元白は涙目だ。
『あの、この状態ですと、次元の壁を越えられずに、命を落とされるかと……』
青峰は気まずそうに言った。
そんな危険な状態なのか……。
俺はそれでもかまわないけど。
元白が泣きそうだな。
『うっ、……ふえええ、』
ああ、元白がとうとう泣き出した。
「……下界とかでも、駄目?」
『おそらくは……』
青峰は俯いている。
元白は大泣きだ。困ったもんだ。
*****
『あの、』
『ははは、だから云ったであろう。わたしを袖にしたこと、後で悔やむことになると!』
何か言おうとした青峰に割り込んで。
呼んでもいないのに雷音が来た。
「悔やんでない。帰って」
帰らずに、雷音は俺の側にいた二人を見て。
『……元白、青峰。席を外せ』
『しかし、』
『命令である』
強く言って。
雷音は二人を部屋から追い出した。
……何をする気だよ?
レインって、本当に、本物の皇帝陛下なのかよ!?
で。
その、ここで一番偉いヒトが、何で俺なんかをツガイにしたがってるんだ?
……ん? あの子供が、レインの部下とかで。
それで助けを呼んだってことか。
部下にしては、若すぎるけど。部下の子供とか?
まあいいか。
外国人みたいだし、日本語がおかしくてもしょうがない。
「事実を言っただけなんだけど。……とにかく、元の場所に戻して欲しいんだ」
とりあえず、話の通じそうなシュカクに言った。
『元の場所って。まさか、あの水の中かい? でも、君を死なせたら、元白が泣いちゃうけど。いいの?』
シュカクは苦笑したような顔で、肩を竦めてみせた。
う。
子供を泣かせるのは、ちょっと後味が悪いか。
でも。
決めたことだし。
「自分の家に戻ったって言えばいいよ」
俺のことなんて、すぐに忘れるだろう。
大人になったら。
シュカクは少し考えるように目を閉じて。
首を傾げていた。
『んー、では、雷音陛下のツガイとしてでなくて、自由にここで暮らしていい、と云ったら。元の場所に戻せとはもう云わない?』
「……それなら、うん。何か職があれば嬉しい」
頷いてみせたら。
シュカクは困ったようにレインを振り返った。
『……陛下、いったい何をしたらここまで嫌われるんです?』
『瀕死の身に精を注ぎ、ツガイにしただけだ』
レインはむすっとして。
『わたしを袖にしたこと、後で存分に悔やむがいい』
などと捨て台詞を言い残して、部屋を出て行った。
全裸のままで。
いいから服着ろ。
*****
信じられないことに。
ここは外国でもなくて、いわゆる”異世界”というところだった。
一つの大陸が、宙に浮かんでいる状態で。その下にはまた巨大な陸がある。
ここは”龍の国”だという。
西洋のドラゴンじゃなく、中華風の龍。
朱赫に大陸の端っこに連れてってもらって、この”国”が宙に浮かんでいることを確認したから間違いない。
実際にそれを目にしては、異世界であることを信じないわけにはいかない。
大地の下に雲がある光景は圧巻だった。
雲の下には”人間”の住む世界があるそうだけど。
俺の住んでいた世界とは違うという。
文化レベルが低くて危険だから降りないほうがいい、と言われた。
いや、そんなこと言われても、降りる方法わかんないし。
龍のあぎとは、この異世界への出入口になっているようだ。
うっかり外に出た元白が、風に煽られて。水溜りに落ちたパニックで溺れてしまったそうだ。
空を飛べるのに、泳げないんだ……。
あの龍は、元白の龍姿だという。
ここの国の人は皆、それぞれ龍姿を持っているらしい。
朱赫は赤い龍だそうだ。
レッドドラゴンか。かっこいいな。
*****
親切な朱赫のはからいで、ここの事を学びながら働ける職を紹介された。
膨大な図書の整理だという。
異世界なのに、何故ここの言葉や文字が理解できるのかは不思議だけど。
図書室には緑 青峰という、黒髪に碧色の瞳をした物静かな美青年がいて。
自分はここの蔵書の管理をしていると言った。
とにかく本が多すぎて、どこに何の本があるかわからず困っているというので。
棚ごとに、歴史なら歴史を年代順に、ジャンルで分けて並べることにした。
制服として与えられた着物のような服は、深衣というらしい。
部屋も与えられて、三食・おやつも出る。
休憩あり、残業はなし。
上司は優しいし、セクハラもしてこない。
衣食住、全てに恵まれた環境である。
ホワイトにもほどがある。
ここが天国か。
すっかり俺に懐いてしまった元白が、ちょくちょく図書室に顔を出してはおやつなどを一緒に食べたりして。
とても快適に過ごしていた。
しばらくの間は。
しかし。
良い事ばかりは続かなかった。
俺は、不幸な星の元にでも生まれているのだろうか。
*****
ある日。
突然、起き上がれなくなってしまった。
起きようとしても、身体の力が抜けてしまう。
脱力感、というか。
極限までの飢餓感って、こんな感じだろうか? みたいな。
全身の細胞が渇して、何かを求めている感覚。
来るのが遅いからと、様子を見に来てくれた元白が、俺が寝床でぐったりしているのを見て。
慌てて青峰を呼んでくれた。
『ああ、これは。……”龍気”が切れたようですね』
青峰が教えてくれた。
ここで暮らすには、”龍気”というものが必要だという。
元白や青峰らは生まれながらに持っているので大丈夫だけど。
異世界から来た俺は、定期的に誰かから与えられないと、ここでは生きていけないのだそうだ。
つまり。
精を注入されないと、死ぬってこと?
それで、あんな風に言ってたのか。
雷音の捨て台詞を思い出して、ムカムカしてきた。
あいつにお願いして精を注入してもらうくらいなら、元の世界に戻って首でも吊った方がマシだ。
「ええと、では、お世話になっておいて申し訳ないですが、元の世界に戻していただけませんか?」
青峰にお願いした。
『えええ、帰っちゃうの……?』
元白は涙目だ。
『あの、この状態ですと、次元の壁を越えられずに、命を落とされるかと……』
青峰は気まずそうに言った。
そんな危険な状態なのか……。
俺はそれでもかまわないけど。
元白が泣きそうだな。
『うっ、……ふえええ、』
ああ、元白がとうとう泣き出した。
「……下界とかでも、駄目?」
『おそらくは……』
青峰は俯いている。
元白は大泣きだ。困ったもんだ。
*****
『あの、』
『ははは、だから云ったであろう。わたしを袖にしたこと、後で悔やむことになると!』
何か言おうとした青峰に割り込んで。
呼んでもいないのに雷音が来た。
「悔やんでない。帰って」
帰らずに、雷音は俺の側にいた二人を見て。
『……元白、青峰。席を外せ』
『しかし、』
『命令である』
強く言って。
雷音は二人を部屋から追い出した。
……何をする気だよ?
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