上 下
59 / 71
幕間Ⅶ

記念日

しおりを挟む
リンがこの世界、我が国に来て、もう5年になる。

この5年で、我が国はかなり発展した。
森の復活により製紙工場で紙が作られ、印刷工場で本を印刷する。それまで本の清書をしていた職人は皆、印刷工場で活躍している。

ゴムの加工も色々できるようになり、馬車にはゴムタイヤがつけられた。
靴底などの緩衝材だけでなく、ボールや風船などの遊び道具、”浄化”を持たない人用のコンドームなども作られた。


水も豊富に使えるようになり、自宅に風呂やシャワーを取り付ける一般家庭も出てきた。
トイレも水洗に替わり、殺菌消毒後堆肥にするアイデアは他国からも称賛された。

牧場では食肉用の牛、豚、鶏だけでなく、乳牛を多数育て。バターやチーズなどの乳製品も多く出回るようになった。
リンの希望で母体を酷使させないよう、乳牛一匹につき妊娠させるのは年に最大二回までと決め、生まれた子牛も人気で、子牛を見に人が集まるようになった。


サトウキビを栽培したので、塩湖の塩に加え、砂糖も安定供給されるようになり。
リンが様々な料理のレシピをスキート商会を通して発表したため、我が国だけでなく、周辺諸国の食生活も飛躍的に向上した。

最近はテングサを育て初め、あんみつや寒天ゼリーなどのスイーツが大人気だという。


*****


リンが”創造”した材料を増やす畑、加工する工場など。魔物との戦いで家や職を失った者の雇用にも役立っている。

スキート商会は、毎日忙しく。嬉しい悲鳴を上げている。
息子のラドクリフがリンを見る目が最近怪しいのが気になるところであるが。


リン本人は、冒険者協同組合からも一目置かれる最高レベルの冒険者となり、成犬姿のシロと共に狩りに出ては大物を狩ってくるという。

昨日も大蛇を討伐したらしく。
その肉で作ったという唐揚げをご馳走になった。皮は、鞄や財布などに加工するため、商会に預けたそうだ。


「旨い。蛇というから、骨っぽくて堅いと思っていたが。思ったり柔らかいね。あっさりした鶏肉のようだ」

「うん。あっさりしてるから、濃いめの下味付けて唐揚げにしてみたんだ」
肉を柔らかくするため、サッパロットパイナップルの酵素を使ったという。

相変わらず、料理にこだわりを感じる。招かれざる客であろう私たちに、毎回手の込んだ料理を作ってくれる。
さすが調理師として10年以上のキャリア持ちだけある。


「そういえば、リンは5年前の今日、この世界に来たのだよね?」
誕生日はいつなのだろう?


とりあえず、毎年リンが来たこの日には、贈り物を持ってきているが。


*****


「どれどれ。わあ、レベル76だって」
リンはステータス画面を確認しているようだ。

「5年でそれは早いね」
「えへへ。……ウィルはレベルいくつ?」

リンは冒険者レベルのようだが。私の場合、魔物や盗賊の討伐だけでなく、国王としての功績でもレベルが上がるからな。

「私? 先日169になったよ」
「ええ、倍以上差があるじゃん……」

拗ねているリンも可愛い。
成長して、30センチほど背が伸びたが。相変わらず可愛い。


「あ、15歳になってた。こっちじゃ今日が誕生日みたい」

「何だと!?」
思わず腰を浮かしかけたが。まだ食事中なので、おとなしく座る。


「お酒解禁だ。わーい」
「誕生日だと教えてくれれば、祝いの品を用意したのに……」

「ウィルのは知ってる。1月1日だよね。リューセーもそうだった」
覚えていてくれるのは嬉しいが。

流星については、もう忘れて欲しい。黒歴史のようなものだ。


「あ、じゃあお祝いに歌って欲しいな。ウィルは声も良いし。”forever~星降る夜に、君と~”がいい」
よりによって。作詞作曲榊原流星のラブソングをリクエストするとは。


「とんだ拷問だ!」


*****


何処から聞いたか。
今日で成人だと聞きつけたスペンサー夫妻は、奮発して豚の丸焼きと、奥方はケーキを焼いて祝いに来た。

メイヤー師は教会の神職たち、冒険者協同組合からは組合長と副組合長、リンの顔見知りの冒険者がそれぞれ祝いの品を手に訪れ。スキート商会からはラドクリフが代表で酒や料理を持って来た。


今日はリンの誕生日である。
なるべく主役は働かせないようにしよう、との気遣いから、皆がこぞってリンから教わった料理を作ったのだが。

料理好きなリンは、我慢できなかったようで。プリンやゼリーなどのデザートを出していた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

夫の心がわからない

キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。 夫の心がわからない。 初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。 本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。 というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。 ※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。 下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。 いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。 (許してチョンマゲ←) 小説家になろうさんにも時差投稿します。

処理中です...