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幕間Ⅶ
贅沢なランチタイム
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教会の方から、鐘の音。
「今のは、昼休み……12時を報せる鐘だ」
「もう鐘を取り付けたんだ?」
鐘どころか、教会すらもう完成していてもおかしくない。
「あの、お昼ご飯作ったんですけど。ご一緒にどうですか?」
リンは弁当の入ったバスケットを掲げた。
「勿論、いただきます!」
待ってました、とばかりにメイヤー師が顔を出した。
「我々もご相伴させて頂けますでしょうか!」
オズワルドとオーソンも。
概ね、予想通りである。
*****
「はうっ!? こ、こちらはププププププ狛犬様では!?」
メイヤー師はリンのバスケットから私の持っているランチボックスへ視線をやり、私が抱いていた子犬の存在に気づいたようだ。
道の向こうに、まだ職人がいるだろう。
あまり騒がれても困る。
「この子犬は、リンの飼い犬のシロだよ? 狛犬そっくりだけど、マラミュートという犬種の犬だ」
笑顔で圧を掛ける。
「し、しかし、」
「マラミュートのシロ」
シロはキャン、と返事をするように鳴いた。
「マ、マラミュートのシロ、様ですね!」
こくこくと頷いた。
「ところで、管理人小屋はあれで大丈夫かね?」
私がスペンサー夫妻の視線を他に向けている隙に、リンは大きなテーブルと椅子を作り、テーブルに赤いチェックのテーブルクロスを敷いた。
家臣であるオズワルドとオーソンがいるので、私が手伝う訳にもいかない。
二人にテーブルのセッティングを手伝わせた。
*****
「お昼だから、お酒は持ってきてないよ。お茶でいい?」
「おお、お茶は貴重品なので大歓迎ですよ」
メイヤー師は大喜びで答えた。
今までは、水が貴重だった。
水を沸かし、湯で煮出す必要のある茶は、貴族に好まれる高級品である。
「これからは貴重品じゃなくなると思うけど」
「ありがたいことです」
大量のロールサンド、カリフォルニアロール。大皿におかずを盛りつけ。
リンは仕上げに、サラダボウルの野菜サラダにサウザンアイランド・ドレッシングを掛けた。美味そうだ。
取り分け用の皿、茶の入ったマグカップが置かれる。
「スペンサー夫妻の復職と、教会開設に」
メイヤー師はマグカップを掲げた。……ああ、もう教会は出来ていたのか。
「チョンゲーウ!」
周囲は森の緑、湖からそよぐ風。
傍らには、可愛いリン。
美味なる昼飯。
なんとも贅沢な時間である。
用意した昼食は、一時間もしないうちに皆の胃袋に納まってしまったのだが。
「美味しい料理をありがとう」
「はじめて食べるものばかりだったわ」
スペンサー夫妻も、リンの料理の虜になったようだ。
*****
そうして。
リズリーには、教会を建てたメイヤー師と森林管理人のスペンサー夫妻だけでなく。
空き地を農地にするため、魔物の大発生により職を失った農夫を優先的に選び、合計15世帯ほどが越してきた。
彼らが新天地としてリズリーを希望したのは、新たに教会ができたのが一番の理由だが。
心優しいリンが近所の住人におやつなどを振舞い、それがまた大好評で。移住した者たちから、かなり喜ばれているという。
リンの家の周囲は、ちょっとした村のようになった。
翌年の税収もかなり期待できるとの話である。
身体が大きく、足の速いこの世界の馬であっても、リズリーまでは往復三時間ほどの距離だが。私たちは、時間があればリンの家へ通った。
オズワルドたちは、リンの料理に胃袋を掴まれたからだそうだが。
リズリーには、巡回という名目で来ている。実際、野盗やはぐれ魔物も討伐している。弱い魔物ならば、ナムグンが威嚇すれば逃げる。
シロがいれば安心ではあるが。防犯のため、冒険者協同組合の出張所でも作るべきか。
リンの作った貯水池、湖のおかげで我が国の水不足は解消された。
塩湖もその美しさから、早くも観光名所となっている。
リンのおかげで、この国は前以上の国威を取り戻した。
しかし、リン本人は謙虚であり、遠慮深い。何かを作る際は私と相談した上で作りたいという。
*****
印刷会社を作りたいとの相談を受けた時も。
電話から電気、発電所の話になり、さすがにそのレベルの開発はまずいのでは、という話題になったのだが。
神は、わざわざ職務中のメイヤー師に”何でも望むものを作って良い、詳しく思い浮かべなくても問題ない”との伝言を持って来させたくらいである。
これも公私混同というのだろうか?
私が”神託”スキルをミュートしたせいだろうが。
「今のは、昼休み……12時を報せる鐘だ」
「もう鐘を取り付けたんだ?」
鐘どころか、教会すらもう完成していてもおかしくない。
「あの、お昼ご飯作ったんですけど。ご一緒にどうですか?」
リンは弁当の入ったバスケットを掲げた。
「勿論、いただきます!」
待ってました、とばかりにメイヤー師が顔を出した。
「我々もご相伴させて頂けますでしょうか!」
オズワルドとオーソンも。
概ね、予想通りである。
*****
「はうっ!? こ、こちらはププププププ狛犬様では!?」
メイヤー師はリンのバスケットから私の持っているランチボックスへ視線をやり、私が抱いていた子犬の存在に気づいたようだ。
道の向こうに、まだ職人がいるだろう。
あまり騒がれても困る。
「この子犬は、リンの飼い犬のシロだよ? 狛犬そっくりだけど、マラミュートという犬種の犬だ」
笑顔で圧を掛ける。
「し、しかし、」
「マラミュートのシロ」
シロはキャン、と返事をするように鳴いた。
「マ、マラミュートのシロ、様ですね!」
こくこくと頷いた。
「ところで、管理人小屋はあれで大丈夫かね?」
私がスペンサー夫妻の視線を他に向けている隙に、リンは大きなテーブルと椅子を作り、テーブルに赤いチェックのテーブルクロスを敷いた。
家臣であるオズワルドとオーソンがいるので、私が手伝う訳にもいかない。
二人にテーブルのセッティングを手伝わせた。
*****
「お昼だから、お酒は持ってきてないよ。お茶でいい?」
「おお、お茶は貴重品なので大歓迎ですよ」
メイヤー師は大喜びで答えた。
今までは、水が貴重だった。
水を沸かし、湯で煮出す必要のある茶は、貴族に好まれる高級品である。
「これからは貴重品じゃなくなると思うけど」
「ありがたいことです」
大量のロールサンド、カリフォルニアロール。大皿におかずを盛りつけ。
リンは仕上げに、サラダボウルの野菜サラダにサウザンアイランド・ドレッシングを掛けた。美味そうだ。
取り分け用の皿、茶の入ったマグカップが置かれる。
「スペンサー夫妻の復職と、教会開設に」
メイヤー師はマグカップを掲げた。……ああ、もう教会は出来ていたのか。
「チョンゲーウ!」
周囲は森の緑、湖からそよぐ風。
傍らには、可愛いリン。
美味なる昼飯。
なんとも贅沢な時間である。
用意した昼食は、一時間もしないうちに皆の胃袋に納まってしまったのだが。
「美味しい料理をありがとう」
「はじめて食べるものばかりだったわ」
スペンサー夫妻も、リンの料理の虜になったようだ。
*****
そうして。
リズリーには、教会を建てたメイヤー師と森林管理人のスペンサー夫妻だけでなく。
空き地を農地にするため、魔物の大発生により職を失った農夫を優先的に選び、合計15世帯ほどが越してきた。
彼らが新天地としてリズリーを希望したのは、新たに教会ができたのが一番の理由だが。
心優しいリンが近所の住人におやつなどを振舞い、それがまた大好評で。移住した者たちから、かなり喜ばれているという。
リンの家の周囲は、ちょっとした村のようになった。
翌年の税収もかなり期待できるとの話である。
身体が大きく、足の速いこの世界の馬であっても、リズリーまでは往復三時間ほどの距離だが。私たちは、時間があればリンの家へ通った。
オズワルドたちは、リンの料理に胃袋を掴まれたからだそうだが。
リズリーには、巡回という名目で来ている。実際、野盗やはぐれ魔物も討伐している。弱い魔物ならば、ナムグンが威嚇すれば逃げる。
シロがいれば安心ではあるが。防犯のため、冒険者協同組合の出張所でも作るべきか。
リンの作った貯水池、湖のおかげで我が国の水不足は解消された。
塩湖もその美しさから、早くも観光名所となっている。
リンのおかげで、この国は前以上の国威を取り戻した。
しかし、リン本人は謙虚であり、遠慮深い。何かを作る際は私と相談した上で作りたいという。
*****
印刷会社を作りたいとの相談を受けた時も。
電話から電気、発電所の話になり、さすがにそのレベルの開発はまずいのでは、という話題になったのだが。
神は、わざわざ職務中のメイヤー師に”何でも望むものを作って良い、詳しく思い浮かべなくても問題ない”との伝言を持って来させたくらいである。
これも公私混同というのだろうか?
私が”神託”スキルをミュートしたせいだろうが。
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