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幕間Ⅵ

幸せな朝食

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「それで、……リン?」

見れば、すやすやと寝息を立てていた。
先ほどまで、元気そうに話していたのに。精神が大人でも、身体はまだまだ子供だ。電池が切れたように寝てしまうのは同じようだ。

私自身、この肉体とウィリアムとしての記憶にかなり引きずられているからな。
もう、朝起きて混乱するようなことはないが。

神も、罪なことをしてくれる。


私も、そろそろ眠くなってきた。テレビなどの娯楽のない世界だ。普段から夜更かしをせず寝ているため、勝手に眠くなる。
といっても、あのベッドでは安眠できないのだが。

強張った背中はほぐせば治るが、年を取ったら腰などがきつくなりそうだ。
是非ともリンと協力して、ベッドの向上を進めたいものだ。


リンを抱き上げて、階段を上る。

「……”浄化”」
自分の身体と。リンに”浄化”の魔法を施す。相当な綺麗好きのようなので、清潔に保った方が良いだろう。

メイヤー師の転がっていたベッドカバーも浄化して。
リンを寝間着に着替えさせる。自分の服も脱いで、ハンガーにかけておく。


……おやすみ、リン。


*****


腕の中のあたたかいものが、動いている。

目を開けると、視界に黒い髪。
……ああ、そうだ。昨夜はリンが日本人の転生者であることが判明し、遅くまで語り明かしたのだった。

どこも痛くない。
いい寝具は大事だと、つくづく実感する。


「何で、すっぽんぽんで寝てるの?」
「服を着たままだと締め付けられるのが嫌で、よく眠れなくてね」

流星の時から裸族だったせいか、転生しても服を着て寝るのがどうも気持ち悪かった。
城で、毎晩寝る前に使用人に着替えさせるのが面倒だという理由もあるが。簡単な服なら、着ていても寝ぼけて脱いでしまう。

「野営とか、大丈夫だった?」
「ああ、逆にぐっすり眠れないのでね。丁度良かったよ」
いつ魔物の襲撃があるとわからない状況で、寝ぼけて装備を脱いでしまっては危険である。常に緊張していた。


「あ、いけね。昨夜、お風呂入るの忘れた……」
リンは、せっかく作った風呂に入らずに寝てしまったことを悔やんでいるようだ。

「風呂に入れてあげたかったけど、私もさすがに眠かったので、”浄化”して着替えさせただけで寝てしまった」
「そ、そこまでしなくていいから、」
赤くなっている。可愛い。

「ちゃんと、お口の中も浄化したからね?」
と言って、唇をつついてやると。もっと真っ赤になった。


さて、リンは着替えを見られるのは嫌なようだし。部屋を出るとするか。

「あ、忘れてた。……おはよう、可愛い人」
可愛いリンの、可愛い泣き黒子にキスを落とした。


「んもう! ……着替えたら朝ご飯作るから、テラスで待ってて」
背中を押された。

「朝は和食がいいな。スタンダードなやつ」
「わかった!」


照れ隠しに怒ってみせるとか、可愛すぎる。


*****


階下に降りて。
昨夜片付け忘れていたグラスなどを浄化して、食器棚に戻しておく。

ガラス戸を開け、テラスに出る。

爽やかな朝だ。
こんな清々しい気分で朝を迎えたのは、何年ぶりだろうか。


たたた、と軽い足音。
着替えの終わったリンが降りてきた。

私が出しておいた一式を素直に来てくれたようだ。似合っていて可愛い。


「喉渇いたら、冷蔵庫のジュースとか勝手に飲んでていいからね、」
と声を掛け、キッチンに向かった。

いっそここに住み込んでしまいたくなった。


味噌汁の具はワカメと豆腐、ネギ、油揚げか。炊き立てのご飯。紅シャケと箸休め。目玉焼き、生野菜サラダというメニューだった。

「あと、お好みで焼き海苔、梅干し、お漬物もどうぞ」
テーブルに置かれる和朝食。


「いただきます」
まずは味噌汁からいただいてみる。

出汁の味がしっかり出ていて。香りも良い。
流星は家庭の味をよく知らなかったが。これが家庭で出てきたら、もう外食などできなくなってしまうだろう。


「こんな美味しい朝食は前世振りだ。ウィリアムにとっては初めてになるね。……しみるなあ」

「出汁は鰹節と昆布、味噌は白と赤の合わせ味噌にしたけど、大丈夫?」
東北は赤で塩味が強く、京都の方は白味噌で甘いという。

「好みの味だよ。いくらでも飲めそうだ」
昨日、オズワルドとオーソンも言っていたが。これは毎朝でも飲みたい。

「それは塩分過多!」
真面目に叱られてしまった。

それも嬉しいものだ。
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