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Ⅷ
異世界で、餓えた狼に襲われる。
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厨房も大改装したようだ。
コンロや冷蔵庫、水道周りはうちのキッチンを参考にしたそうで。かなり使いやすくなったと料理人たちから好評をいただいた。それは何より。
料理長は、何か作りたい時は自由に使っていい、大歓迎だと言ってくれた。
作るのも好きだけど。
誰かが作ってくれた料理を食べるのも好きなんだよな。
俺の知っているレシピのほとんどは伝授したし。なるべく、ここで働いてる人の仕事を取りたくないという気持ちもある。
たまに、おやつを作って振舞うくらいならいいかな?
*****
ウィリアムの部屋の前で、オーソンとオズワルドは頭を下げた。
「以降の本日の予定は空けておきました。ごゆっくり」
「ご苦労」
ウィリアムは鷹揚に頷いた。
ドアを開けて、中に入ると。
真っ先に目に入ったのは、正面に見える窓だった。
「あ、ガラス窓になってる」
魔物の襲撃とかあった時は鎧戸で。ガラスは割れると危険だし、貴重なので窓に使ってなかったけど。ここ数年は平穏なので、窓にガラスを入れることを決めたそうだ。
といっても、まだ大きな板ガラスを作る技術がいまいち未熟らしく、ステンドグラスになってる。
でも、俺はこっちの方が綺麗だし、好きだな。
そして。続きの間である寝室いっぱいに鎮座している、大きくてゴージャスな天蓋付きベッド。
カーテンみたいになってるレースが細かくて綺麗だ。
「あ、すごい。ぽよぽよしてる」
ウィリアムが切望していた、軟らかいマットレス。完成したんだ。
ウォーターベッドで、夏は冷水、冬は温水を循環させるそうだ。ハイテクだなあ。
「どんなに運動しても破れないくらい、丈夫に作っておいたから。安心していいよ?」
意味深に言って。ウィンクしてみせた。
運動って。……そういう意味だよな?
全くもう。
「それにしても、ここまで無防備にされると、少々罪悪感を覚えるね」
「……え?」
やわらかいベッドに押し倒されて。
ウィリアムの腕の中に閉じ込められていた。
*****
「餓えた狼に、可愛いお尻を向けてはいけない、と教わらなかったかね?」
いやいや、いつ、誰に教わるんだよ? そんなの初耳だって。
俺が大人になるのを待って、17、8の滾る肉欲を自家発電で我慢していた責任を取るように、とか言われても。
「が、我慢してって、俺がお願いした訳じゃないし、」
「ん? 君は、私が君を好ましく想っていながら、他の誰かを抱いてたとしたら、どう思う? 嫌ではないのかな?」
ウィリアムが。他の誰かを?
前世の俺は、極端に性欲が薄かったけど。
今は、ウィリアムに教えられて。性器に触れられたり、抱き合うのが気持ち良いと知った。
こんな快感を知ったら、もうウィリアムと離れて住みたいなんて思わないくらい。
リューセーは、若い頃からモテモテだったようだし。彼女も、何人かいただろう。もしかしたら、彼氏も。
……でも、前世のことは、もうどうしようもないし。考えないようにしとこう。
ウィリアムが、性欲を抑えることができなくなって。それを解消するために、誰かを抱いたら?
俺たちはまだ結婚してないし。付き合う前なら、浮気にはならないけど。
俺のことを好きなのに、別の誰かを抱くなんて。恋人じゃなくて、それが商売の人相手でも。
「……なんか、嫌だ」
胸の辺りがもやもやする。このもやもやした気持ちが、嫉妬なのかな。
「ああ。そうだね。私も、誰にも君を渡したくない」
嬉しそうに、ぎゅっと抱き締められる。
だからずっと、変な虫がつかないように見張ってたって?
それはちょっと、引くかな……。
*****
「ん、」
ウィリアムはまた、俺の右目の下のホクロにキスを落とした。
「なんで、そこばっか、キ、キス、するの?」
「何故って? 君の泣き黒子って妙に色っぽくて。何となく、誘われてるような気になるんだよね」
いや、誘ってないです。
このホクロは生まれつきだけど。そんなことを言われたのは前世も含め、生まれて初めてだ。
ウィリアムこそ、フェロモンとか出てるに違いない。やたら色気があるし。
歩くだけ、座っているだけでも目を奪われる。
俺なんて、非モテで冴えない、その辺にいるような普通の日本人だというのに。何で美貌の王様とこんなことになってるのか。本当に不思議だ。
コンロや冷蔵庫、水道周りはうちのキッチンを参考にしたそうで。かなり使いやすくなったと料理人たちから好評をいただいた。それは何より。
料理長は、何か作りたい時は自由に使っていい、大歓迎だと言ってくれた。
作るのも好きだけど。
誰かが作ってくれた料理を食べるのも好きなんだよな。
俺の知っているレシピのほとんどは伝授したし。なるべく、ここで働いてる人の仕事を取りたくないという気持ちもある。
たまに、おやつを作って振舞うくらいならいいかな?
*****
ウィリアムの部屋の前で、オーソンとオズワルドは頭を下げた。
「以降の本日の予定は空けておきました。ごゆっくり」
「ご苦労」
ウィリアムは鷹揚に頷いた。
ドアを開けて、中に入ると。
真っ先に目に入ったのは、正面に見える窓だった。
「あ、ガラス窓になってる」
魔物の襲撃とかあった時は鎧戸で。ガラスは割れると危険だし、貴重なので窓に使ってなかったけど。ここ数年は平穏なので、窓にガラスを入れることを決めたそうだ。
といっても、まだ大きな板ガラスを作る技術がいまいち未熟らしく、ステンドグラスになってる。
でも、俺はこっちの方が綺麗だし、好きだな。
そして。続きの間である寝室いっぱいに鎮座している、大きくてゴージャスな天蓋付きベッド。
カーテンみたいになってるレースが細かくて綺麗だ。
「あ、すごい。ぽよぽよしてる」
ウィリアムが切望していた、軟らかいマットレス。完成したんだ。
ウォーターベッドで、夏は冷水、冬は温水を循環させるそうだ。ハイテクだなあ。
「どんなに運動しても破れないくらい、丈夫に作っておいたから。安心していいよ?」
意味深に言って。ウィンクしてみせた。
運動って。……そういう意味だよな?
全くもう。
「それにしても、ここまで無防備にされると、少々罪悪感を覚えるね」
「……え?」
やわらかいベッドに押し倒されて。
ウィリアムの腕の中に閉じ込められていた。
*****
「餓えた狼に、可愛いお尻を向けてはいけない、と教わらなかったかね?」
いやいや、いつ、誰に教わるんだよ? そんなの初耳だって。
俺が大人になるのを待って、17、8の滾る肉欲を自家発電で我慢していた責任を取るように、とか言われても。
「が、我慢してって、俺がお願いした訳じゃないし、」
「ん? 君は、私が君を好ましく想っていながら、他の誰かを抱いてたとしたら、どう思う? 嫌ではないのかな?」
ウィリアムが。他の誰かを?
前世の俺は、極端に性欲が薄かったけど。
今は、ウィリアムに教えられて。性器に触れられたり、抱き合うのが気持ち良いと知った。
こんな快感を知ったら、もうウィリアムと離れて住みたいなんて思わないくらい。
リューセーは、若い頃からモテモテだったようだし。彼女も、何人かいただろう。もしかしたら、彼氏も。
……でも、前世のことは、もうどうしようもないし。考えないようにしとこう。
ウィリアムが、性欲を抑えることができなくなって。それを解消するために、誰かを抱いたら?
俺たちはまだ結婚してないし。付き合う前なら、浮気にはならないけど。
俺のことを好きなのに、別の誰かを抱くなんて。恋人じゃなくて、それが商売の人相手でも。
「……なんか、嫌だ」
胸の辺りがもやもやする。このもやもやした気持ちが、嫉妬なのかな。
「ああ。そうだね。私も、誰にも君を渡したくない」
嬉しそうに、ぎゅっと抱き締められる。
だからずっと、変な虫がつかないように見張ってたって?
それはちょっと、引くかな……。
*****
「ん、」
ウィリアムはまた、俺の右目の下のホクロにキスを落とした。
「なんで、そこばっか、キ、キス、するの?」
「何故って? 君の泣き黒子って妙に色っぽくて。何となく、誘われてるような気になるんだよね」
いや、誘ってないです。
このホクロは生まれつきだけど。そんなことを言われたのは前世も含め、生まれて初めてだ。
ウィリアムこそ、フェロモンとか出てるに違いない。やたら色気があるし。
歩くだけ、座っているだけでも目を奪われる。
俺なんて、非モテで冴えない、その辺にいるような普通の日本人だというのに。何で美貌の王様とこんなことになってるのか。本当に不思議だ。
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