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幕間Ⅳ
お宅訪問
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そういえば、有名人のお宅訪問の仕事もしたな、と遠い記憶を思い出しながら、家の中に入ると。
広々とした大理石……いや、これは確か、御影石だ。
御影石の三和土に迎えられ。ウォークインクローゼットと、シューズボックス。段差のないフローリングの床。
「あ、この白い床からは土足厳禁だからね。靴のまま入るのは衛生上にもよくないし」
スリッパを出された。
道にはいろいろな雑菌が落ちてるのに、道を歩いて汚れた靴でそのまま家の中に入るのは不衛生である。
浄化魔法を持たない人でも、手洗いなど気を付けることで感染リスクを下げることができる、と得意げに皆に説明しているのが可愛らしい。
メイヤー師などは感心して聞いている。彼にとっては神の教えにも等しいだろう。
「って訳で、洗面所で手洗いとうがいしてね」
タオルを渡された。
*****
私とメイヤー師は”浄化”を持っているのだが。
メイヤー師は嬉しげに、いそいそと洗面所へ向かった。
「これはレバー式の蛇口。ここをこっちに回すとお湯が出て、こっちは冷たい水が出るよ」
リンは皆に、洗面所の使い方を教えている。
ここの水は、湖からろ過装置付の水道を通したらしいが。
湯が出る仕組みは、どうなっているのだろう? 電線は無かった。電気も通ってないだろうに。発電機に、ガス湯沸かし器か?
……洗面所の横には、ドラム式洗濯乾燥機が鎮座している。リンも”浄化”を持っているのに。よほど洗濯好きなのだろうか?
私は前世ではほぼクリーニングで済ませ、今は使用人が全てやっている。自分でやりたいとは思わない。
オズワルドは、洗面所の奥にある風呂場の扉を勝手に開け、風呂場を覗き込んでいた。
この世界の人間には、これが何に使う部屋なのかわからないのだろう。
バスタブは大きなトイレではないぞ。
「うわあ、」
案の定、シャワーヘッドの真下でレバーを弄り、頭から冷水を浴びている。
やるだろうと思っていたが。期待を裏切らない男だ。
オズワルドは風魔法でずぶ濡れになった身体を乾かしたが。
それを見てリンが残念そうな顔をしていた。……そこのドラム式乾燥機を使いたかったのだろう。
「そこはお風呂だよ。その、バスタブにお湯を溜めて。シャワーで身体を洗ってから、お湯の溜まったバスタブに浸かるの」
「なんと贅沢な……」
「こちらの扉はトースアムですか?」
風呂場の隣にトイレがあったが。
一見、便座の見た目は似ているので、そこはどこも変わらないのか、という反応だった。
しかし、まだ皆、気づいていないようだが。
一番の違いは。
ここのトイレは水洗だが、この世界のトイレは汲み取り式である、というところだ。
これも以前からどうにか改革したい点だったが。
これからは水が豊かになるのだから、是非とも取り入れたいものだ。
*****
「これは、厨房ですか?」
家の一番奥にある、一人で使うには広めなアイランドキッチンに目を引かれたオーソンが、リンに訊いた。
「そう。こことそこは、後で説明するよ」
キッチンとウッドデッキのテラスを指差した。
廊下を挟み、洗面所の向かいにあるのはリビングルームか。
モダンな絨毯が敷かれ、低いガラステーブルに、椅子とソファーが置かれている。
一見装飾がなく、地味に見えるソファーだが。
オーソンが座面を手で押し、そのクッション性に驚いていた。
我が国のソファーは見た目は豪華だが、いまいち座り心地が悪いのだ。
何か物足りないと思えば。通常、テレビなどを置く場所だと思い至った。
テレビの代わりに日本式の床の間が。……これは。
「紙の戸とは、豪勢な……、」
「雪見障子……」
オズワルドは、まず高価である白い紙を贅沢に使用していることに着目していた。
私は、雪見障子と丸障子に驚いたが。
やはり、リンは日本人なのか?
……いや、まだわからない。あまり期待はしない方がいい。
****
リビングルームの先には緩やかな階段。
二階には、客室もあるようだ。奥が寝室で、その手前に書斎。まだ本がない状態だからか、メイヤー師はお仕置き部屋と勘違いしていた。
教会にはそんな部屋があるのか。
寝室もシンプルだ。
この家は、全体的に木目やモノトーンで統一されている。
パキラなどの観葉植物も配置され、まるでモデルルームのようだと思った。
ここで、ある意味勇者であるメイヤー師が、リンのベッドにダイブし。
ごろごろと転がった。
「はあああ、なんと素晴らしい……!」
家主より先に寝るとは。
「ああ、もうこのまま帰りたくない……」
などと言い出したので。
さすがに見過ごせず、メイヤー師の首根っこを掴み、ベッドから引きずり下ろした。
私も寝てみたかったというのに。全く、困った人だ。
広々とした大理石……いや、これは確か、御影石だ。
御影石の三和土に迎えられ。ウォークインクローゼットと、シューズボックス。段差のないフローリングの床。
「あ、この白い床からは土足厳禁だからね。靴のまま入るのは衛生上にもよくないし」
スリッパを出された。
道にはいろいろな雑菌が落ちてるのに、道を歩いて汚れた靴でそのまま家の中に入るのは不衛生である。
浄化魔法を持たない人でも、手洗いなど気を付けることで感染リスクを下げることができる、と得意げに皆に説明しているのが可愛らしい。
メイヤー師などは感心して聞いている。彼にとっては神の教えにも等しいだろう。
「って訳で、洗面所で手洗いとうがいしてね」
タオルを渡された。
*****
私とメイヤー師は”浄化”を持っているのだが。
メイヤー師は嬉しげに、いそいそと洗面所へ向かった。
「これはレバー式の蛇口。ここをこっちに回すとお湯が出て、こっちは冷たい水が出るよ」
リンは皆に、洗面所の使い方を教えている。
ここの水は、湖からろ過装置付の水道を通したらしいが。
湯が出る仕組みは、どうなっているのだろう? 電線は無かった。電気も通ってないだろうに。発電機に、ガス湯沸かし器か?
……洗面所の横には、ドラム式洗濯乾燥機が鎮座している。リンも”浄化”を持っているのに。よほど洗濯好きなのだろうか?
私は前世ではほぼクリーニングで済ませ、今は使用人が全てやっている。自分でやりたいとは思わない。
オズワルドは、洗面所の奥にある風呂場の扉を勝手に開け、風呂場を覗き込んでいた。
この世界の人間には、これが何に使う部屋なのかわからないのだろう。
バスタブは大きなトイレではないぞ。
「うわあ、」
案の定、シャワーヘッドの真下でレバーを弄り、頭から冷水を浴びている。
やるだろうと思っていたが。期待を裏切らない男だ。
オズワルドは風魔法でずぶ濡れになった身体を乾かしたが。
それを見てリンが残念そうな顔をしていた。……そこのドラム式乾燥機を使いたかったのだろう。
「そこはお風呂だよ。その、バスタブにお湯を溜めて。シャワーで身体を洗ってから、お湯の溜まったバスタブに浸かるの」
「なんと贅沢な……」
「こちらの扉はトースアムですか?」
風呂場の隣にトイレがあったが。
一見、便座の見た目は似ているので、そこはどこも変わらないのか、という反応だった。
しかし、まだ皆、気づいていないようだが。
一番の違いは。
ここのトイレは水洗だが、この世界のトイレは汲み取り式である、というところだ。
これも以前からどうにか改革したい点だったが。
これからは水が豊かになるのだから、是非とも取り入れたいものだ。
*****
「これは、厨房ですか?」
家の一番奥にある、一人で使うには広めなアイランドキッチンに目を引かれたオーソンが、リンに訊いた。
「そう。こことそこは、後で説明するよ」
キッチンとウッドデッキのテラスを指差した。
廊下を挟み、洗面所の向かいにあるのはリビングルームか。
モダンな絨毯が敷かれ、低いガラステーブルに、椅子とソファーが置かれている。
一見装飾がなく、地味に見えるソファーだが。
オーソンが座面を手で押し、そのクッション性に驚いていた。
我が国のソファーは見た目は豪華だが、いまいち座り心地が悪いのだ。
何か物足りないと思えば。通常、テレビなどを置く場所だと思い至った。
テレビの代わりに日本式の床の間が。……これは。
「紙の戸とは、豪勢な……、」
「雪見障子……」
オズワルドは、まず高価である白い紙を贅沢に使用していることに着目していた。
私は、雪見障子と丸障子に驚いたが。
やはり、リンは日本人なのか?
……いや、まだわからない。あまり期待はしない方がいい。
****
リビングルームの先には緩やかな階段。
二階には、客室もあるようだ。奥が寝室で、その手前に書斎。まだ本がない状態だからか、メイヤー師はお仕置き部屋と勘違いしていた。
教会にはそんな部屋があるのか。
寝室もシンプルだ。
この家は、全体的に木目やモノトーンで統一されている。
パキラなどの観葉植物も配置され、まるでモデルルームのようだと思った。
ここで、ある意味勇者であるメイヤー師が、リンのベッドにダイブし。
ごろごろと転がった。
「はあああ、なんと素晴らしい……!」
家主より先に寝るとは。
「ああ、もうこのまま帰りたくない……」
などと言い出したので。
さすがに見過ごせず、メイヤー師の首根っこを掴み、ベッドから引きずり下ろした。
私も寝てみたかったというのに。全く、困った人だ。
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