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Ⅳ
異世界で、まさかの
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プレストン、はシチューを一気飲みする勢いで食べて。
俺特製大人様ランチプレートを、黙々と、すごい勢いで平らげた。
細身なのに、よく入るな……。
「ああ……っ、それぞれの料理の味付けも強烈な個性があるというのに。この皿の中で争わず、一つの作品として完成されている……。これぞ至高の一皿……! おお、神よ。今、この時代に生を与えて下さって、本当にありがとうございます……!」
いきなり涙ながらに語り出したと思ったら、神様に祈ってる。
この人、もう完全に酔っ払ってない? 自力で帰れるかな……。
客室は作ったけど。あんまり泊めたくない。
*****
「本当にこれ、めちゃくちゃすごい発明だよ、リンちゃん。食堂開いてくれたらもう、毎日でも通っちゃう。俺、完全に胃袋掴まれちゃった」
今まで敬語で話していたオズワルドが、いきなりフレンドリーになっている。
元はこういう話し方なのだろうか。顔は真っ赤だ。
……リンちゃんって。
いや、酔っ払いに何を言っても無駄だ。
「ええ、私の年棒をそのまま貢いでも決して後悔しない味です。お願いします! 貢がせてくださいいぃぃぃ」
いや、祈られても困る。オーソンもだいぶ酔ってるなこれ。
あ、ビールの樽だけじゃなく、”創造”で作って置いといた発泡日本酒が10本全部空いちゃってる。
いくら”創造”で作ったから元手タダだからって、遠慮なしだな!
これ、甘口で口当たりがいいけど、度数わりと高いんだぞ? 確か14%くらいだったような。
急性アルコール中毒になった場合、回復魔法で治せるかな? それとも解毒魔法?
血中アセトアルデヒド除去でいいか。
でもこの国は、ワインやエールを水代わりに常飲してるくらいだ。アルコールには耐性があって、代謝がいいのかもしれないし。
*****
しかし皆、食べるの早いな……。ひと口が大きいのか。
「シチューは鍋にまだあるから。食べたかったら自分でよそって。パンはそこ」
と言った直後。
まずプレストンが皿を持ってダッシュして。
次にオズワルドがそれに追いついた。さすが騎士。後からオーソンも走って行った。
おーい、走ると、酔いが更に回るぞ……?
「シチューも絶品だったが。私は特に、ハンバーグが一番好みの味だ。あれには赤の葡萄酒がよく合いそうだ。溢れる肉汁に負けないくらいのね」
隣に座って黙々と食事をしていたはずのウィリアムが、いつの間にか、すぐ傍まで距離を狭めてきていた。
昨日も今朝も思ったが。近い。外国人、距離近い。パーソナルスペースとか無いんじゃないかってくらいだ。
「君の作る料理をこうして毎日でも食べたい。できれば店ではなく、独り占めしたいくらいだ」
毎日君の作った味噌汁が飲みたい、というベタなプロポーズを思い出してしまった。
ウィリアムは天使のような微笑みを浮かべ。
そっと、手を握られる。
「こんな小さな手で、あの大鍋を振るっていたとは、とても信じられないな。どんな魔法よりも素晴らしい世界を魅せてくれたお礼がしたいが。何がいいかな。私にはハムサンドくらいしか作れないけど。今度御馳走しようか」
ソフトタッチで手を撫でるの、やめてもらいたいんだが。
ウィリアムさんも、だいぶ 聞し召してらっしゃるご様子である。
これで酔ってなかったら、わりとこわい。
*****
……あれ?
さっきウィリアム、ハンバーグって言ったよな。
大人様ランチ、一つ一つの料理の説明はしなかった……と思う。食べてみれば材料がわかるような単純なものだし。
ハンバーグは。”タルタル”という名の、馬の生肉に味をつけてミンチにした、元々はモンゴルの馬賊が好んで食べていた料理だった。
それがドイツのハンブルグに伝わり、生の肉が苦手だった人がそれを焼いて食べたことから偶然できた料理だという。
”ハンブルグ発祥の肉料理”が日本に来る間に料理自体の名がハンバーグになっていた、という訳だ。
ハンバーグはこの世界には無かった料理だというし。
ここには当然、ドイツのハンブルグなんて知ってる人はいないだろう。
異世界では挽肉を丸めて焼いたもの、くらいの認識だと思う。他の皆も、そんな感じだった。
俺特製大人様ランチプレートを、黙々と、すごい勢いで平らげた。
細身なのに、よく入るな……。
「ああ……っ、それぞれの料理の味付けも強烈な個性があるというのに。この皿の中で争わず、一つの作品として完成されている……。これぞ至高の一皿……! おお、神よ。今、この時代に生を与えて下さって、本当にありがとうございます……!」
いきなり涙ながらに語り出したと思ったら、神様に祈ってる。
この人、もう完全に酔っ払ってない? 自力で帰れるかな……。
客室は作ったけど。あんまり泊めたくない。
*****
「本当にこれ、めちゃくちゃすごい発明だよ、リンちゃん。食堂開いてくれたらもう、毎日でも通っちゃう。俺、完全に胃袋掴まれちゃった」
今まで敬語で話していたオズワルドが、いきなりフレンドリーになっている。
元はこういう話し方なのだろうか。顔は真っ赤だ。
……リンちゃんって。
いや、酔っ払いに何を言っても無駄だ。
「ええ、私の年棒をそのまま貢いでも決して後悔しない味です。お願いします! 貢がせてくださいいぃぃぃ」
いや、祈られても困る。オーソンもだいぶ酔ってるなこれ。
あ、ビールの樽だけじゃなく、”創造”で作って置いといた発泡日本酒が10本全部空いちゃってる。
いくら”創造”で作ったから元手タダだからって、遠慮なしだな!
これ、甘口で口当たりがいいけど、度数わりと高いんだぞ? 確か14%くらいだったような。
急性アルコール中毒になった場合、回復魔法で治せるかな? それとも解毒魔法?
血中アセトアルデヒド除去でいいか。
でもこの国は、ワインやエールを水代わりに常飲してるくらいだ。アルコールには耐性があって、代謝がいいのかもしれないし。
*****
しかし皆、食べるの早いな……。ひと口が大きいのか。
「シチューは鍋にまだあるから。食べたかったら自分でよそって。パンはそこ」
と言った直後。
まずプレストンが皿を持ってダッシュして。
次にオズワルドがそれに追いついた。さすが騎士。後からオーソンも走って行った。
おーい、走ると、酔いが更に回るぞ……?
「シチューも絶品だったが。私は特に、ハンバーグが一番好みの味だ。あれには赤の葡萄酒がよく合いそうだ。溢れる肉汁に負けないくらいのね」
隣に座って黙々と食事をしていたはずのウィリアムが、いつの間にか、すぐ傍まで距離を狭めてきていた。
昨日も今朝も思ったが。近い。外国人、距離近い。パーソナルスペースとか無いんじゃないかってくらいだ。
「君の作る料理をこうして毎日でも食べたい。できれば店ではなく、独り占めしたいくらいだ」
毎日君の作った味噌汁が飲みたい、というベタなプロポーズを思い出してしまった。
ウィリアムは天使のような微笑みを浮かべ。
そっと、手を握られる。
「こんな小さな手で、あの大鍋を振るっていたとは、とても信じられないな。どんな魔法よりも素晴らしい世界を魅せてくれたお礼がしたいが。何がいいかな。私にはハムサンドくらいしか作れないけど。今度御馳走しようか」
ソフトタッチで手を撫でるの、やめてもらいたいんだが。
ウィリアムさんも、だいぶ 聞し召してらっしゃるご様子である。
これで酔ってなかったら、わりとこわい。
*****
……あれ?
さっきウィリアム、ハンバーグって言ったよな。
大人様ランチ、一つ一つの料理の説明はしなかった……と思う。食べてみれば材料がわかるような単純なものだし。
ハンバーグは。”タルタル”という名の、馬の生肉に味をつけてミンチにした、元々はモンゴルの馬賊が好んで食べていた料理だった。
それがドイツのハンブルグに伝わり、生の肉が苦手だった人がそれを焼いて食べたことから偶然できた料理だという。
”ハンブルグ発祥の肉料理”が日本に来る間に料理自体の名がハンバーグになっていた、という訳だ。
ハンバーグはこの世界には無かった料理だというし。
ここには当然、ドイツのハンブルグなんて知ってる人はいないだろう。
異世界では挽肉を丸めて焼いたもの、くらいの認識だと思う。他の皆も、そんな感じだった。
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