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幕間Ⅰ
或いはもう一つのプロローグ
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私は、かつて”異世界人の榊原流星”であった、前世の記憶のすべてを思い出した。
しかし、それほどショックは受けなかった。
流星は才能には恵まれていたものの、いいことの無かった人生だったが。
こうして異世界で生まれ変わり、見目麗しい、一国の王子として新たな人生を送ることになるのだから。
むしろ前と比べ、いいことづくめの人生である。
第二王子なので国王にはなれないが。いずれは領地を与えられ、侯爵になるだろう。
……そう思っていたのだが。
*****
その時に与えられた”神託”は。
もうじき私が、この国の次の王になる、との預言を告げたのだ。
これから数年も経たぬうちに我が国で魔物が大発生し、国王である父と、王太子である兄を失くすのだと。
しかし。
あれを”神託”と言っていいのだろうか?
途中で邪神からの介入があったようなので、その預言をしたのがどちらの声だったのか、わからないのだ。
邪神は人の心を惑わせるのが巧みであるという。
前世の記憶を戻したのは、間違いなく邪神の仕業だと思われる。
あのような醜悪な記憶、お綺麗な王子様には不要なものだ。
一瞬の隙を狙ったか。
誰も、私が”邪神”と交信したことに気づかなかった。神すらも。
神も、万能ではないのだろう。
どちらの神も、この世界に直接介入することはできない。大いなる力を授けるから、どうにか人間だけで解決しろというのだ。
この世界と地球を創った”神”は、”神の使者”の補佐をするために、私に闇以外の属性魔法を授けたと思われる。
そして、”邪神”は、私に転生前の記憶と、何もかもを破壊し得る、莫大な闇魔法を力を与えた。
この世に混乱を与えたいのだから、これは確実だろう。
私は神と邪神により、全属性魔法を得てしまったのである。
お陰で、冒険者組合で属性を測るのに苦労した。
”神の加護”による能力は隠さなければならない。
何故なら、国を越えた騒ぎになることが予想されるからだ。
あまりに強すぎる力は不安を呼ぶものだ。
*****
翌年。
魔物の数は徐々に増えていき。更に突然の爆発的な大発生により、国民の生活をも逼迫し始めた。
兵隊だけでなく、冒険者組合や他国からも傭兵を募り、全力で魔物の討伐に当たった。
豊かな我が国といえど、国庫の貯えは無尽蔵ではない。
預言を聞いてから、この時のために、冒険者として外貨を稼ぎに行き、兵糧を貯えながら経験値を上げていたのだが。
戦いは、予想以上に長く続いた。
半年では終わらず、年をまたぎ。いくら倒しても、絶えず襲い来る魔物。
まだ余裕は残していたが。減るばかりで増えることのない国庫がいよいよ乏しくなれば、傭兵を留めておけなくなるだろう。
それに農民を長く徴兵することもできない。
彼らには食糧を作るという大切な仕事があるのだ。生産が滞れば、戦いが終わっても飢饉を起こすことになる。
*****
私は王の代理として全軍の指揮をとり、魔物を掃討していた。
預言の話はあらかじめしていた。
念のため、城に残るよう言い含めていたのだが。
城の中で自分たちだけ安寧にしていられなかったのだろう。城の塔から兵に指揮を出していた父と兄は、突如現れた飛竜の襲撃により、焼死した。
二人の死の預言は、神のものだった。
定められた命運。
ならば、回避しようといくら画策しようが無駄であったのだ。
国王と王太子を失い、国王代理となった私は、立場上、前線を退かねばならなくなった。
私は、国で一番の戦力であるのに。
ここで退けば、確実に多くの兵の命が失われるだろう。
父と兄の死の衝撃もあり。
魔物が無限に湧き出てくる森に苛立った私は、魔法を放ってしまった。……使うのを己に禁じていた、闇魔法を。
*****
結局、それで魔物の発生が収まったのだ。
最初からこうしていれば、死者も最小限に抑えられたのでは、と思わなくもなかったが。
闇魔法により、土地が汚染されてしまった。あきらかにやりすぎである。
神職の見立てでは、汚染濃度が濃すぎて浄化魔法が効かない。
浄化が可能な濃度になるまで百年は必要だ、という。
リズリーの肥沃な森、大地を。
草一本生えぬ死の荒野にしてしまったのである。私の手で。
表向きには、大量の魔物の血により土地が汚染されたと発表されたが。
魔物の大発生も収まり、復興に力を注いだ。
私は王位を継がず、国王代理の身分のままでいた。
国王と王太子の死は、未だ国民には報せていない。復興がひと段落つくまでは、国民に不安を与えたくなかった。
この戦いで国庫が尽きそうなので、外貨を稼ぎに出た、ということにした。
実際は私が冒険者として稼いだ分だけでしのげたのだが。
それからしばらくして。
突如、予感がした。
二年前、神と邪神が私に告げた”神託”。その時が来たのだ。
国王と王太子の死した後、救世主が現れる。
邪神は、その善なる魂を惑わせ、堕落させろとのことだが。知ったことか。
従ってやる義理などない。
確かに私は前世で散々な目に遭い、恨みや憎しみによって魂が穢れ切っていたのかもしれない。
それ故に、邪神に目をつけられたのだろう。
しかし、現在の私は、美貌にも才能にも恵まれた王子様である。
特に不満などない。
たとえ闇魔法を取り上げられようと、今更何の痛痒も感じない。
*****
「リズリーへ見回りに出る」
護衛の騎士オズワルドと、側近のオーソンを連れ。
愛馬ナムグンに跨り、不毛の地となったリズリーへ走らせた。
「次期国王に対し、護衛がオズワルドだけでは足りないのでは?」
オーソンは渋っていたが。
「ほう? この国で、私に勝てる腕の者を連れて来るがいい。もしも存在するのならな」
と言ったら黙った。少々大人げなかった。
……ああ、気が逸る。
救世主とやらは、どのような姿をしているのだろう? 年齢は?
このようにそわそわするのは、生まれて初めてかもしれない。
前世も含めて。
しかし、それほどショックは受けなかった。
流星は才能には恵まれていたものの、いいことの無かった人生だったが。
こうして異世界で生まれ変わり、見目麗しい、一国の王子として新たな人生を送ることになるのだから。
むしろ前と比べ、いいことづくめの人生である。
第二王子なので国王にはなれないが。いずれは領地を与えられ、侯爵になるだろう。
……そう思っていたのだが。
*****
その時に与えられた”神託”は。
もうじき私が、この国の次の王になる、との預言を告げたのだ。
これから数年も経たぬうちに我が国で魔物が大発生し、国王である父と、王太子である兄を失くすのだと。
しかし。
あれを”神託”と言っていいのだろうか?
途中で邪神からの介入があったようなので、その預言をしたのがどちらの声だったのか、わからないのだ。
邪神は人の心を惑わせるのが巧みであるという。
前世の記憶を戻したのは、間違いなく邪神の仕業だと思われる。
あのような醜悪な記憶、お綺麗な王子様には不要なものだ。
一瞬の隙を狙ったか。
誰も、私が”邪神”と交信したことに気づかなかった。神すらも。
神も、万能ではないのだろう。
どちらの神も、この世界に直接介入することはできない。大いなる力を授けるから、どうにか人間だけで解決しろというのだ。
この世界と地球を創った”神”は、”神の使者”の補佐をするために、私に闇以外の属性魔法を授けたと思われる。
そして、”邪神”は、私に転生前の記憶と、何もかもを破壊し得る、莫大な闇魔法を力を与えた。
この世に混乱を与えたいのだから、これは確実だろう。
私は神と邪神により、全属性魔法を得てしまったのである。
お陰で、冒険者組合で属性を測るのに苦労した。
”神の加護”による能力は隠さなければならない。
何故なら、国を越えた騒ぎになることが予想されるからだ。
あまりに強すぎる力は不安を呼ぶものだ。
*****
翌年。
魔物の数は徐々に増えていき。更に突然の爆発的な大発生により、国民の生活をも逼迫し始めた。
兵隊だけでなく、冒険者組合や他国からも傭兵を募り、全力で魔物の討伐に当たった。
豊かな我が国といえど、国庫の貯えは無尽蔵ではない。
預言を聞いてから、この時のために、冒険者として外貨を稼ぎに行き、兵糧を貯えながら経験値を上げていたのだが。
戦いは、予想以上に長く続いた。
半年では終わらず、年をまたぎ。いくら倒しても、絶えず襲い来る魔物。
まだ余裕は残していたが。減るばかりで増えることのない国庫がいよいよ乏しくなれば、傭兵を留めておけなくなるだろう。
それに農民を長く徴兵することもできない。
彼らには食糧を作るという大切な仕事があるのだ。生産が滞れば、戦いが終わっても飢饉を起こすことになる。
*****
私は王の代理として全軍の指揮をとり、魔物を掃討していた。
預言の話はあらかじめしていた。
念のため、城に残るよう言い含めていたのだが。
城の中で自分たちだけ安寧にしていられなかったのだろう。城の塔から兵に指揮を出していた父と兄は、突如現れた飛竜の襲撃により、焼死した。
二人の死の預言は、神のものだった。
定められた命運。
ならば、回避しようといくら画策しようが無駄であったのだ。
国王と王太子を失い、国王代理となった私は、立場上、前線を退かねばならなくなった。
私は、国で一番の戦力であるのに。
ここで退けば、確実に多くの兵の命が失われるだろう。
父と兄の死の衝撃もあり。
魔物が無限に湧き出てくる森に苛立った私は、魔法を放ってしまった。……使うのを己に禁じていた、闇魔法を。
*****
結局、それで魔物の発生が収まったのだ。
最初からこうしていれば、死者も最小限に抑えられたのでは、と思わなくもなかったが。
闇魔法により、土地が汚染されてしまった。あきらかにやりすぎである。
神職の見立てでは、汚染濃度が濃すぎて浄化魔法が効かない。
浄化が可能な濃度になるまで百年は必要だ、という。
リズリーの肥沃な森、大地を。
草一本生えぬ死の荒野にしてしまったのである。私の手で。
表向きには、大量の魔物の血により土地が汚染されたと発表されたが。
魔物の大発生も収まり、復興に力を注いだ。
私は王位を継がず、国王代理の身分のままでいた。
国王と王太子の死は、未だ国民には報せていない。復興がひと段落つくまでは、国民に不安を与えたくなかった。
この戦いで国庫が尽きそうなので、外貨を稼ぎに出た、ということにした。
実際は私が冒険者として稼いだ分だけでしのげたのだが。
それからしばらくして。
突如、予感がした。
二年前、神と邪神が私に告げた”神託”。その時が来たのだ。
国王と王太子の死した後、救世主が現れる。
邪神は、その善なる魂を惑わせ、堕落させろとのことだが。知ったことか。
従ってやる義理などない。
確かに私は前世で散々な目に遭い、恨みや憎しみによって魂が穢れ切っていたのかもしれない。
それ故に、邪神に目をつけられたのだろう。
しかし、現在の私は、美貌にも才能にも恵まれた王子様である。
特に不満などない。
たとえ闇魔法を取り上げられようと、今更何の痛痒も感じない。
*****
「リズリーへ見回りに出る」
護衛の騎士オズワルドと、側近のオーソンを連れ。
愛馬ナムグンに跨り、不毛の地となったリズリーへ走らせた。
「次期国王に対し、護衛がオズワルドだけでは足りないのでは?」
オーソンは渋っていたが。
「ほう? この国で、私に勝てる腕の者を連れて来るがいい。もしも存在するのならな」
と言ったら黙った。少々大人げなかった。
……ああ、気が逸る。
救世主とやらは、どのような姿をしているのだろう? 年齢は?
このようにそわそわするのは、生まれて初めてかもしれない。
前世も含めて。
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