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異世界で、崇められる。

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二階建てくらいの建物の中、塔のような建物が見えた。

「あの、大きな建物は?」
教会ボートクリットだね。通常、15歳の時にそこで神から恩寵をいただくのだけれど……」


この世界の人は、生まれながらに持っているスキルや魔法の能力は教会で教えられるそうだ。

15歳になると、教会の神像の前で祈りを捧げる。
すると神の声が聞こえ、自分の能力を教えられ。これから進むべき道を示されるとか。

もし自分がなりたい職業があったとしても、それに向いた能力を持ってないとなれないし、15歳の時点で将来が確定してしまうようなものか。
遅いと言えば遅いし。不便な気もするけど。神様が直接、一番自分に向いてる職業を示してくれるなら、ありがたいかも。


そうなると。この世界じゃ、ある意味何でもありな俺は、かなり特別扱いというか。珍しい能力持ちになるんだな。
重ね重ね、神様に感謝だ。


*****


馬車が教会の前に差し掛かった時。
いきなり教会の扉が開き、白い服の青年が慌てた様子で出てきた。

「おや。あれはバートルアンのメイヤー師だ」
バートルアンというのは、神様に生涯を捧げていて。神のお告げを聴く”神託”というスキルと、浄化や回復魔法を使える人のことらしい。
宣教師とか、神官のようなものかな?


彼の名はプレストン・メイヤー、26歳。
もうすぐ自分の教会を作ってここを出る予定の優秀なバートルアンだという。

その優秀なバートルアンであるプレストンがこちらに手を振りながら、必死の形相で駆け寄って来たので。ウィリアムが御者に指示して馬車を止めさせた。

「どうした? 貴方がそのように取り乱すなど、珍しい」
ウィリアムはわざわざ馬車から降りて、ぜえぜえいってるプレストンの背を撫でてあげている。優しいな。
純粋にいい人なのかもしれないと思えてきた。面倒見もいいし。

俺はもう少し人を信じる心を持ったほうがいいのだろうか。


「た、大変です。たった今、お告げが。……様が、降臨なされた、と、」
プレストンは、喘ぎながら顔を上げた。

ばっちり目が合った。
灰色の髪に薄い青紫の目の顔立ちの整った青年だった。

女性からモテそうな容姿だが。バートルアンという職業は生涯独身を貫かねばならないそうだ。何だかもったいない気がする。


「ふ、ふあああっ、なんと尊い……!」
プレストンはそう言って、その場でこちらに向かって手を合わせ、跪いたのだった。

石畳とはいえ、そこは地面だ。汚れる! 白い神官服が汚れるから!


*****


神に祈りを捧げていたら、”神託”により、さきほど神の使いがこの世界に現れたこと。そして、保護されてこの近くに来ていることを知らされたので、慌てて飛び出したそうだ。
リアルタイムで教えてくれるのか。すごいな。

しかし、見目麗しい神職の青年が道端で喘ぎながらむせび泣いている姿は少々風紀的によろしくないと思う。


「……น้ำเปล่าお冷や
”創造”のスキルでお冷や……つまり、水と氷の入ったコップを作った。

「あの、とりあえずお水でも飲んで、落ち着いてください」
プレストンに渡そうとしたら。

「……これは……、どこから取り出したのかな? 水魔法と、土魔法……ではないな。それも、詠唱破棄……?」
ウィリアムが俺の手からコップを取り上げて。
やけに真剣な顔をして、様々な角度から眺めている。


あ。うっかり忘れてた。

この世界では、ガラスのコップはとても珍しいものだった。
それも、透明度が高くて縁の薄いガラスコップだ。未知の技術になるのかな?


「後で説明するから。お水、渡してあげて……」

プレストンはすでに立ち上がっていて、ウィリアムの手からコップを奪う訳にもいかず、挙動不審になっていた。

「ああ、これは失礼した」

「おお……、素晴らしい。これぞ、神の奇跡……、」
プレストンはウィリアムの手から両手で恭しくコップを受け取ると、うっとりとコップを見つめた。


ひと口飲んで。目を輝かせた。
「ああ……、リン様の有難い聖水……!」

名乗ってないのに名前を知ってるのは、神託で聞いたからかな?
聖水とか言われると、なんだかいかがわしい代物みたいに聞こえて、微妙な気持ちになるのは、きっと俺の心が汚れているからだろう。

彼に他意はないのだろう。聖職者だしな。
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