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異世界で、貨幣価値を知る

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「あなたはウィリアム様のお知り合いなの? お名前は?」
好奇心旺盛そうなエッダに訊かれて。


つい、首を傾げてしまった。

知り合いも何も、今日会ったばかりだ。
俺が神の使いの証である名字を名乗ったので、半ば強引にここまで連れて来られただけで。どんな関係か訊かれても困る。

「名前はリン。この国には今日一人で来たばかりで、偶然出会ったウィリアムさんたちのお世話になってるんだ」

この返答が一番無難だと思う。
名字も、名乗らない方がいいだろう。

ちらりとオズワルドのほうを伺うと、頷いている。
やはりこの返答で良かったようだ。


こんな子供が一人で? と思ったのか、不思議そうな顔をされたが。

身の上に不幸があったのだろうと察したか、それについて質問をされることはなかった。
なかなか賢い子なようだ。

外国の子はちょっと年齢がわかりにくいが、エッダは小学生高学年から中学生くらいの年齢かな?


ウィリアムは、名前を聞いて俺が”神の使い”だとわかったから、子供が荒野に一人でいても疑問に思わなかったのだろうか?
危うく城で手厚く保護されそうにはなったが。


*****


「わたしはエッダ。12歳よ。あそこにいるお兄ちゃんは13歳なの」
向こうで仕事を手伝っている少年を指差した。


もう高校生くらいに見える容姿のお兄ちゃんは、ラドクリフという名前だそうだ。

12歳と13歳の子供がもう家業を手伝っているのか。偉いなぁ。
ほっこりする。

「あなたは何歳なの?」
んもう、と言いたげな、少々焦れた様子で訊かれた。

ああ。
さっき紹介されたのに、改めて名乗って年齢を付け加えたのは、俺の年齢を訊きたかったからだったのか。
どうもそういう遠回しな物言いに鈍くて申し訳ない。


「え? あ、10歳だけど……、」
一応、ステータス上では。

「ええっ!?」

年齢を言うと。
その場にいた全員が驚いていた。

それは、どういう意味の驚きなのだろうか。


「てっきり5、6歳かと……、」
「幼児にしか……」
ウイリアムやオズワルドが呆然としていた。

園児レベル? それはひどい。


「じゃあ、わたしがおねえちゃんね。わからないことがあったら何でも聞いてね!」
エッダは満足そうだった。


*****


「ええと、このあたりの生き物とか、植物が詳しく書いてあるような本が欲しいんだけど。この店に、あるかな?」

”創造”のスキルは、生き物だろうが無機物だろうが何でも作ることができるというとんでもない能力だけど。
さすがに、この世界にないものを作るのは避けた方がいいだろう。生態系などは出来る限り知っておきたい。


「もちろん。わがスキート商会は何でもそろってるわよ!」
エッダは胸を張り、得意そうに言った。

さすがは看板娘である。宣伝活動に余念がない。

ここで買ったものの代金は、ウィリアムが支払ってくれるそうだ。
それってつまり、国民から集めた税金なのでは……?
彼のポケットマネーだとしても申し訳ないので、自力で稼げるようになったら返金しなくては。


冒険者や学者が監修したという、生物と植物の図鑑を受け取った。

見たこともない文字だな、と思ったが。
じっと見ていたら、日本語のルビが浮かんできた。これはありがたい。


次に、ここの貨幣を教えてもらう。

トーンが金貨、グンが銀貨。デーンが銅貨で、それ以下の小銭はレックというそうだ。
貨幣価値は、だいたいレックが十円、デーンが百円。グンが千円で、トーンが一万円といった感じだろう。

その上にカムカオ硬貨というのがあって、それは百トーンの価値があるという。
ということは、一枚百万円くらいか?

大商人の取引や貴族とかが買い物をするときくらいにしか使わないらしい。


驚いたのが、本は一冊、平均10トーンくらいするものだという。

この世界では白い綺麗な紙が貴重で高価だというのもあるが。
そもそも印刷技術がないので、みんな写本、手書きで写されたものらしい。

それなら単価が高くなるのも仕方ない。しかもこれ、細密なイラスト入りだしな……。
この代金は、頑張って働いて返そう。


凸版印刷くらいの技術なら、取り入れてもいいのではないだろうか?
しばらくしたら、ウイリアムに相談してみよう。

下手したら、産業革命になってしまうが。


*****


エッダは、お金も知らないなんて、あの子どこの辺境から来たのかしら、などと言って。
父親に叱られていた。


こらこら、お客の噂を本人が聞こえるところで言うんじゃない。
子供の言う事だから、俺は別に気にしないが。


違う世界から来たのでお金の種類も価値も違う、などと説明しても、なかなか信じてもらえないと思う。

ウィリアムは異世界人の存在を知ってたが。
それは王族だからだろうし。
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