神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

プロローグ

異世界へ

前方不注意の暴走バイクにはねられ。
かつて”瀧 凛太郎”であった俺の人生は、そこで終わってしまったらしい。


よりによって、自分の誕生日に。
自分の勤める保育園の園児の前で死んでしまうとは。
ついてないにもほどがある。

しかし、子供達が事故に巻き込まれなかったのは良かった。被害者が俺だけだったのは不幸中の幸いだろうか？
……子供達、トラウマになってなければいいけどな。


残念だが。
死んでしまったものはしょうがない。


しかし。
”俺”の人生は、そこで終わりではなかったようだ。


全身の痛みから解放され。
気づけば、いつの間にか真っ白な空間の中にいた。

辺りを見回していたら。
男でも女でもない、子供でも老人でも無い声が頭の中で聞こえた。


その声は、自分は”神”だと言った。


＊*＊*＊


”神”が言うには。
本来、俺は事故で死ぬような運命ではなかったらしい。

怪我は、しても擦り傷程度のもので。暴走バイクが突っ込んでくるような予定はなく。
そして間一髪、子供に怪我をさせずに自動車を起こしたのが縁で、夫を病気で亡くしシングルマザーであった彼女と付き合うようになり、幸せな結婚をする予定だったのだという。

それが、悪戯を好む悪い神の介入により、台無しになったそうだ。


……懐っこくて愛嬌のあった子供の顔と名前なら覚えていたが。
残念ながら、母親である彼女の顔はぼんやりとしか思い出せない。美人だったら、そんな未来を惜しく思ったかもしれない。我ながら俗物である。

心残りといえば。
うちのパソコンに入ってる、ちょっと恥ずかしい中身のＨＤＤと、家庭菜園だろうか？
プチトマトは最初失敗して枯らしてから再挑戦して。二年越しでやっと食べられるものが作れたというのに。

それと。
定年を迎えたら、何となく住み続けていたアパートを引き払って、退職金で郊外に一軒家を買って、犬でも飼って。
ゆっくり家庭菜園でもしながら片田舎でひっそり古民家カフェでもしながら暮らしてみたかったことくらいかな？

仕事の都合上、栄養士、調理師免許に食品衛生責任者や防火管理者の資格も持ってたからな。軽食も出せるし、お菓子作りも得意だ。
場所と準備さえ整えば、いつでも開業できる状態ではあったんだ。


そんなことを思っていたら。

”神”の声は、一度魂の離れてしまった肉体を蘇らせることは神の力でも不可能である。元の世界で俺を生き返らせることはできないが、自分の管理している他の世界でなら、新しい人生を送らせてやることができる、と告げ。
その上、本来の寿命に見合う分、俺の望む能力を与えてくれるというのだ。

あと、家庭菜園と恥ずかしいＨＤＤの中身はサービスでどうにかしておいてくれるという。
神様優しい。


……何か望みはないかって？
じゃあちょっと、欲張ってみようかな。


まずは、目の前で死んでしまった俺のことで、お母さんと子供達の心が痛まないよう、周りから責められたりしないようにお願いします。
トラウマになったら可哀想だし。

それと、農作業してもすぐへたれないような若くて健康な身体が欲しいです。
30過ぎたら体力の回復が遅くなってるのに気づいてね……。寝ても完全に回復しないんですよね……。

植物を立派に育てられる能力もあったら嬉しい。枯れたら悲しいので。

料理には乳製品。チーズやバターも欲しいから、ちょっとした酪農もできるくらいの土地って手に入ります？　全然オッケー？

ええと、あとは、可愛い番犬も欲しいです！　モフモフなのが！
と言ってみたら。

それじゃとても失った人生には足りない、と言われて。
他にも色々、異世界で不便に思わないほどの能力を付与してくれた。神様優しい。


＊*＊*＊



そんなわけで。

俺は今、死後の世界で。
新しく異世界に生まれ変わる準備待ちをしているのだった。


異世界では、リン・クレーバーンと名乗るよう言われた。
元の名を、ちょっとだけ残してくれたんだな。

どんな世界なんだろう。わくわくする。

……え？
もう、準備ＯＫ？


じゃあ、行ってきます！　神様、ありがとう！