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四十九日振りの帰国です。

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母さんが、クリスティアーニの子会社で働いてたって?
本当に?


「あちゃあ、……オバチャンの情報網、こっわ!」
南郷さんは頭を抱えた。

「あの……、どういうことか、聞いてもいいですか?」


「えー、我がクリスティアーニには、下請け会社は存在しません。全て直接受注生産がモットーです。その理由はご存知で?」

へえ、クリスティアーニって、下請け会社は無いんだ。

ええと。多分だけど。
「下請け孫請けまで行く間に、予算の関係もあって、クオリティが落ちるから?」

下請けの下請け、孫請けまで行くと、紹介料という名の中抜きで、だいぶ予算が削られてしまう。
予算の中で、人件費が一番高くかかる。関わる人数が多いだけ中抜きされて。100万で受けた仕事が末端では一万もいかない給料になったりする。

そのため、材料も格安の粗悪品を使われることになったり。
資格も持っていない、賃金の安い、技術のない外国人労働者とかに任せることになる場合が多い。


「その通り。ボスは母一人で子育てをしている母上のため、時給の良い、身体に負担の無い仕事を回そうと、日本のとある関連会社の事務職を紹介したわけです。バレたらやっかまれるだろうから、周囲には内緒で、と約束して……」

確かに。
僕にすら、パート先のことは濁してた。

これからは夜勤とか、パートを掛け持ちしなくても大丈夫になった、とは言ってたけど。
まさか、そんなことになってたとは。

近所の人には、会社から帰るところでも見つかったのかな? 探偵よりも鼻が利くんだな……。
こわっ。


*****


法事のため向かったお寺には、母さんのパート先の人が待っていた。


本来は、四十九日の法要というのは、身内だけでするんだろうけど。
今日は部長さんと課長さん、母さんと一番親しかったという事務員の女性も来てくれた。

確か、葬式の時にも来てくれていた顔ぶれだと思う。
名簿は南郷さんたちが管理してくれたみたいで見てなかったけど。会社名も記入してたのかな?

部長さんが、一歩前に出た。
50代くらいだろうか? 仕事の出来そうな、きちっとした印象の人だ。部長さんって。かなり偉い人だよね?

その部長さんは、青褪めた顔で、僕に頭を下げた。


亡くなる少し前のこと。
母さんは机の下に転がった物を取るために机の下にもぐって、戻るときに頭を思い切りぶつけていたそうだ。

くらくらする、と言ってたけど。
すぐ治ったとの自己申告に、そのままにしておいたが。

あの時に無理にでも病院に連れて行っていれば。もしかしたら、血管の破裂を初期に発見できて、助かっていたかもしれなかった、と謝られた。


いわば、総帥から預かった、大切な身な訳だ。
蒼白にもなるだろう。

それで、パート中に倒れて。
病院に運ばれた時点で慌てて本社に連絡するも、総帥はちょうど日本に向かう雲の上で、連絡が取れず。
慌てて駆けつけたら、仮通夜だった訳か。


葬式の時に、その話をしなかったのは。
まだ、親を亡くしたばかりでショックが大きいだろうから。心の準備が整うまで待つようにと、ヴィットーリオからストップを掛けられていたそうだ。

それは英断だと思う。
あの時この話を聞いていたら。きっと、責めてしまっていた。部長さんは悪くないのに。


「どうか、頭を上げてください。僕も、身内のくせに、母の異変に気付けなかったんですから」
「そんな、決して、息子さんのせいでは……、」


誰のせいでもなく。
不幸な事故だったんだ。そう思おう。

ドジっちゃった、って。母さんも、そう言うはずだ。


*****


部長さんは、母さんは勤務態度も真面目で、ミスも少なく、気が効いていて。
社員に欲しいほどの人材だったと言った。

是非このまま社員に、とスカウトしたけど。正規のルートで雇われた身ではないし、今のままで充分、身に余る待遇だと言われたそうだ。

本当に惜しい人を亡くした、と。
死を悼んでくれた。


「実のところ、まだ、実感がわかないんです。今も、うちに帰ったら迎えてくれるような気がして」

母さんの会社の人たちは頷いて。
自分たちもそうだと言った。

まだ、死んだなんて信じられない。
でも、四十九日は、魂が天に上がる日だ。

迷わないように、ちゃんと見送ってあげよう。


法要の始まる直前になって。
僕の隣りに、黒服の紳士が座ったけど。


みんな、見て見ぬ振りをしてくれていた。
……法要が終わるまで。


「くっ、これが、足の痺れというものか……! これは、なかなか、」


終わったら、颯爽と去ろうとしたみたいだけど。
正座をして足が痺れる、という、生まれて初めての体験に悶えてるので。

優しく足を揉んであげる僕だった。
「こうやって揉んで、血流をよくすれば早くなおるから、我慢して」

「理論的には、そう、だろうが。君、笑いを堪えてないか?」


母さんの会社の人たちは、鉄面皮との噂のある総帥のそんな姿を見なかったことにしていた。
優しいな。

南郷さんは、お腹抱えて震えてるけど。


*****


「すまない。ずいぶん楽になった」
ヴィットーリオは、お寺のホールにある椅子に腰掛けて、長い足を投げ出している。

「正座用の椅子、使えばよかったのに」

葬祭場では椅子だったけど、お寺では基本正座だ。
でも、足の悪い人や、正座に慣れてない外国人用に、正座椅子が用意されていた。

「大切な君の母上だ。こちらの作法で、見送りたかった」


位牌は、イタリアに持って帰って置いてくれるそうだ。
あのお城に、位牌か……。

お城に行ってみたいって言ってたっけ。
母さん、喜んでくれるかな?


帰る時になって。
ヴィットーリオは、関連会社の人たちに声を掛けていた。


「色々と無理を言ってすまなかった。今までご苦労だった」

「とんでもない。そんなことはありません。優秀な人材をご紹介いただいて、こちらとしては大変助かっておりました」

「そうか、……残念だったな」
ねぎらうように肩を叩いて。


年上の男の人まで、頬を染めてヴィットーリオを見送っている……。

さすがカリスマ。
20歳になったばかりには全く見えない。
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