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おまけ/忠実なる側近・シャオフーの手記
忠実なる側近の秘密の幸せ
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そして、念願の日本へ行き。
目立ちたくないからと茶会に参加……はしなかったが隠しカメラから様子を伺っていた殿下は。
見事、本物の雪哉様を見つけたのだった。
しかし、あくまで美雪嬢の身代わりとしての参加だったので、17歳だから結婚は無理だと言われた、とのこと。
与えられた役割はきっちり演じる性分のようで。生真面目すぎたのだった。
雪哉様が現在住まわれるアパートの住所を教えて。
殿下は、雪哉様が男性だということを知った。
その時点で、こちらが手に入れていた情報を開示した。
雪哉様はブレスレットをお守り袋に入れ、肌身離さず所有しており。
「自分は男だし、無惨な火傷の痕があるがいいか」と聞かれたという。
殿下は雪哉様に、少しも問題ない、嫁に来いと答えた。
予定通りに結婚出来る、と。
殿下から嬉しそうに報告されて。
ハッとした。
ああ、そうか。
雪哉様が26歳になる今まで結婚もせず、彼女すら作らなかったのは。
10年前に再会を約束した殿下を待っていたからなのか、と私は思った。
†††
殿下は好きでしている仕事を取り上げるような狭量な男ではないので、問題なく執筆活動も続けられるだろう。
裏工作も無駄にならずに済んだ。
ご家族やご親戚をマクランジナーフへ招待し。
明日、殿下の誕生日に結婚式を挙げる準備をしなければ。
国王陛下にも、プロポーズ成功との連絡を入れて。
私はご家族に「荷物は必要ありません、身一つでお越しいただいて大丈夫です」、とお迎えにあがり。
別機でマクランジナーフへ向かった。
携帯電話、通信機、カメラの類の持ち込みは禁止させていただいた。
さすがに皆さん、昨日の今日ですぐに式だとは思いもよらなかったようで、驚かれたが。
なんかドラマみたいね、と雪哉様の母君と双子の妹君が楽しそうに語り合っている。
何故か善之殿は複雑な表情で。
反対なのだろうか?
美雪嬢も、雪哉様を騙したのが心苦しい様子で。
「雪哉様はそのようなことを気にするお方ではないと思いますよ?」
「……そ、だよね、やっくんめっちゃ優しいしー?」
美雪嬢は笑顔を取り戻し、お渡ししたドレスの箱を嬉しそうにあけていた。
話し方が軽薄で、頭の悪そうな印象を受けるが。
それは彼女なりの処世術と見た。
完璧な美少女は疎まれるものだ。
多少の気がかりが無くもなかったが。
ともあれ翌日、二人は結婚式を挙げたのだった。
†††
しばらくして。
雪哉様が、あまり笑顔を見せないことに気付いて。
様子を伺うと。
どうやら色々、お互いに誤解があったようだった。
雪哉様は落雷のショックで半年分の記憶を失っており、殿下との記憶も消えていたというのだ。
そして日本人らしく、婉曲に断ったつもりがそのように取られず。
勘違いで、殿下に脅されて、無理矢理結婚させられたとばかり思っていた、と告白された。
それでも雪哉様は、私と殿下を責めはしなかった。
自分を好きにさせてみせる、と無駄な自信を見せる殿下にも付き合うという人の良さ。
もはや天使である。
殿下がひと目で惚れてしまったのも、わからなくはないと思った。
†††
8月20日。
殿下曰く、運命の日。
二人は禁足地へ行くという。王妃の墓碑に報告するのだろう。
車で待っていたところ、突然のスコール。
遠くから雷鳴が聞こえた。
あれ以来、殿下は雷が大の苦手だ。
当然であるが。
心配していたら、殿下から電話が来て。
自分たちは安全な洞窟の中にいる。車の中なら大丈夫らしいから絶対に外に出るな、とのこと。
わざわざこちらを心配して掛けてくるとは。
雪哉様の存在は、殿下にもいい影響を与えているのだ。
と。
雷が近くに落ちたようだ。
同時に、通話が切れた。
安全な場所にいる、とのことだが。
電流が地面を走ることもある。
二人とも、どうかご無事で。
私は天に祈った。
†††
雨がやみ、洞窟へ向かうと。
入口付近に殿下の携帯が落ちていた。
声を掛けたら、元気そうな声が返ってきた。
洞窟の奥の広間にいたとか。
ほっとした。
雪哉様は、神の使いが雨を知らせてくれて、洞窟の道案内をしてくれたという。
神の使いが結婚を祝いに現れた時も驚いたが。
間違いない。
雪哉様は、神の声を聴く者なのだ。
雷に打たれ、神の使徒として生まれ変わったのだろうか?
背の雷紋も、美しかった。
二人の雰囲気が変わったのにも気付いた。
二人は元々、運命で結ばれていたのかもしれない。
それが、ようやく繋がったのだ。
めでたいことである。
†††
国王陛下に雪哉様のお仕事について詳しくお話しした成果が現れた。
陛下は日本語の会話は問題ないが、難しい文字は得意でなかった。
故に、アラビア語版での出版を望まれるだろうことは予測できていた。
私の目論見通り、陛下は大量の本を発注した。
陛下にしてみれば、身内に配る程度の数であるが。
日本では大騒ぎである。
更に、隣国からも注文が殺到。
隣国を訪れた際、種を撒いておいた甲斐があった。
隣国のほとんどの者が、作者が神の声を聴く者であることを知っているのだ。
だが、他国の者にはそれを教えない。
”魔王”の妻なので、自主的に口を噤むのである。
それをうけ、日本でも増刷の上、アラビア語版も逆輸入されるという。
それは我が国の利益になる。
やはり、雪哉様は我が国へ来るべくして来た、幸せを運ぶ、天よりの使者なのだろう。
†††
さて。そろそろ原稿のチェックをしなければ。
仕事は増えたが、私は幸せである。
日本のとある出版社に、マクランジナーフの派遣した諜報班が社員として入っている。
それは本来、情報操作のための人員だったが。
ある作家に関する仕事は、私に回すことになっている。
ああ。
先生には、気持ち良く執筆してもらいたいので、掃除もせねば。
あれほど言ったのに。
雪哉様の部屋に入り込んで、何やら全裸でがっくりしている様子の殿下をベッドからどかし、シーツを換える。
全くもう、床にこんなに零して……。
あ、いい匂いがするから雪哉様のか。
体臭だけでなく、精液まで花のような甘い香りがするとは、やはり天の使いなのだろう。
この後、楽しい仕事が待っているので、殿下のだったとしても問題ない。
雪哉様がシャワーを浴びている間に用事を済ませ、仕事をしよう。
私が副業として雪哉様の担当編集者をしていることは、殿下すら知らない、私の秘密である。
おわり
目立ちたくないからと茶会に参加……はしなかったが隠しカメラから様子を伺っていた殿下は。
見事、本物の雪哉様を見つけたのだった。
しかし、あくまで美雪嬢の身代わりとしての参加だったので、17歳だから結婚は無理だと言われた、とのこと。
与えられた役割はきっちり演じる性分のようで。生真面目すぎたのだった。
雪哉様が現在住まわれるアパートの住所を教えて。
殿下は、雪哉様が男性だということを知った。
その時点で、こちらが手に入れていた情報を開示した。
雪哉様はブレスレットをお守り袋に入れ、肌身離さず所有しており。
「自分は男だし、無惨な火傷の痕があるがいいか」と聞かれたという。
殿下は雪哉様に、少しも問題ない、嫁に来いと答えた。
予定通りに結婚出来る、と。
殿下から嬉しそうに報告されて。
ハッとした。
ああ、そうか。
雪哉様が26歳になる今まで結婚もせず、彼女すら作らなかったのは。
10年前に再会を約束した殿下を待っていたからなのか、と私は思った。
†††
殿下は好きでしている仕事を取り上げるような狭量な男ではないので、問題なく執筆活動も続けられるだろう。
裏工作も無駄にならずに済んだ。
ご家族やご親戚をマクランジナーフへ招待し。
明日、殿下の誕生日に結婚式を挙げる準備をしなければ。
国王陛下にも、プロポーズ成功との連絡を入れて。
私はご家族に「荷物は必要ありません、身一つでお越しいただいて大丈夫です」、とお迎えにあがり。
別機でマクランジナーフへ向かった。
携帯電話、通信機、カメラの類の持ち込みは禁止させていただいた。
さすがに皆さん、昨日の今日ですぐに式だとは思いもよらなかったようで、驚かれたが。
なんかドラマみたいね、と雪哉様の母君と双子の妹君が楽しそうに語り合っている。
何故か善之殿は複雑な表情で。
反対なのだろうか?
美雪嬢も、雪哉様を騙したのが心苦しい様子で。
「雪哉様はそのようなことを気にするお方ではないと思いますよ?」
「……そ、だよね、やっくんめっちゃ優しいしー?」
美雪嬢は笑顔を取り戻し、お渡ししたドレスの箱を嬉しそうにあけていた。
話し方が軽薄で、頭の悪そうな印象を受けるが。
それは彼女なりの処世術と見た。
完璧な美少女は疎まれるものだ。
多少の気がかりが無くもなかったが。
ともあれ翌日、二人は結婚式を挙げたのだった。
†††
しばらくして。
雪哉様が、あまり笑顔を見せないことに気付いて。
様子を伺うと。
どうやら色々、お互いに誤解があったようだった。
雪哉様は落雷のショックで半年分の記憶を失っており、殿下との記憶も消えていたというのだ。
そして日本人らしく、婉曲に断ったつもりがそのように取られず。
勘違いで、殿下に脅されて、無理矢理結婚させられたとばかり思っていた、と告白された。
それでも雪哉様は、私と殿下を責めはしなかった。
自分を好きにさせてみせる、と無駄な自信を見せる殿下にも付き合うという人の良さ。
もはや天使である。
殿下がひと目で惚れてしまったのも、わからなくはないと思った。
†††
8月20日。
殿下曰く、運命の日。
二人は禁足地へ行くという。王妃の墓碑に報告するのだろう。
車で待っていたところ、突然のスコール。
遠くから雷鳴が聞こえた。
あれ以来、殿下は雷が大の苦手だ。
当然であるが。
心配していたら、殿下から電話が来て。
自分たちは安全な洞窟の中にいる。車の中なら大丈夫らしいから絶対に外に出るな、とのこと。
わざわざこちらを心配して掛けてくるとは。
雪哉様の存在は、殿下にもいい影響を与えているのだ。
と。
雷が近くに落ちたようだ。
同時に、通話が切れた。
安全な場所にいる、とのことだが。
電流が地面を走ることもある。
二人とも、どうかご無事で。
私は天に祈った。
†††
雨がやみ、洞窟へ向かうと。
入口付近に殿下の携帯が落ちていた。
声を掛けたら、元気そうな声が返ってきた。
洞窟の奥の広間にいたとか。
ほっとした。
雪哉様は、神の使いが雨を知らせてくれて、洞窟の道案内をしてくれたという。
神の使いが結婚を祝いに現れた時も驚いたが。
間違いない。
雪哉様は、神の声を聴く者なのだ。
雷に打たれ、神の使徒として生まれ変わったのだろうか?
背の雷紋も、美しかった。
二人の雰囲気が変わったのにも気付いた。
二人は元々、運命で結ばれていたのかもしれない。
それが、ようやく繋がったのだ。
めでたいことである。
†††
国王陛下に雪哉様のお仕事について詳しくお話しした成果が現れた。
陛下は日本語の会話は問題ないが、難しい文字は得意でなかった。
故に、アラビア語版での出版を望まれるだろうことは予測できていた。
私の目論見通り、陛下は大量の本を発注した。
陛下にしてみれば、身内に配る程度の数であるが。
日本では大騒ぎである。
更に、隣国からも注文が殺到。
隣国を訪れた際、種を撒いておいた甲斐があった。
隣国のほとんどの者が、作者が神の声を聴く者であることを知っているのだ。
だが、他国の者にはそれを教えない。
”魔王”の妻なので、自主的に口を噤むのである。
それをうけ、日本でも増刷の上、アラビア語版も逆輸入されるという。
それは我が国の利益になる。
やはり、雪哉様は我が国へ来るべくして来た、幸せを運ぶ、天よりの使者なのだろう。
†††
さて。そろそろ原稿のチェックをしなければ。
仕事は増えたが、私は幸せである。
日本のとある出版社に、マクランジナーフの派遣した諜報班が社員として入っている。
それは本来、情報操作のための人員だったが。
ある作家に関する仕事は、私に回すことになっている。
ああ。
先生には、気持ち良く執筆してもらいたいので、掃除もせねば。
あれほど言ったのに。
雪哉様の部屋に入り込んで、何やら全裸でがっくりしている様子の殿下をベッドからどかし、シーツを換える。
全くもう、床にこんなに零して……。
あ、いい匂いがするから雪哉様のか。
体臭だけでなく、精液まで花のような甘い香りがするとは、やはり天の使いなのだろう。
この後、楽しい仕事が待っているので、殿下のだったとしても問題ない。
雪哉様がシャワーを浴びている間に用事を済ませ、仕事をしよう。
私が副業として雪哉様の担当編集者をしていることは、殿下すら知らない、私の秘密である。
おわり
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