従姉妹の身代わりで茶会に行ったらヤマトナデシコ扱いされてアラブ系の王子様に砂漠の王国へ攫われてしまいました。

篠崎笙

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おまけ/忠実なる側近・シャオフーの手記

殿下との出会い

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私の名は、暁虎シャオフー・サッダーム・ウィンストン。
フルネームで呼ばれることはほぼない。

父親が系統不明なマクランジナーフ生まれ、母親がアメリカ系華僑だったけれども、自分は生粋のマクランジナーフ国民であると思う。


職業は、表向きにはマクランジナーフ国第一王子、アスラン殿下の側近、……ということになっている。
しかし実は軍籍があり、元帥の地位と特別な権限を持っていて、国王の許しがなくともいつでも国の兵を動かせる立場にある。
実にくだらない理由で。


†††


私が12歳、殿下が8歳の時だった。
日本へ極秘の商談を進めに行っていた国王陛下は、帰国し、開口一番仰ったのだ。

「そなたの人生を、アスランのために奉げよ」


「アスランが先王のような暴君にならないか見極め、間違いがあれば直ちに正すよう、導いて欲しい。この采配は星見の婆様の人選であるが、全ての責は私が取る」
と。

まだ12歳の子供であった私にこの地位を与えたのだった。
……なんと、星占いで決めたのである。


当時私は学校を飛び級しまくって神童と褒め称えられ、正直調子こいていたので。
それくらいできらあ、とばかりに引き受けてしまった。
愚かなことをしたものだ。


私もまだ、若かったのだ。


†††


そして私は国王陛下により、これからお側につく世話役であると殿下に紹介された。

何でもお申し付けください、と言った。
確かに言ったけれども。


早速私に与えられた仕事は。
王子が旅先、日本で誰かに渡してしまったという家宝の行方であった。

憧れの大和撫子と運命的な出会いをし、求婚して。
名も知らぬ相手に大切な家宝を渡してしまったというのだ。

とんだアホぼんである。


しかしこのアホ坊の目的は、大切な家宝の行方ではなく、その持ち主だった。
私は頭を抱えた。


†††


プラチナは確かに貴重な金属である。
しかし、金属としての価値ではなく、歴史がその価値を生むものもある。

アホ坊が渡してしまったのは、ただのブレスレットではない。

この国が出来た時に、当時の技術の粋を集めて作られたという、由緒あるブレスレット。
いわば国宝といえるものだったのだ。


国民の多くは知らないが。
我が国は、わけあって国の情報を極端に制限している。

まだ取引の浅い日本では国の印章ケトムすら、知られていないだろう。

素人目にはその価値はわかるまい。
売られて鋳潰いつぶされたら。

文字通り、そこで終わりだ。


第一、大和撫子など、勘違いしたあたま封建時代ほうけんじだいのジジイの抱く幻想である。
どうせその少女とやらもファッションやスイーツ好きな頭の軽いギャルだろう。

見かけだけの着物姿に惑わされるとは。
情けない。


幸いなことに、家宝にはGPSが仕込まれていた。
城の中ですら迷子になるアホ坊のためにつけたようだが、職人グッジョブ、と私は思った。

夜に動かなくなる場所が住まいだろうと目星をつけ、家族構成を調べさせた。


†††


結果。
殿下が一目惚れした”大和撫子”は男性だった。

それも、16歳、高校生の。
半井雪哉なからいゆきやという名だった。


調査班より送られた資料に添付された写真は、年齢より幼く見える、少女めいた容貌の少年で。素顔も可愛らしく。
確かに彼ならば女装も違和感なく似合うだろうと思われた。

なるほど、母親の双子の妹が茶道家と結婚し、交流があるため。
その繋がりであのホテルにいたのだ。

その日、同ホテルでは茶道の交流会が催されていた、と報告にある。

安全のため、その日出入りする者の調査をするのは諜報班の仕事であるが。

殿下に撒かれるとは情けない。
今更責めはしないが。


†††


アラブ近隣に駐在中である、彼の叔父の半井勝哉かつや氏に連絡をしてみた。

何という偶然か。
彼は国王が所有する会社のひとつに所属する社員であったのだ。

やはり、彼が言葉を甥に教えていたとのこと。

アラビア語を話す美少年にプロポーズされちゃった、と面映おもはゆそうに報告されたことを聞き出して。

このことは内密に願う、今まで通り言葉を教えてあげて欲しいと伝え。
それと、いくつか彼に教えたい単語や会話文の要望を出した。


雪哉少年はブレスレットを売り払うつもりはないらしく。
できれば本人に返したいと思っているようだった。

それならば回収はいつでもできるだろう。

しばらくは黙って泳がしておこう。


†††


しかし。
しばらくして突然GPSの信号が途切れた。

何事かと調べさせたら、雪哉少年が雷に撃たれたとのことで。
チップがショートしたのだ。


幸い、命に別状はないとのこと。
ほっとした。

見ず知らずの子供を親切に送り届けるような、今時稀有なほど心優しい少年である。
それに、彼にはまだ、生きてもらわねば困るのだ。

医療は最高のものを、と指示を出した。


アホ坊、いや殿下には未だ調査中であると報告した。

ホテルで茶会が行われていて、そこの生徒ではないかと言ったら、その会にポケットマネーを寄付する、などと言い出した。
子供の小遣いなどという可愛らしい額ではない。

これでは本人の居場所を教えたら、即ストーカーになりかねない。
黙っていて正解であった。

まだ特定できないのか、調査班は無能か、とおかんむりであったが。
「あんたが惚れたの、女装少年でしたよ?」と言われたいのだろうか。


しかし、今は沈黙しよう。
私は成人を迎えるまでに、見極めなければいけないのだ。

アスラン殿下の人となりを。


†††


殿下は将来大和撫子を嫁に迎えるため、独立したいと思い立ったようだ。

家庭教師を呼び寄せ、勉強し。
学力をつけて海外留学する予定だという。


私は、殿下が本物の天才だったことをここで知った。

乾いた砂に水がしみこむように知識を吸収していく様子に、天才には及ばない秀才であった私は、ただただ唖然とするのみで。
悔しさなど感じるレベルではなかった。


あっという間に私の知識すら追い越して。
私も焦り、最低限のサポートが可能なレベルの言語を学ばねばならなくなった。
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