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大和撫子、砂漠の王子に攫われる
自著のアラビア語版、発売
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今回俺がムハージル国に招待されたのも。
ネットにその国の話題を出すと消されるとか、名前を言ってはいけないあの人とか、魔王だとかである意味すごく有名な隣国の王子との友好関係を見せて、それを世間にアピールしようとの目論みもあったようだ。
俺を呼べば、絶対夫であるアスランも来ると踏んだんだな。
残念ながらマクランジナーフは秘密主義な国だったため、記者は呼べなかったけど。
口コミで噂の王子が来るらしい、と広まっていた。
王宮の側には見学者が大勢集まっていた。そのおかげで、俺を乗せた不審なジープの特定も早かったんだ。
ジャッカルの大群は、わりと多くの人が目にしたようだ。
獲物であるはずのウサギやニワトリにも一切目をくれず、ひたすら一点を目指して走るジャッカルの群れに、すわ何事かと興味津々。
それで人々は汚職大臣によるクーデターと、誘拐事件を知ったのだった。
クーデターの対処も迅速で、即日解決。
魔王ばかりか、ジャッカルを操る神の声を聴く者までも新国王とは友好的な関係らしいぞ、ということで。
国民の支持が鰻上りになったと。
うまいことやったなあ。
win-winじゃん。
ああ。
それでアスランが、ハマド国王に対していくつか貸しができた、って言ってたのか。
なるほど。
†††
「ユキヤは我が国だけでなく、隣国の幸福も招いたのだな。訪れることで、幸せを運ぶのだ……」
いや、うっとりされても。
「魔王」のネームバリューの効力じゃないか?
屈強な軍人にまで、名前を聞いたら震えあがるほど畏れられてたし。
あちこちが忖度しまくってるから、ネットに情報が流れないんだな。
納得したわ。
本当に、何やったんだか。
「そういえば、何でシャオフーはハマド国王に冷たかったの?」
「殿下の入れ知恵で国内のごたごたを上手く収められたというのに、全部自分の手柄にしたんですよ? レポート手伝った恩も忘れて!」
理由を聞いたら、珍しく憤慨しながら言った。
なるほど、そういう訳だったのか。
しかし入れ知恵って。言い方!
シャオフーも、警護を兼ねてアスランと一緒の大学に通っていたそうだ。
「貸しは貸しとして、回収しないからこそ優位に立てるのだぞ? 現に奴は私に逆らえん。他人から称賛されたい訳でもなし、かまわん」
当のアスランは余裕の態度である。
さすが魔王。
ああ、ハマド国王のこと、微笑みだけで威圧してたもんな。
これが魔王のやり方か。
スマートでいて鬼畜というか……。
†††
ハマド国王から貰った服は、国に戻ってすぐ他の男から貰った服など気に喰わない、と着替えさせられたけど。
デザインは気に入ってたようで。
気が向いたらたまに着て欲しい、と何着か用意された。
ヤマトナデシコな着物姿が好きだったのでは?
何でもいいのかよ。
え、似合っていれば何でもいいって? 全くもう。
まあ、上はシャツみたいで着やすいから、いいけど。
腹が見えるのは嫌だぞ、と言ったら。
お腹が見えるようなのは踊り子の服だから姫は着ないものだと言われた。
姫って。
俺は姫じゃないってば。
アラブ周辺諸国ではベリーダンスみたいな「女性が肌を見せるような淫らな踊り」を人前で踊ることは禁止されてるようだ。
そういやイスラムの女性って、顔も出せないもんな。
肌を露出した服を着て外に出たら男の集団に殴られるとか聞いたぞ。
怖いな。
元々大切な女性を護るための決まりだったらしいのに。
本末転倒じゃね?
「じゃあ、どこ発祥なの?」
「確か、古代エジプト、古代ペルシアあたりではなかったか?」
アスランはシャオフーに確認して。
「そうですね。壁画にも残っています。今広まっているのはアメリカを経由したもののようです」
ふうん。
てっきりアラブ発祥だと思い込んでたよ。知らなかった。
……自分だけに見せるならいい? うっせえ。
やらねえよ!?
†††
ムハンマド元大佐とラティーフ元少尉が、俺の性別が男だったことを知ったのは、こっちに来てからで。
年齢を聞いた時よりも驚いていた。
誰が東洋の魔女だ。
だから女じゃないっての。
また、東洋人に対する更なる誤解が深まったような気がする。
そして相変わらず、発音を直される……。
綺麗な標準語を教えてくれるので、ありがたいけど。
先生厳しい。
「雪哉様、著書のアラビア語版、刷り上りましたよ!」
シャオフーが、小躍りしそうな感じで刷り見本を持ってきた。
俺の作品のアラビア語版計画、本当に決行されたのか……。
いや、自分がOK出したんだけど。
装丁などはお任せする、と確かに言ったよ?
でも、何で廉価版とか文庫、ペーパーバックとかじゃなくて。
”書籍”なの!?
しかも、何この無駄に豪華な仕様。
本文は高級書籍用紙使用、表紙は本革に箔押し、箔押しクラフトケース入りって。
一冊おいくらになるんだこれ?
学術図書でもなかなかない仕様だぞ!?
一冊8千~1万円以上はする、超有名作家の全集くらいのクラスだぞ?
これを一万部……印税がとんでもないことになりそうだ。
外国にいるけど。税金はどうなるんだろう。
おそろしい……。
この装丁をするには一冊だけでは厚さが足らなかったので、分冊でなく、今まで書いたものを集めた全集にすることにしたようだ。
何故そこまでして、こんな豪華仕様にしたのだろうか。
王宮に置くには相応しいけどな!
†††
「翻訳には不肖、わたくしも少なからず口を出させていただき、雪哉様のあの水色に透明で繊細な文体を損なわないよう、最大限努力しました」
シャオフー、鼻高々である。
一応、本文は見せてもらったけど。
俺の書いたのよりずっと美文になってる気がした。
「前々から思ってたんだけど。シャオフーって、俺のこと買い被りすぎじゃない?」
「ふふふ、雪哉様は奥ゆかしいですね」
シャオフーはにこにこしている。
アスランも俺に対しての評価がかなりアレだけど。
シャオフーも相当だよ!?
ネットにその国の話題を出すと消されるとか、名前を言ってはいけないあの人とか、魔王だとかである意味すごく有名な隣国の王子との友好関係を見せて、それを世間にアピールしようとの目論みもあったようだ。
俺を呼べば、絶対夫であるアスランも来ると踏んだんだな。
残念ながらマクランジナーフは秘密主義な国だったため、記者は呼べなかったけど。
口コミで噂の王子が来るらしい、と広まっていた。
王宮の側には見学者が大勢集まっていた。そのおかげで、俺を乗せた不審なジープの特定も早かったんだ。
ジャッカルの大群は、わりと多くの人が目にしたようだ。
獲物であるはずのウサギやニワトリにも一切目をくれず、ひたすら一点を目指して走るジャッカルの群れに、すわ何事かと興味津々。
それで人々は汚職大臣によるクーデターと、誘拐事件を知ったのだった。
クーデターの対処も迅速で、即日解決。
魔王ばかりか、ジャッカルを操る神の声を聴く者までも新国王とは友好的な関係らしいぞ、ということで。
国民の支持が鰻上りになったと。
うまいことやったなあ。
win-winじゃん。
ああ。
それでアスランが、ハマド国王に対していくつか貸しができた、って言ってたのか。
なるほど。
†††
「ユキヤは我が国だけでなく、隣国の幸福も招いたのだな。訪れることで、幸せを運ぶのだ……」
いや、うっとりされても。
「魔王」のネームバリューの効力じゃないか?
屈強な軍人にまで、名前を聞いたら震えあがるほど畏れられてたし。
あちこちが忖度しまくってるから、ネットに情報が流れないんだな。
納得したわ。
本当に、何やったんだか。
「そういえば、何でシャオフーはハマド国王に冷たかったの?」
「殿下の入れ知恵で国内のごたごたを上手く収められたというのに、全部自分の手柄にしたんですよ? レポート手伝った恩も忘れて!」
理由を聞いたら、珍しく憤慨しながら言った。
なるほど、そういう訳だったのか。
しかし入れ知恵って。言い方!
シャオフーも、警護を兼ねてアスランと一緒の大学に通っていたそうだ。
「貸しは貸しとして、回収しないからこそ優位に立てるのだぞ? 現に奴は私に逆らえん。他人から称賛されたい訳でもなし、かまわん」
当のアスランは余裕の態度である。
さすが魔王。
ああ、ハマド国王のこと、微笑みだけで威圧してたもんな。
これが魔王のやり方か。
スマートでいて鬼畜というか……。
†††
ハマド国王から貰った服は、国に戻ってすぐ他の男から貰った服など気に喰わない、と着替えさせられたけど。
デザインは気に入ってたようで。
気が向いたらたまに着て欲しい、と何着か用意された。
ヤマトナデシコな着物姿が好きだったのでは?
何でもいいのかよ。
え、似合っていれば何でもいいって? 全くもう。
まあ、上はシャツみたいで着やすいから、いいけど。
腹が見えるのは嫌だぞ、と言ったら。
お腹が見えるようなのは踊り子の服だから姫は着ないものだと言われた。
姫って。
俺は姫じゃないってば。
アラブ周辺諸国ではベリーダンスみたいな「女性が肌を見せるような淫らな踊り」を人前で踊ることは禁止されてるようだ。
そういやイスラムの女性って、顔も出せないもんな。
肌を露出した服を着て外に出たら男の集団に殴られるとか聞いたぞ。
怖いな。
元々大切な女性を護るための決まりだったらしいのに。
本末転倒じゃね?
「じゃあ、どこ発祥なの?」
「確か、古代エジプト、古代ペルシアあたりではなかったか?」
アスランはシャオフーに確認して。
「そうですね。壁画にも残っています。今広まっているのはアメリカを経由したもののようです」
ふうん。
てっきりアラブ発祥だと思い込んでたよ。知らなかった。
……自分だけに見せるならいい? うっせえ。
やらねえよ!?
†††
ムハンマド元大佐とラティーフ元少尉が、俺の性別が男だったことを知ったのは、こっちに来てからで。
年齢を聞いた時よりも驚いていた。
誰が東洋の魔女だ。
だから女じゃないっての。
また、東洋人に対する更なる誤解が深まったような気がする。
そして相変わらず、発音を直される……。
綺麗な標準語を教えてくれるので、ありがたいけど。
先生厳しい。
「雪哉様、著書のアラビア語版、刷り上りましたよ!」
シャオフーが、小躍りしそうな感じで刷り見本を持ってきた。
俺の作品のアラビア語版計画、本当に決行されたのか……。
いや、自分がOK出したんだけど。
装丁などはお任せする、と確かに言ったよ?
でも、何で廉価版とか文庫、ペーパーバックとかじゃなくて。
”書籍”なの!?
しかも、何この無駄に豪華な仕様。
本文は高級書籍用紙使用、表紙は本革に箔押し、箔押しクラフトケース入りって。
一冊おいくらになるんだこれ?
学術図書でもなかなかない仕様だぞ!?
一冊8千~1万円以上はする、超有名作家の全集くらいのクラスだぞ?
これを一万部……印税がとんでもないことになりそうだ。
外国にいるけど。税金はどうなるんだろう。
おそろしい……。
この装丁をするには一冊だけでは厚さが足らなかったので、分冊でなく、今まで書いたものを集めた全集にすることにしたようだ。
何故そこまでして、こんな豪華仕様にしたのだろうか。
王宮に置くには相応しいけどな!
†††
「翻訳には不肖、わたくしも少なからず口を出させていただき、雪哉様のあの水色に透明で繊細な文体を損なわないよう、最大限努力しました」
シャオフー、鼻高々である。
一応、本文は見せてもらったけど。
俺の書いたのよりずっと美文になってる気がした。
「前々から思ってたんだけど。シャオフーって、俺のこと買い被りすぎじゃない?」
「ふふふ、雪哉様は奥ゆかしいですね」
シャオフーはにこにこしている。
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