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大和撫子、砂漠の王子に攫われる
ヤマトナデシコ、戯れる
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「ユキヤ。正式なキモノ姿なので、あれをしてみたいのだが」
真顔でお願いされて。
ピンと来た。
あれか。着物といえば、あれだよな。
浴衣の帯じゃ、あれをするには長さとか物足りないから、今まで言わなかったのか?
まさか。それが目的で俺に着物を着せたがってたんじゃないだろうな!? いいけど。
今日は格好良かったし、特別大サービスだ。
いつも格好良いけどな。
しょうがないなあ、という体で。
「……じゃあこれ持って。合図したら、引っ張っていい。あんま強く引くなよ?」
「承知した」
アスランは嬉しそうに帯の端を持った。
「よし、」
合図と共に、帯を引かれて。
「よいではないか。そら、」
王子、ノリノリである。
「あ~れ~~~」
お約束のセリフを言いながら、回転する。
俺は棒読みだが、そこは勘弁して欲しい。
誰かに聞かれたりしたら、恥ずかしさで死ねる。
ぱたり、とベッドに倒れこむ。
†††
ベッドからおもむろに起き上がって。
肌蹴てしまった留袖を脱いだ。中は、タオルをぎっしり巻いた襦袢姿である。
こんな姿、萎えそうなもんだが。
「……楽しかった?」
「ああ。とても」
おお、楽しそうだな。
めっちゃ笑顔でぶんぶん頷いている。
でも、もう一回は勘弁してほしい。
良かったな。
長年の夢だったんだよな? 悪代官と町娘ごっこ。
まあ、俺も子供の頃、やったことはあるし。やってみたい気持ちはわからないでもない。
美雪が悪代官で、俺が町娘役だったけどな……。
研究の末、回される方も協力的じゃないと。ああは綺麗に回らないことを知った。
独楽回しのように上手くはいかないのである。
お互いのタイミングが合わないとつんのめって転ぶので、大変危険な遊びなのだ。
遊びというか。
本当はアレなんだが。
当時は意味もよくわかんないでやっていて、母さんや美咲伯母さんに怒られたものだ。
そりゃそうだ。
その後の展開がよろしくない。
本来、町娘は悪代官に手篭めにされる。つまり、えっちなことをするために脱がされる訳だ。
あまり教育的によくない遊びだったわけだ。
二人とも、そんなつもりはなかったとはいえ、男女でやるのはまずい。お医者さんごっこよりアウトだ。
やったことはないが。
俺と美雪が見たのは、桃から生まれた侍か隠密奉行か十手持ちかお庭番が、鈴の付いた小柄や夢と書かれた扇や寛永通宝やクナイを投げ、悪代官が足止めされ、未遂だったので。
どういう理由で回っているのかは知らなかったのだ。
ああ、身も心も清かったあの頃が懐かしい。
配役が逆ならやばかったな!
ギリギリセーフだ。
美雪はツボにはまったのか、しばらく着物を着せられる時は毎回脱ぐと「あ~れ~」してたらしい。
黒歴史だな!
などとアホなことやって遊んでいる間に、風呂に湯が溜まったようだ。
いい大人の男が、何をやってるんだか。
王子が嬉しそうなので、よしとするか。
†††
金の浴槽は、二人で入っても余裕なくらい大きかった。
しかし。
アスランの家とか、風呂がでかいので感覚が麻痺しそうになるけど。
考えてみれば本来、砂漠の国で。
こんな大量の水が必要なお風呂なんて、物凄い贅沢なんだよな。
今は海水を真水に換える機械のお陰で、この国でもこうして豊富に使えるようになったというが。
機械を動かすのもタダじゃないし。水道管通すのも大変だっただろう。
さらに、この国はマクランジナーフより広くて砂漠率が多いので、余計にちょっと罪悪感が……。
「ん、くすぐったい、」
ジェットバスで、入浴剤にバスジェルを入れたので、泡で湯の中が見えない。泡風呂だ。
お互い泡で身体を洗うようにしながら、いちゃいちゃする。
「……私は本当に幸せだ。これが現実だと、信じられぬほど」
心から愛おしい、というような顔で。
「毎朝、夢でないことを確かめ、安堵する。目覚めたら隣りにユキヤがいない朝など、もはや考えられぬ」
愛されてるなあ、と思うのと同時に。
今日は、本当に心配かけてしまったんだ、と実感する。
生きた心地がしなかった、と言っていた。
俺も、アスランが同じようにいなくなったら、と考えるとぞっとする。
アスランなら、自力で何とかしそうだけども。
†††
「心配かけてごめんな?」
アスランの頬に、キスをする。
一瞬離れた唇は。
こっちだろう? という風に王子の唇に奪われて。
「まったくだ。これでは一瞬たりとも目を離せぬではないか。……いっそ手枷と足枷を嵌め鎖で閨に繋ぎ、閉じ込めてしまいたいとさえ思ったぞ?」
熱い囁きに、ドキドキしてしまう。
俺、自分ではM気質ではないと思ってたんだけど。
それもいいかも、と一瞬考えてしまった。
おのれ魔王、精神攻撃とは卑怯なり。
「鎖なら、もうつけたじゃないか」
ほら、と右足を上げて。
足首にある、二つの鎖を見せる。
GPSが、これのどこに仕込まれてるかは知らないけど。
たとえ、逃げ出したとしても。電波が届くところであれば、すぐに捕まってしまうわけだ。
結婚だって、鎖みたいなものだ。
左薬指の指輪。
アスランほどの美貌だと、目に見える虫除け効果はないかもしれないけど。
法的な拘束力はあるんだよな?
「それだけでは足りぬ」
抱き寄せられて。
「ん、……や、」
アスランの指が。
すっかりそこで愛されることを覚え込まされてしまった場所に触れて。
泡で、ぬるりと入って来てしまう。
「私の楔で直接ユキヤを繋ぎ止めたい。……いやか?」
とろけるような微笑みって、こういうのだろう。
妖しく、色気のある美貌。
魔王って呼ばれているのも納得だ。
魅力っていうか、もはや魔力だよこれ。
甘い毒のような危険な誘惑に、惑わされてしまいたくなる。
真顔でお願いされて。
ピンと来た。
あれか。着物といえば、あれだよな。
浴衣の帯じゃ、あれをするには長さとか物足りないから、今まで言わなかったのか?
まさか。それが目的で俺に着物を着せたがってたんじゃないだろうな!? いいけど。
今日は格好良かったし、特別大サービスだ。
いつも格好良いけどな。
しょうがないなあ、という体で。
「……じゃあこれ持って。合図したら、引っ張っていい。あんま強く引くなよ?」
「承知した」
アスランは嬉しそうに帯の端を持った。
「よし、」
合図と共に、帯を引かれて。
「よいではないか。そら、」
王子、ノリノリである。
「あ~れ~~~」
お約束のセリフを言いながら、回転する。
俺は棒読みだが、そこは勘弁して欲しい。
誰かに聞かれたりしたら、恥ずかしさで死ねる。
ぱたり、とベッドに倒れこむ。
†††
ベッドからおもむろに起き上がって。
肌蹴てしまった留袖を脱いだ。中は、タオルをぎっしり巻いた襦袢姿である。
こんな姿、萎えそうなもんだが。
「……楽しかった?」
「ああ。とても」
おお、楽しそうだな。
めっちゃ笑顔でぶんぶん頷いている。
でも、もう一回は勘弁してほしい。
良かったな。
長年の夢だったんだよな? 悪代官と町娘ごっこ。
まあ、俺も子供の頃、やったことはあるし。やってみたい気持ちはわからないでもない。
美雪が悪代官で、俺が町娘役だったけどな……。
研究の末、回される方も協力的じゃないと。ああは綺麗に回らないことを知った。
独楽回しのように上手くはいかないのである。
お互いのタイミングが合わないとつんのめって転ぶので、大変危険な遊びなのだ。
遊びというか。
本当はアレなんだが。
当時は意味もよくわかんないでやっていて、母さんや美咲伯母さんに怒られたものだ。
そりゃそうだ。
その後の展開がよろしくない。
本来、町娘は悪代官に手篭めにされる。つまり、えっちなことをするために脱がされる訳だ。
あまり教育的によくない遊びだったわけだ。
二人とも、そんなつもりはなかったとはいえ、男女でやるのはまずい。お医者さんごっこよりアウトだ。
やったことはないが。
俺と美雪が見たのは、桃から生まれた侍か隠密奉行か十手持ちかお庭番が、鈴の付いた小柄や夢と書かれた扇や寛永通宝やクナイを投げ、悪代官が足止めされ、未遂だったので。
どういう理由で回っているのかは知らなかったのだ。
ああ、身も心も清かったあの頃が懐かしい。
配役が逆ならやばかったな!
ギリギリセーフだ。
美雪はツボにはまったのか、しばらく着物を着せられる時は毎回脱ぐと「あ~れ~」してたらしい。
黒歴史だな!
などとアホなことやって遊んでいる間に、風呂に湯が溜まったようだ。
いい大人の男が、何をやってるんだか。
王子が嬉しそうなので、よしとするか。
†††
金の浴槽は、二人で入っても余裕なくらい大きかった。
しかし。
アスランの家とか、風呂がでかいので感覚が麻痺しそうになるけど。
考えてみれば本来、砂漠の国で。
こんな大量の水が必要なお風呂なんて、物凄い贅沢なんだよな。
今は海水を真水に換える機械のお陰で、この国でもこうして豊富に使えるようになったというが。
機械を動かすのもタダじゃないし。水道管通すのも大変だっただろう。
さらに、この国はマクランジナーフより広くて砂漠率が多いので、余計にちょっと罪悪感が……。
「ん、くすぐったい、」
ジェットバスで、入浴剤にバスジェルを入れたので、泡で湯の中が見えない。泡風呂だ。
お互い泡で身体を洗うようにしながら、いちゃいちゃする。
「……私は本当に幸せだ。これが現実だと、信じられぬほど」
心から愛おしい、というような顔で。
「毎朝、夢でないことを確かめ、安堵する。目覚めたら隣りにユキヤがいない朝など、もはや考えられぬ」
愛されてるなあ、と思うのと同時に。
今日は、本当に心配かけてしまったんだ、と実感する。
生きた心地がしなかった、と言っていた。
俺も、アスランが同じようにいなくなったら、と考えるとぞっとする。
アスランなら、自力で何とかしそうだけども。
†††
「心配かけてごめんな?」
アスランの頬に、キスをする。
一瞬離れた唇は。
こっちだろう? という風に王子の唇に奪われて。
「まったくだ。これでは一瞬たりとも目を離せぬではないか。……いっそ手枷と足枷を嵌め鎖で閨に繋ぎ、閉じ込めてしまいたいとさえ思ったぞ?」
熱い囁きに、ドキドキしてしまう。
俺、自分ではM気質ではないと思ってたんだけど。
それもいいかも、と一瞬考えてしまった。
おのれ魔王、精神攻撃とは卑怯なり。
「鎖なら、もうつけたじゃないか」
ほら、と右足を上げて。
足首にある、二つの鎖を見せる。
GPSが、これのどこに仕込まれてるかは知らないけど。
たとえ、逃げ出したとしても。電波が届くところであれば、すぐに捕まってしまうわけだ。
結婚だって、鎖みたいなものだ。
左薬指の指輪。
アスランほどの美貌だと、目に見える虫除け効果はないかもしれないけど。
法的な拘束力はあるんだよな?
「それだけでは足りぬ」
抱き寄せられて。
「ん、……や、」
アスランの指が。
すっかりそこで愛されることを覚え込まされてしまった場所に触れて。
泡で、ぬるりと入って来てしまう。
「私の楔で直接ユキヤを繋ぎ止めたい。……いやか?」
とろけるような微笑みって、こういうのだろう。
妖しく、色気のある美貌。
魔王って呼ばれているのも納得だ。
魅力っていうか、もはや魔力だよこれ。
甘い毒のような危険な誘惑に、惑わされてしまいたくなる。
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