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大和撫子、砂漠の王子に攫われる
綺麗な星空を見上げて
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「الله、」
今の叫び声。
なんか聞き覚えがあるな、と思ったら。
大佐だ。
ジャッカルが数匹、襲い掛かっている。
「その人は、そんな悪人じゃないから。噛まないであげて」
近寄る俺に、大佐が叫んだ。
『駄目だ、危ないぞ、逃げろ! ……へ?』
大佐に襲い掛かっていたジャッカルたちはおとなしくいうことをきいて。
しっぽを振って、俺の側に寄ってきたのだった。
「よしよし。噛まないでくれてありがとうな」
いい子いい子、と撫でているのを、大佐は呆然と見ている。
『大佐、あの子供は無事か?』
少尉が、ジャッカルを振り切り、ぼろぼろになりながら走ってきた。
『……イブン・アーワ使い……?』
同じく、ジャッカルに懐かれている俺を見て、呆然としている。
†††
あ。そういえば。
「マッスムキ?」
「اسميمُحَمَّدٌ」
大佐が名乗って。
「لطيف」
少尉も自分を親指で示して名乗ってくれた。
「اسميyukiya」
俺も名乗って。
ついでに年齢を告げる。
「عُمْرِي ستة وعشرون」
『これで、26歳だと!? 言い間違いじゃなくて、本当に!?』
『言葉、話せたのか?』
ちょっとだけな。
特にこれは、何度も練習したんだよ。
こっちの人には十代、下手すればローティーンに間違われるからな!
カッ、と上からライトが照らされた。
まぶしい。
ヘリコプターだ。
回転音があんまりしなかったけど。
最新型かな?
『反乱軍に告ぐ。周囲は我がマクランジナーフ及びムハージル国正規軍により完全に包囲されている。投降か、死か。選ぶがよい』
拡声器から、アスランの声が。
「アスラン……!」
助けに来てくれたんだ。
魔王だ、との声がそこかしこで上がっている。
今の発言、確かに魔王っぽいかもな……。
†††
アスランが連れて来た軍隊が、次々と反乱軍を捕らえていくのを見送るように。
俺の側にいたジャッカルが、オオン、と吠えて。
たくさんいたジャッカルの群れは、またどこかへ走り去っていった。
あの子がボスだったのかな?
「ありがとう」
手を振って見送っていたら。
「ユキヤ!」
後ろから、ぎゅっと抱き締められた。
駆けてきたのか、息が荒い。
「心配したぞ。……無事な姿を見るまでは、生きた心地がしなかった……心臓がつぶれるかと……」
言いながら。
俺の左薬指に、結婚指輪をはめてくれた。
ずいぶん心配させてしまったようだ。
それなのに、のん気に居眠りしちゃったり、毛玉やジャッカルもふってたり、誘拐犯相手に名乗りあってたりしててごめん……。
「あ、毛玉……神様のお使い、そっちに行ってくれたんだ?」
ちゃんと指輪、届けてくれたんだな。
「ああ。GPSがあったので、居場所はわかっていたのだが。状況がわからず、なかなか手出しできなかった」
GPS……。
ああ、つけ直してたんだ。
国宝だもんな。仕方ないね。
†††
隣国から例の”魔王”が来るとの噂を聞きつけた大勢の国民が城の周辺に集まってきていたため、”オリエンタルなキモノ姿の少女”を乗せて走り去った怪しいジープの存在は、かなりの数報告されていたようだ。
そりゃ目立つよな。
姿を消した三人が怪しい、偶然、何かまずい会話を聞いてしまって攫われたのだろうと予測。
容疑者の行動範囲を調べた。
移動していたGPSの位置がぴたりと止まったのは、国境近く。
そこに石油相私有の軍隊が簡易基地を作っている、との報告を受け。
マクランジナーフの軍隊とムハージルの軍隊で基地を挟み撃ちにしてやろう、と外に出たところで、毛玉に指輪を渡されて。
神のご加護は此方にある、我等の神の声を聴く者を反乱軍の手から取り戻すのだ、と出撃命令を下したわけだ。
ところが。
来てみればジャッカル襲撃により、反乱軍は無抵抗状態で。
むしろ助けてください、とすがられたくらいだという。
「イブン・アーワまでも魅了するとは。驚いたぞ」
「ジャッカルも神様のお使いだったみたいだよ?」
「成程、……ところで、それは?」
アスランは、俺がまだ手に持っていた物に視線を落とした。
「……あ、これ? 石油相が襲い掛かってきたから、これで殴ってやったんだ」
こうやって、と。
紐にくくられたペットボトルをぶん回して見せる。
「全く。可憐な姿だというのに、とんだ牙を隠し持っていたのだな。頼もしい限りである。神と、神に遣われし御使いに心から感謝を。……無事で、本当に良かった」
アスランは、心底ほっとしたように笑って。
俺の頬にキスをした。
うん。
無事で会えて、本当に良かった。
「来てくれて、嬉しかったよ。ありがと」
†††
「……うわあ、綺麗だな」
見上げれば、視界いっぱい、満天の星空で。
新月で、月は見えないけど。
星明りがあるから、完全な暗闇にはならないんだ。
目が慣れたら、周囲がよく見える。
「ウサギ座、見えるかな?」
「では、一緒に探そうか。先に見つけた方が負けた方にキス、で良いな?」
それ、どっちにしろキスするんじゃん。
罰ゲームにもならないし。
日本にいた頃は知らなかったけど。
見えていないだけで、空にはこんな、沢山の星があったんだな。
こういう美しい景色を。
もっと。
他の誰でもない、アスランと共に見たいと思った。
ジャッカルたちは、必要以上に人を傷付けることはせず、大人しくしていれば攻撃をやめてくれたらしい。
神様のお使いだもんな。
まあ、首に噛み付かれたら、死を覚悟するか……。
†††
オタワ石油相は逮捕され、極刑に処される模様。
主な罪状は国家反逆罪及び、国賓を誘拐した罪。
俺の証言もあわせて余罪も追及され、厳しく裁かれるということ。
石油相の下についていた兵隊は、さすがに大臣の命令には逆らえなかっただろう、という背景もあるので。
厳しい監視下で再教育を受けた後、国の兵士として吸収されることになった。
優しいね。
ムハンマド大佐とラティーフ少尉は、先代王の統治時代、王の圧制により、家族を失っていた。
王家への恨みはあったが、今は許されないことをしたと反省しているので、情状酌量を鑑みて。
大佐と少尉としての身分剥奪、国外追放で許されたという。
二人の身柄は、アスランが引き受けると言った。
それを聞いた二人は震え上がっている。
二人は俺に親切にしてくれたって伝えたし、悪いようにはしないと思うけどな。
今の叫び声。
なんか聞き覚えがあるな、と思ったら。
大佐だ。
ジャッカルが数匹、襲い掛かっている。
「その人は、そんな悪人じゃないから。噛まないであげて」
近寄る俺に、大佐が叫んだ。
『駄目だ、危ないぞ、逃げろ! ……へ?』
大佐に襲い掛かっていたジャッカルたちはおとなしくいうことをきいて。
しっぽを振って、俺の側に寄ってきたのだった。
「よしよし。噛まないでくれてありがとうな」
いい子いい子、と撫でているのを、大佐は呆然と見ている。
『大佐、あの子供は無事か?』
少尉が、ジャッカルを振り切り、ぼろぼろになりながら走ってきた。
『……イブン・アーワ使い……?』
同じく、ジャッカルに懐かれている俺を見て、呆然としている。
†††
あ。そういえば。
「マッスムキ?」
「اسميمُحَمَّدٌ」
大佐が名乗って。
「لطيف」
少尉も自分を親指で示して名乗ってくれた。
「اسميyukiya」
俺も名乗って。
ついでに年齢を告げる。
「عُمْرِي ستة وعشرون」
『これで、26歳だと!? 言い間違いじゃなくて、本当に!?』
『言葉、話せたのか?』
ちょっとだけな。
特にこれは、何度も練習したんだよ。
こっちの人には十代、下手すればローティーンに間違われるからな!
カッ、と上からライトが照らされた。
まぶしい。
ヘリコプターだ。
回転音があんまりしなかったけど。
最新型かな?
『反乱軍に告ぐ。周囲は我がマクランジナーフ及びムハージル国正規軍により完全に包囲されている。投降か、死か。選ぶがよい』
拡声器から、アスランの声が。
「アスラン……!」
助けに来てくれたんだ。
魔王だ、との声がそこかしこで上がっている。
今の発言、確かに魔王っぽいかもな……。
†††
アスランが連れて来た軍隊が、次々と反乱軍を捕らえていくのを見送るように。
俺の側にいたジャッカルが、オオン、と吠えて。
たくさんいたジャッカルの群れは、またどこかへ走り去っていった。
あの子がボスだったのかな?
「ありがとう」
手を振って見送っていたら。
「ユキヤ!」
後ろから、ぎゅっと抱き締められた。
駆けてきたのか、息が荒い。
「心配したぞ。……無事な姿を見るまでは、生きた心地がしなかった……心臓がつぶれるかと……」
言いながら。
俺の左薬指に、結婚指輪をはめてくれた。
ずいぶん心配させてしまったようだ。
それなのに、のん気に居眠りしちゃったり、毛玉やジャッカルもふってたり、誘拐犯相手に名乗りあってたりしててごめん……。
「あ、毛玉……神様のお使い、そっちに行ってくれたんだ?」
ちゃんと指輪、届けてくれたんだな。
「ああ。GPSがあったので、居場所はわかっていたのだが。状況がわからず、なかなか手出しできなかった」
GPS……。
ああ、つけ直してたんだ。
国宝だもんな。仕方ないね。
†††
隣国から例の”魔王”が来るとの噂を聞きつけた大勢の国民が城の周辺に集まってきていたため、”オリエンタルなキモノ姿の少女”を乗せて走り去った怪しいジープの存在は、かなりの数報告されていたようだ。
そりゃ目立つよな。
姿を消した三人が怪しい、偶然、何かまずい会話を聞いてしまって攫われたのだろうと予測。
容疑者の行動範囲を調べた。
移動していたGPSの位置がぴたりと止まったのは、国境近く。
そこに石油相私有の軍隊が簡易基地を作っている、との報告を受け。
マクランジナーフの軍隊とムハージルの軍隊で基地を挟み撃ちにしてやろう、と外に出たところで、毛玉に指輪を渡されて。
神のご加護は此方にある、我等の神の声を聴く者を反乱軍の手から取り戻すのだ、と出撃命令を下したわけだ。
ところが。
来てみればジャッカル襲撃により、反乱軍は無抵抗状態で。
むしろ助けてください、とすがられたくらいだという。
「イブン・アーワまでも魅了するとは。驚いたぞ」
「ジャッカルも神様のお使いだったみたいだよ?」
「成程、……ところで、それは?」
アスランは、俺がまだ手に持っていた物に視線を落とした。
「……あ、これ? 石油相が襲い掛かってきたから、これで殴ってやったんだ」
こうやって、と。
紐にくくられたペットボトルをぶん回して見せる。
「全く。可憐な姿だというのに、とんだ牙を隠し持っていたのだな。頼もしい限りである。神と、神に遣われし御使いに心から感謝を。……無事で、本当に良かった」
アスランは、心底ほっとしたように笑って。
俺の頬にキスをした。
うん。
無事で会えて、本当に良かった。
「来てくれて、嬉しかったよ。ありがと」
†††
「……うわあ、綺麗だな」
見上げれば、視界いっぱい、満天の星空で。
新月で、月は見えないけど。
星明りがあるから、完全な暗闇にはならないんだ。
目が慣れたら、周囲がよく見える。
「ウサギ座、見えるかな?」
「では、一緒に探そうか。先に見つけた方が負けた方にキス、で良いな?」
それ、どっちにしろキスするんじゃん。
罰ゲームにもならないし。
日本にいた頃は知らなかったけど。
見えていないだけで、空にはこんな、沢山の星があったんだな。
こういう美しい景色を。
もっと。
他の誰でもない、アスランと共に見たいと思った。
ジャッカルたちは、必要以上に人を傷付けることはせず、大人しくしていれば攻撃をやめてくれたらしい。
神様のお使いだもんな。
まあ、首に噛み付かれたら、死を覚悟するか……。
†††
オタワ石油相は逮捕され、極刑に処される模様。
主な罪状は国家反逆罪及び、国賓を誘拐した罪。
俺の証言もあわせて余罪も追及され、厳しく裁かれるということ。
石油相の下についていた兵隊は、さすがに大臣の命令には逆らえなかっただろう、という背景もあるので。
厳しい監視下で再教育を受けた後、国の兵士として吸収されることになった。
優しいね。
ムハンマド大佐とラティーフ少尉は、先代王の統治時代、王の圧制により、家族を失っていた。
王家への恨みはあったが、今は許されないことをしたと反省しているので、情状酌量を鑑みて。
大佐と少尉としての身分剥奪、国外追放で許されたという。
二人の身柄は、アスランが引き受けると言った。
それを聞いた二人は震え上がっている。
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