従姉妹の身代わりで茶会に行ったらヤマトナデシコ扱いされてアラブ系の王子様に砂漠の王国へ攫われてしまいました。

篠崎笙

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大和撫子、砂漠の王子に攫われる

ヤマトナデシコ、砂漠で攫われ大ピンチ。

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……やべえ。
本当に寝ちゃってたよ。

我ながら根性が太いな。
差しあたって命の危険がなさそうだからって、無防備すぎるだろ。


なんだこれ。寝袋?

寝袋の中に突っ込まれてたようだ。拘束もされてない。
子供だと思われてるからかな?

着物の乱れもないし、身体検査もされてないようだ。


辺りは真っ暗だ。
どうやらテントの中にいるっぽい。

野営でもしてるのか?


†††


もそもそ、と音がして。
ふわふわしたものが手に触れた。

テントの隙間から漏れる光に浮かんだのは。

毛玉だ!


え、こんなところにもいるのか。ここ、隣の国なのに。
マクランジナーフの固有種じゃなかったの?

それともここはもう国境近くなのか?
それにしても、越境してまで来てくれるとか。

「俺のこと、助けに来てくれたんだな。ありがとう」

鼻をひくひくさせている。
かわいい。

撫でると、目を細めて。


「アスランに、俺はここだって、伝えてくれる?」
左薬指の指輪を託すと。

指輪をちっちゃな手で持って。
口にくわえた。

またもそもそと、テントをくぐって出て行ったようだ。


†††


小さな道案内役が出て行って、しばらくして。


ガサ、とテントの入口を開けて、誰かが入ってきた。
千客万来かよ。

影の大きさからして、今度は人間だ。
誰かと思えば。

テントの上部にカンテラを取り付けているのは、石油相だった。


『起きていたか。まあいい』
ねっとりとした視線が、俺に向けられていることに気付いた。

『あいつらは子供と言っていたが、わかっておらんな。すでに男の味を知っている、女の目をしているというのに』


うわ。
心底ぞわっとした。

こいつ、俺に欲情してる!? ロリか!

じゃなくて。
俺は男! 男です!!


『あの魔王と呼ばれた男が寵愛するほどだ。さぞかし具合が良いのだろうな』
じりじり近寄りながら、舌なめずりをしている。

やだこのキモジジイ、息を荒げて、興奮してるんだけど。


思わず後ずさりして。
背中がテントに当たった。

隙間から逃げるには狭すぎるな。
かろうじて潜れても、帯が引っ掛かりそう。

砂漠跳びネズミは穴掘り名人……。


『一度、東洋の少女を抱いてみたいと思っていたのだ。タイやインドネシアの幼女はもう食傷気味でなあ』

ひええ、キモッ! 滅茶苦茶キモい!
こいつ、最低最悪のペド野郎じゃないか。


嫌々嫁入りしたものの。
アスランはまだ、全然許容範囲だったんだな、と心の底から思った。

ゴーイングマイウェイな俺様ストーカーだけど。
アスランは、こんな気持ち悪くなかったし。

こいつにくらべたら、純愛のカテゴリーに入れてもいい。一目惚れだし。


†††


男の手が、俺の左足首に触れて。
『象牙のような肌……素晴らしいのう』


「っ、」
マジで怖いと、声って出ないものなんだ。

喉がヒクついて、助けも呼べない。


男なら自力で何とかしろって言いたいとこだけど。
無理。

だって俺、その辺の女子より非力だもん!
鍛えたって筋肉付かないんだから、しょうがないじゃんかよ!


『足にも痕があるのか。商品価値を下げるとは、もったいない真似をする』
右足の火傷に気付いて舌打ちをした。

アスランは。

これを誇りだと言ってくれた。
奇跡だって。

生きててくれて嬉しいって。
辿るように全部、キスしてくれたんだ。

それを。
そんな、醜いものみたいに。

商品価値って何だよ。人は売り物じゃないんだぞ。


……こんな奴に権力を持たせたら、ろくなことにならない。
クーデターは、何としても阻止しないと。


†††


『何だその反抗的な目は。……仕置きが必要か?』
男は、腰から鞭を取り出した。

ラクダを操るのに使うものらしいが。

こんなクソ野郎に、無理矢理汚されるくらいなら。
……一か八かで、やってやろうじゃねえか。


هلハル أنتアンタ أحمقアフマク
馬鹿じゃねえの、と呟いて。

『何、お前、言葉がわかっ……うわぶ!?』

大佐か少尉が置いといてくれたものと思われるペットボトルを帯紐で結んで作った、即席ブラックジャックである。
これだとモーニングスターのが近いか?

中身が入ったペットボトルは、結構な武器になるのだ。
更に遠心力が加わると、すごく痛い。

こめかみにクリーンヒットしたため、石油相は立ちくらみを起こしているようだ。
次は、カンテラに当てる。

よっしゃ、ナイスコントロール、俺!


落ちて割れたカンテラの油がテントに掛かり、火が燃え移った。
今のうちに。

裾をはしょって、猛ダッシュで逃げるが。
す、砂地で足を取られる……。


テントを出たら、軍の野営地っぽいところだった。
どこなんだ、ここ。

国境は近いのか?


『だ、誰か、人質が逃げたぞ!!』
石油相の声で、銃を持った軍人がわらわらと出てくる。

消火器で、すぐに火は消されてしまった。


ライトの焦点が、俺に合わされて。

……万事休す、か……。
と。
思った時。


オオーン、と犬の遠吠えが聞こえた。
野犬かな?

『とんでもない数のイブン・アーワジャッカルの群れが、こちらへ向かっている!』
え、ジャッカル? 犬じゃなくて?


ライトがそちらへ向けられた。

うわあ。
砂煙上げながら走ってくる、黒い塊みたいなの。


まさか、あれ全部、ジャッカル?


†††


……何が起こっているんだろう?
そこかしこから、悲鳴が聞こえるんだけど。

バラバラと、銃声が聞こえて。
火花が散ってる。


『バカ野郎、散弾は撃つな! 味方に当たる!!』
『しかし、ナイフでは敵わないぞ!』

『やめろ、来るな、ぐわああああっ!!』
また、悲鳴。


野営地まで侵入を果たしたジャッカルは、軍のテントを荒らし。
次々と軍人を襲っているようだ。

人が密集してたからか、銃は使えないみたいで。

暗くてよく見えないけど。
大惨事の模様。


「ひゃ!?」
ぺろ、と手を舐められた。

見れば、キツネみたいな耳をした犬だ。かわいい。
背中は黒い。

あ、これがジャッカルか。かわいいんだな。
小柄な犬っぽい。


「もしかして、きみも神様のお使いなのかな? 俺のこと、助けに来てくれたの?」
毛玉が助けを呼んでくれたのかも。

キュゥン、と鳴いて返事をした。

「そうか。ありがとう」

よしよし、と撫でると。
嬉しそうに尻尾を振っている。


わんこだこれ。
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