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大和撫子、砂漠の王子に攫われる
犯人は国王陛下
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あれ、担当さんからメールだ。
何だろう。
校正は終わったはずだし……。
どうやら出版社に、俺の本をアラビア語版で出して欲しいという注文があったようだ。
とりあえず一万部ずつ、買い取り扱いでいいので、全部欲しいと言って来た? 先払いでもいいって?
まだ書籍化していない掌編も是非、何なら翻訳もこちらでするから、って言ってる?
……アラブの富豪に気に入られたんですかね? と書かれていた。
アラブ系の大富豪なら、身近にいるけど。
俺の花婿さんだ。
まさか、王子……アスランの仕業か?
†††
真偽を確かめるため、アスランの仕事部屋へ行くと。
パソコンに向かっていた王子がインカムを外し、嬉しそうに顔を上げた。
「ユキヤ。待ちきれなくて来たのか? まだ少し商談があるが、今日は中止にして……」
「やめてください。ただでさえ調整ギリギリなんですから!」
立ち上がろうとしたのを、シャオフーに止められている。
「雪哉様は真面目に仕事をしない男はお嫌いですよね?」
シャオフーに迫力ある笑顔で問われ。
慌てて頷いた。
「うん。仕事を途中で放り出しちゃ駄目だと思う」
……そんな悲しそうな顔をされても。
あ、いけね。
用事を忘れるところだった。
「仕事中邪魔してごめん。ちょっと確認というか、聞きたいことがあって来たんだ。出版社に俺の本、アラビア語で出して欲しいって言ったの、アスランじゃないよな?」
「ユキヤの著書か。私は日本語の初版で3冊ずつ手に入れたのを、休憩時間に読んでいるところだ。保存用と、愛読用と、」
これは仕事部屋に置く分、と立派な本棚と引き出しから取り出した。
いや、見せてくれなくてもいいから……。
図書室にもあって。何でこんな所に俺の本が!? と思わず悲鳴を上げそうになったわ!
初版で持ってる、と言われても。
恥ずかしながら、初版しか出ておりません。
後でサインくれって? 恥ずかしいからやだ。
†††
「わたくしも持ってます。デビュー当時から存じ上げておりましたので」
シャオフーはやたら張り切って言った。
調査班から作家になったという報告を受けて、全て取り寄せていたという。
うう、なんか恥ずかしいな。
「シャオフーがもっと早く情報を出していれば、本になっていないエッセイもリアルタイムで読むことができたのだが」
とアスランがシャオフーを睨んでいる。
「当時の切抜きをお渡ししたじゃないですか」
ええ……、雑誌の切り抜きまで取ってあるの……?
恥ずかしすぎる。
やっぱり、犯人はアスランじゃなかったか。
……だよな。
ビジネスマンだし。仕事はできるみたいだから、そういう極端な身びいきはしないっぽい感じするしな。
「じゃあ誰が、アラビア語版で全種類一万部も欲しいだなんて酔狂な問い合わせをしたんだろう……」
悪戯か?
でも先払いで出すって言うくらいだし……。
他に誰がそんな世迷いごとを言うんだろう。
「たった一万だと? 少なすぎる。私ならもっと出すぞ?」
駄目だこの人。
身びいき半端なかった。
あのな、書籍は初版5千出れば、いい方なんです……。
一人に買い占められても。読まれない本は、ただの紙の束だ。
数だけ出たって、それじゃ意味が無いんだよな。
「……あっ」
シャオフーが声を上げた。
「心当たりでもあるのか?」
「おそらくは……」
†††
「ははは、ばれてしまったか」
出版社へ問い合わせをしたのは。
他でもない、畏れ多くもマクランジナーフ国王、エドワード陛下ご本人だった。
アスランから、自分の嫁は小説家なのだと聞いて。
是非自分も読んでみたいと思った、という。
シャオフーはペンネームと出版社を訊かれて国王に話していたので、心当たりがあったわけだ。
国王は日本語を話すことはできるけど、難しい漢字は読めないので。
いっそ出版社に翻訳版を注文して刷ってもらおう、と連絡を入れたのだった。
何で一万部って数字になったかは、少数だと商業的に採算が合わなければ刷らないだろうということと。
ついでに知り合いに配ろうかと思ったので、ちょっと多めに頼んだ、って。
多すぎるよ!
知り合い、そんなにいるの!?
所有する会社の末端社員を入れれば余裕だって?
それで、息子の嫁が書いた本だから読んでやって欲しい、って言って配るの?
初めての単行本を職場や近所に配った父さんと母さんみたいな真似をするのはやめてくれないかな!
それが恥ずかしくて、実家出たようなもんだし!
†††
弟王子たちも、それぞれ自分の分が欲しいと言ってるが。
一家に一冊で充分ですよ?
友達にも配るとか、やめて下さい、マジで。
イブン王子は本を出してるなんてすごい、ときらきらした目で見てくるし。
本を出すだけなら、金を積めばいくらだってできる、とは微塵も考えてないような、純粋な瞳である。
なにこの公開処刑……。
『出版社ごと買い上げても良かったのだが。勝手な真似をするなとおまえに怒られそうなので我慢した』
アスランを見て、国王が不満そうに言った。
いやいやいや。買い上げないで!?
『父上……今時そういう、オイルマネーで買い叩くようなやり方は品がありませんよ?』
アスランが国王に注意している。
出版社、買い取られなくてよかった……。
『私なら、ユキヤ専用の出版社を設立しますね』
真顔だった。
お前の金の使い方のがもっと駄目だろうが!!
と危うく突っ込んでしまうところだった。
「仕事はできるのですが、雪哉様のことになると途端にポンコツになるんですよね」
優秀な側近の突っ込みは辛辣だった。
ポンコツって。
†††
『お久しぶりです。義姉上、とお呼びした方が?』
こちらはやや父親似で茶髪っぽい、次男のムーサ王子がにこやかに声を掛けてきた。
17歳、思春期真っ盛りだ。
こんな格好してるけど男だってわかって、色々複雑なんだろう。
男の姉さんとか、困るよな……。
「俺は別に好きで女装してるわけじゃないんだけど。立場的にはアスランの嫁だし。呼びたいほうでどうぞ、……って何て言えばいいんだ?」
聞き取りはだいぶできるようになったけど。
複雑な言い方はまだわからないので、隣りにいたシャオフーに助けを求めたら。
「……は?」
「何? 今、なんと?」
『おい、アスラン……』
シャオフーとアスランと国王は、かなり驚いた様子で俺を見た。
みんな日本語の聞き取りはできるんだった。
何だろう。
校正は終わったはずだし……。
どうやら出版社に、俺の本をアラビア語版で出して欲しいという注文があったようだ。
とりあえず一万部ずつ、買い取り扱いでいいので、全部欲しいと言って来た? 先払いでもいいって?
まだ書籍化していない掌編も是非、何なら翻訳もこちらでするから、って言ってる?
……アラブの富豪に気に入られたんですかね? と書かれていた。
アラブ系の大富豪なら、身近にいるけど。
俺の花婿さんだ。
まさか、王子……アスランの仕業か?
†††
真偽を確かめるため、アスランの仕事部屋へ行くと。
パソコンに向かっていた王子がインカムを外し、嬉しそうに顔を上げた。
「ユキヤ。待ちきれなくて来たのか? まだ少し商談があるが、今日は中止にして……」
「やめてください。ただでさえ調整ギリギリなんですから!」
立ち上がろうとしたのを、シャオフーに止められている。
「雪哉様は真面目に仕事をしない男はお嫌いですよね?」
シャオフーに迫力ある笑顔で問われ。
慌てて頷いた。
「うん。仕事を途中で放り出しちゃ駄目だと思う」
……そんな悲しそうな顔をされても。
あ、いけね。
用事を忘れるところだった。
「仕事中邪魔してごめん。ちょっと確認というか、聞きたいことがあって来たんだ。出版社に俺の本、アラビア語で出して欲しいって言ったの、アスランじゃないよな?」
「ユキヤの著書か。私は日本語の初版で3冊ずつ手に入れたのを、休憩時間に読んでいるところだ。保存用と、愛読用と、」
これは仕事部屋に置く分、と立派な本棚と引き出しから取り出した。
いや、見せてくれなくてもいいから……。
図書室にもあって。何でこんな所に俺の本が!? と思わず悲鳴を上げそうになったわ!
初版で持ってる、と言われても。
恥ずかしながら、初版しか出ておりません。
後でサインくれって? 恥ずかしいからやだ。
†††
「わたくしも持ってます。デビュー当時から存じ上げておりましたので」
シャオフーはやたら張り切って言った。
調査班から作家になったという報告を受けて、全て取り寄せていたという。
うう、なんか恥ずかしいな。
「シャオフーがもっと早く情報を出していれば、本になっていないエッセイもリアルタイムで読むことができたのだが」
とアスランがシャオフーを睨んでいる。
「当時の切抜きをお渡ししたじゃないですか」
ええ……、雑誌の切り抜きまで取ってあるの……?
恥ずかしすぎる。
やっぱり、犯人はアスランじゃなかったか。
……だよな。
ビジネスマンだし。仕事はできるみたいだから、そういう極端な身びいきはしないっぽい感じするしな。
「じゃあ誰が、アラビア語版で全種類一万部も欲しいだなんて酔狂な問い合わせをしたんだろう……」
悪戯か?
でも先払いで出すって言うくらいだし……。
他に誰がそんな世迷いごとを言うんだろう。
「たった一万だと? 少なすぎる。私ならもっと出すぞ?」
駄目だこの人。
身びいき半端なかった。
あのな、書籍は初版5千出れば、いい方なんです……。
一人に買い占められても。読まれない本は、ただの紙の束だ。
数だけ出たって、それじゃ意味が無いんだよな。
「……あっ」
シャオフーが声を上げた。
「心当たりでもあるのか?」
「おそらくは……」
†††
「ははは、ばれてしまったか」
出版社へ問い合わせをしたのは。
他でもない、畏れ多くもマクランジナーフ国王、エドワード陛下ご本人だった。
アスランから、自分の嫁は小説家なのだと聞いて。
是非自分も読んでみたいと思った、という。
シャオフーはペンネームと出版社を訊かれて国王に話していたので、心当たりがあったわけだ。
国王は日本語を話すことはできるけど、難しい漢字は読めないので。
いっそ出版社に翻訳版を注文して刷ってもらおう、と連絡を入れたのだった。
何で一万部って数字になったかは、少数だと商業的に採算が合わなければ刷らないだろうということと。
ついでに知り合いに配ろうかと思ったので、ちょっと多めに頼んだ、って。
多すぎるよ!
知り合い、そんなにいるの!?
所有する会社の末端社員を入れれば余裕だって?
それで、息子の嫁が書いた本だから読んでやって欲しい、って言って配るの?
初めての単行本を職場や近所に配った父さんと母さんみたいな真似をするのはやめてくれないかな!
それが恥ずかしくて、実家出たようなもんだし!
†††
弟王子たちも、それぞれ自分の分が欲しいと言ってるが。
一家に一冊で充分ですよ?
友達にも配るとか、やめて下さい、マジで。
イブン王子は本を出してるなんてすごい、ときらきらした目で見てくるし。
本を出すだけなら、金を積めばいくらだってできる、とは微塵も考えてないような、純粋な瞳である。
なにこの公開処刑……。
『出版社ごと買い上げても良かったのだが。勝手な真似をするなとおまえに怒られそうなので我慢した』
アスランを見て、国王が不満そうに言った。
いやいやいや。買い上げないで!?
『父上……今時そういう、オイルマネーで買い叩くようなやり方は品がありませんよ?』
アスランが国王に注意している。
出版社、買い取られなくてよかった……。
『私なら、ユキヤ専用の出版社を設立しますね』
真顔だった。
お前の金の使い方のがもっと駄目だろうが!!
と危うく突っ込んでしまうところだった。
「仕事はできるのですが、雪哉様のことになると途端にポンコツになるんですよね」
優秀な側近の突っ込みは辛辣だった。
ポンコツって。
†††
『お久しぶりです。義姉上、とお呼びした方が?』
こちらはやや父親似で茶髪っぽい、次男のムーサ王子がにこやかに声を掛けてきた。
17歳、思春期真っ盛りだ。
こんな格好してるけど男だってわかって、色々複雑なんだろう。
男の姉さんとか、困るよな……。
「俺は別に好きで女装してるわけじゃないんだけど。立場的にはアスランの嫁だし。呼びたいほうでどうぞ、……って何て言えばいいんだ?」
聞き取りはだいぶできるようになったけど。
複雑な言い方はまだわからないので、隣りにいたシャオフーに助けを求めたら。
「……は?」
「何? 今、なんと?」
『おい、アスラン……』
シャオフーとアスランと国王は、かなり驚いた様子で俺を見た。
みんな日本語の聞き取りはできるんだった。
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