22 / 51
大和撫子、砂漠の王子に攫われる
ヤマトナデシコ、神の声を聴く
しおりを挟む
「雪哉様は、『神の声を聴く者』なのかもしれませんね。神の使いが姿を表すのは、本当に稀なことなのですよ」
シャオフーは言った。
あの不思議な生き物は、稀に、道に迷って困った人の前などに現れて道案内をしてくれたり。
夜に気温が極端に下がって砂漠で寒さに凍えていた人を取り囲み、その毛皮であたためてくれたりするそうだ。
ただし、悪人の下には現れない。善人が心底困っている時にだけ、現れるという。
そんなことが何度かあり。
いつしか、マクランジナーフの国民はあの不思議な生き物を”神の使い”と呼ぶようになった。
時々、その神の使いに好かれる人間が出て。
その人は、自然の声を聴き、災害などを予知し、国に幸福を招くといわれている。
それを『神の声を聴く者』と呼び。
現れると、国をあげて大切にするそうだ。
†††
「いやいや、とんでもない。俺は何の特殊能力もない、一般人だよ?」
おかしな風に買いかぶられても困る。
座敷童子か何かかよ。
「ユキヤは確かに、神の使いから好かれている。結婚式の日、私の腕にも来てくれたが。そこはユキヤが触れていた場所であった」
あ、そういえば王子の腕に乗ってたっけ。
教会の階段を降りる時、慣れないハイヒールが怖くて王子の腕にしがみついていたので。
それでそこに匂いが移ったのだろうと。
「ああ、美雪嬢のところへ行ったのも、雪哉様のヴェールを被せたからなのですね」
シャオフーも納得してるけど。
「ええっ、てっきり白い色が好きなのかと思ってたのに。そんな、触っただけでにおいがつくほど?」
思わず自分のにおいを確認してしまう。
俺、そんなにおうか?
こっちの水が肌に合わないとか? 加齢臭にはまだ早いはず……!
「昔は石鹸の香りだったが、今は、甘い花のような香りがするぞ」
くんくん襟足のにおいを嗅ぐな。
っていうか子供の頃から人の匂い嗅いでたのかよ!
変態っぽいな!
今更か。
†††
「まさか、雷に撃たれて体臭が変わったとか? ……あれ以来、何故か老けなくなったし……」
未だに女子高生の身代わりができるなんて異常だよな。
そういえばあの毛玉。
俺の手の上でうっとりとして、鼻をひくひくさせてたな。
あれって、手のにおいを嗅いでたのか?
可愛いから良いけど。
俺って不思議な生き物を呼び寄せるフェロモンでも出てるのかな? 王子も含めて。
「そうか……、私が見つけやすいよう時を止め、そのままの姿で待っていてくれたのだな……」
王子はしみじみと頷いている。
「おめでたい思考回路だな。ある意味羨ましい……」
「交渉向きではありますよ。こちらの要望はほぼ通しますし。かなり優秀な外交能力をお持ちです」
それ、力技って言わないか?
そんな王子を、無視して三日籠っただけで寝込むほど落ち込ませるとは、本当に愛されてるのですね、とか言われても困る。
「ああ、そうだ。ユキヤの”お守り”の修理が済んだのだ。家に届いているので、早く戻ろう」
と俺の手を引き、車が停めてあるスペースまで歩いた。
相変わらずのマイペースだ。
……といっても、俺の歩幅に合わせて歩いてくれてるけど。
†††
色々あったせいか、みんなお腹が空いていたので。
先に食事を済ませることにして。
加工場から届いたブレスレットを見せてもらうため、王子についていく。
そういえば。
何気に結婚指輪もプラチナだったな……。
……おい、何で寝室に届けさせてるんだ?
「ユキヤの手首に合うサイズに調整しようかと思ったのだが、やはり足首につけるのがよいかと思い、長さは変えていない」
つけるから、ベッドに腰掛けるように言われる。
別にソファーでもよくないか? って何を警戒してるんだか。
もう今更だよな。
洞窟で、王子のこと、受け入れちゃったんだし。
シャオフーが来なかったら。たぶん、あのまま身体を繋げてた。
†††
「いいと言うまで、目を閉じていてくれ」
箱を持った王子が、俺の前で跪いた。
「何だよ。なんかのサプライズか? 俺、サプライズとか嫌いなんだけど」
テレビの企画のサプライズプロポーズで。
フラッシュモブとか大金を使ったりして、人前で恥をかかせるのが忍びなくて断れない雰囲気を出すのがいやらしい、と思っているのは俺だけではあるまい。
サプライズのプレゼントや催しとかも、大抵相手の欲しいものとかじゃなく、やる側の独りよがりなのが多くて。
嬉しくなくても喜んでみせないとキレたりする奴いるし。
「……いいから早く」
微妙な顔をした王子に急かされて。
仕方ないので、おとなしくいうことをきいて目を閉じる。
しゃら、と音がして。
足首に、ひやりとした感覚。……ブレスレットの留め金をつけてるのかな?
王子にしては、もたもたしてるような。
「よし、いいぞ。目を開けたまえ」
「……前から疑問だったんだけどさ。その日本語、誰から教わったの?」
言いながら、目を開ける。
王子はまだ跪いた姿勢のままだった。
「私の言葉にどこか間違っている言い回しでもあったか? 日本から取り寄せたDVDだが? 身分の高い者に相応しい言葉を覚えるにはこれが最適であろうと勧められたのは、日本の時代劇だ。特に、سير أمير غنجيが最高だな。キモノが美しい」
げ、源氏物語……?
尊大な態度が帝っぽいっちゃぽいし、確かに似合ってるけど。
勧めたの誰だよ。シャオフーか?
あ。
右足首に、ブレスレット……いや、足用になったからアンクレットか。
いや、そんなことはどうでもいい。
「何で同じのが二本あるわけ!?」
まさか、ダミー作って惑わせようって訳じゃないよな?
本物の国宝はどっちだ、みたいな。
シャオフーは言った。
あの不思議な生き物は、稀に、道に迷って困った人の前などに現れて道案内をしてくれたり。
夜に気温が極端に下がって砂漠で寒さに凍えていた人を取り囲み、その毛皮であたためてくれたりするそうだ。
ただし、悪人の下には現れない。善人が心底困っている時にだけ、現れるという。
そんなことが何度かあり。
いつしか、マクランジナーフの国民はあの不思議な生き物を”神の使い”と呼ぶようになった。
時々、その神の使いに好かれる人間が出て。
その人は、自然の声を聴き、災害などを予知し、国に幸福を招くといわれている。
それを『神の声を聴く者』と呼び。
現れると、国をあげて大切にするそうだ。
†††
「いやいや、とんでもない。俺は何の特殊能力もない、一般人だよ?」
おかしな風に買いかぶられても困る。
座敷童子か何かかよ。
「ユキヤは確かに、神の使いから好かれている。結婚式の日、私の腕にも来てくれたが。そこはユキヤが触れていた場所であった」
あ、そういえば王子の腕に乗ってたっけ。
教会の階段を降りる時、慣れないハイヒールが怖くて王子の腕にしがみついていたので。
それでそこに匂いが移ったのだろうと。
「ああ、美雪嬢のところへ行ったのも、雪哉様のヴェールを被せたからなのですね」
シャオフーも納得してるけど。
「ええっ、てっきり白い色が好きなのかと思ってたのに。そんな、触っただけでにおいがつくほど?」
思わず自分のにおいを確認してしまう。
俺、そんなにおうか?
こっちの水が肌に合わないとか? 加齢臭にはまだ早いはず……!
「昔は石鹸の香りだったが、今は、甘い花のような香りがするぞ」
くんくん襟足のにおいを嗅ぐな。
っていうか子供の頃から人の匂い嗅いでたのかよ!
変態っぽいな!
今更か。
†††
「まさか、雷に撃たれて体臭が変わったとか? ……あれ以来、何故か老けなくなったし……」
未だに女子高生の身代わりができるなんて異常だよな。
そういえばあの毛玉。
俺の手の上でうっとりとして、鼻をひくひくさせてたな。
あれって、手のにおいを嗅いでたのか?
可愛いから良いけど。
俺って不思議な生き物を呼び寄せるフェロモンでも出てるのかな? 王子も含めて。
「そうか……、私が見つけやすいよう時を止め、そのままの姿で待っていてくれたのだな……」
王子はしみじみと頷いている。
「おめでたい思考回路だな。ある意味羨ましい……」
「交渉向きではありますよ。こちらの要望はほぼ通しますし。かなり優秀な外交能力をお持ちです」
それ、力技って言わないか?
そんな王子を、無視して三日籠っただけで寝込むほど落ち込ませるとは、本当に愛されてるのですね、とか言われても困る。
「ああ、そうだ。ユキヤの”お守り”の修理が済んだのだ。家に届いているので、早く戻ろう」
と俺の手を引き、車が停めてあるスペースまで歩いた。
相変わらずのマイペースだ。
……といっても、俺の歩幅に合わせて歩いてくれてるけど。
†††
色々あったせいか、みんなお腹が空いていたので。
先に食事を済ませることにして。
加工場から届いたブレスレットを見せてもらうため、王子についていく。
そういえば。
何気に結婚指輪もプラチナだったな……。
……おい、何で寝室に届けさせてるんだ?
「ユキヤの手首に合うサイズに調整しようかと思ったのだが、やはり足首につけるのがよいかと思い、長さは変えていない」
つけるから、ベッドに腰掛けるように言われる。
別にソファーでもよくないか? って何を警戒してるんだか。
もう今更だよな。
洞窟で、王子のこと、受け入れちゃったんだし。
シャオフーが来なかったら。たぶん、あのまま身体を繋げてた。
†††
「いいと言うまで、目を閉じていてくれ」
箱を持った王子が、俺の前で跪いた。
「何だよ。なんかのサプライズか? 俺、サプライズとか嫌いなんだけど」
テレビの企画のサプライズプロポーズで。
フラッシュモブとか大金を使ったりして、人前で恥をかかせるのが忍びなくて断れない雰囲気を出すのがいやらしい、と思っているのは俺だけではあるまい。
サプライズのプレゼントや催しとかも、大抵相手の欲しいものとかじゃなく、やる側の独りよがりなのが多くて。
嬉しくなくても喜んでみせないとキレたりする奴いるし。
「……いいから早く」
微妙な顔をした王子に急かされて。
仕方ないので、おとなしくいうことをきいて目を閉じる。
しゃら、と音がして。
足首に、ひやりとした感覚。……ブレスレットの留め金をつけてるのかな?
王子にしては、もたもたしてるような。
「よし、いいぞ。目を開けたまえ」
「……前から疑問だったんだけどさ。その日本語、誰から教わったの?」
言いながら、目を開ける。
王子はまだ跪いた姿勢のままだった。
「私の言葉にどこか間違っている言い回しでもあったか? 日本から取り寄せたDVDだが? 身分の高い者に相応しい言葉を覚えるにはこれが最適であろうと勧められたのは、日本の時代劇だ。特に、سير أمير غنجيが最高だな。キモノが美しい」
げ、源氏物語……?
尊大な態度が帝っぽいっちゃぽいし、確かに似合ってるけど。
勧めたの誰だよ。シャオフーか?
あ。
右足首に、ブレスレット……いや、足用になったからアンクレットか。
いや、そんなことはどうでもいい。
「何で同じのが二本あるわけ!?」
まさか、ダミー作って惑わせようって訳じゃないよな?
本物の国宝はどっちだ、みたいな。
20
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる