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大和撫子、砂漠の王子に攫われる

ヤマトナデシコ、ウエディングドレスを着る

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血も涙も無い父さんにエスコートされ、控え室を出る。

花嫁のヴェールを持つリングボーイはイブン王子と、王族の血縁だとかいう子供だった。
ここんちの家系、マジで美形揃いだな……。


イブン王子と目が合うと、『ドレス姿もきれいです』と満面の笑顔を向けられたので、こちらもつい、微笑んでしまう。

望まない結婚式とはいえ、事情も知らないだろう子供に不満そうな顔を見せるほど腐ってはいないつもりである。
内心は泣きそうだけれども。

イブン王子はニッコニコだ。
タキシード姿も可愛くて微笑ましい。


王子と顔はそっくりなのに、中身は似なくて良かったな!


†††


教会の席には、さっき飛行機の発着場に集まってた人々が来ていた。
招待客だったんだな。

最前列は右側にマクランジナーフ国王と美形兄弟5人、左側にうちの母さんと弟、勝哉叔父さんが並んでいた。
その後ろに乃木一家。美咲おばさんと義之おじさん、美雪を含めた美人3姉妹とその旦那2人に子供が1人、総勢8名。

こうしてみると、うちも大家族だな……。


皆から、拍手で迎えられる。

……あれ? 何で乃木家の由佳里さんも来てるんだ?
にやにや笑いながら見てるし!


美雪は、ぽかんと口を開けてこちらを見ている。
善之おじさんも。

散々言ってたのに。
結局、こんなウエディングドレスなんて着せられて。断れなかったから。

何だか自分が情けなくて恥ずかしくて、俯いてしまう。


祭壇の前でエスコート役が父さんから、目が眩むような純白のタキシードに着替えた王子に代わった。美貌が眩しい。

人前で布を外して頭頂部を見せることに対して、こだわりはないのか……。
まあムスリムではないらしいし、布を被ってたのは単にファッションというか、日差し対策か?


祭壇には、金髪の神父さんが聖書を持って笑顔で立っている。

……っておいおい、男同士なのに、いいのか? キリスト教も同性同士の結婚は禁止だよな?
神父って、教徒にしか宣誓しないんじゃないのか? 牧師ならともかく。


神父コスプレの一般人、という可能性もあるが、俺が女だって偽ってたりして。
それが一番可能性高いな……。

女装に違和感ない自分が情けないというか悲しい……。


†††


……どこからか現れた聖歌隊が、賛美歌を歌っている。英語で。ハレルヤくらいならわかるんだけどな。


「Friends, family, we are gathered to celebrate here today the joyous union of Aslan and Yukiya. May the happiness we share with them today be with them always. 」
神父さんの言葉も英語だった。

やべえ、ネイティブ発音過ぎてほとんど聞き取れなかった。
名前と、家族とかの単語はわかったが。

ほんと、日本の英語教育は全く役に立たないな! と勉強不足を他人のせいにする。

「”友人、家族、我々は今日ここで二人が喜びに満ちた婚姻を祝うためにつどいました。今日我々が彼らと分かち合う幸せが常に彼らと共にありますように”、と言ったのだよ。……後は、私に任せると良い」
王子がこそっと教えてくれた。

ネイティブばりに日本語がペラペラなだけじゃなく、英語もわかるのか。すげえな王子。
いや、国際語の英語すらさっぱりな俺が情けないのか。

ていうか。
俺は全く喜んでもいないし、幸せでもないからな!?


「Will you have this man to be your wife, to live together in holy marriage?  Will you love him, comfort him, honor, and keep him in sickness and in health, and forsaking all others, be faithful to him as long as you both shall live? Before God, and in the presence of this congregation, I ask you,do you take this Yukiya nakarai, to be your lawfully wedded wife, to live together in marriage?」
多分、病める時も健やかなる時も、以下略誓いますか? との宣誓は。

「I do. Yukiya as well」
王子が「はい、ユキヤも誓います」、と。
勝手に俺の分まで言いやがった。

英語、もっと勉強しておくべきだった!

任せたのが間違いだった。Noくらいは言えたのに!
言っても無意味かもしれないけど!


†††


「By the authority vested in me by the Kingdom of Makranjinafu, I now pronounce you husband and wife.  Now, you may kiss your bride.」
おお、キングダム・オブ・マクランジナーフか……。

と今の英語を反芻はんすうしていたら。
王子が、俺の顔の前のヴェールを分けて。

口と口をくっつけられた。

一瞬で離れたが。
今の、誓いのキスか!


わっ、と盛り上がる参列者たち。


あっという間に奪われたファーストキスに呆然としてしてる間に、指輪の交換が終わって。
何かの書類にサインさせられて。


再び、聖歌隊が現れて。
賛美歌のハレルヤコーラスが始まった。

綺麗なソプラノだね。
ああ、イブン王子も聖歌隊に加わってる。

はりきってる姿が可愛いなあ。
まるで天使のようだ。


もはや現実逃避するしかない。


†††


王子にエスコートされて、赤い敷物の道を戻っていく。

教会の通路を”ヴァージンロード”っていうのは和製英語で、そう呼ぶのは日本だけなので、外国では花嫁が処女かどうかは関係ないんだよな。
どうでもいいことだが。


あっという間に結婚式は終わった。

教会の階段では、参列者達によりシャボン玉やら羽毛やら花びらが盛大にばら撒かれた。
掃除大変そうだな、と頭の片隅で思った。


振り向いて改めて見れば、教会も歴史を感じさせるような立派な建物だった。
ステンドグラスも見事だ。

王子はこの国には観光になるような場所はない、とか言ってたけど。
いやいや、この教会だけでも、充分観光名所になるだろ。札幌時計台とかマーライオンとかのがっかり観光目玉に比べれば。


雪哉やっくん、結婚おめでとう! ブーケ投げてちょうだい!」
声の主は由佳里さんだった。

そうだね。
年齢的にも優先だね!


気がつけば手に持たされていたブーケを、そっちに投げてやる。
受け取れ! 男の花嫁のブーケでもいいならな!


†††


ブーケを受け取って上機嫌な由佳里さんは、俺が呼び出された後の、茶会であったことを教えてくれた。


王子はお加減が悪くなって茶会の参加を辞退した、と家元から直々に発表され、振袖肉食女子達はがっかりしながら解散した。
この会のことは口外法度であると言い含められて。

自分はその後、王子の側近から個人的に呼び出されて。
この結婚式に招かれた、という。


由佳里さんも一応、俺の親戚ではあるけど。
乃木家側だし、かなり遠いのに。

防犯カメラで一部始終見てたらしいし。
善之おじさんが由佳里さんのことを親戚だと紹介したため、俺とも仲が良さそうだからって呼んだんだろう。
むしろ友人代表的な感じ? 招待するような友人いないけど。

別に俺と由佳里さん、そんなに仲良くないんだけどな……。
どちらかといえば苦手なタイプだ。

悪い人じゃないんだけど、この人、俺のことよくからかうんだもん。


由佳里さんは、俺のウエディングドレス姿を頭のてっぺんからつま先まで見て。
しみじみと呟いた。

「まさか、こんなことになってるとはねえ……」


……それは俺のセリフだ。
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