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ぼくの幸せ
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「……周? 大丈夫か」
優しい声。
頬を撫でる、大きな手のひら。
「ん、」
少しの間、意識を飛ばしてしまったようだ。
顕正さんの愛情表現が、あまりにも激しくて。
まだ汗の引いていない身体。
ぼくの足の間には、顕正さんの身体が挟まっている。
中にも、まだ入ってる。
*****
「すまなかった。君の身体を思いやれず、夢中になって、貪ってしまった……」
額にキスされて。
「謝らないで……、顕正さんが、それほど求めてくれるなら、嬉しいから」
「そんなことを言って。私はまだまだ食い足りないと言ったら?」
中に入ってる、顕正さんの性器が反応しているのがわかった。
「……顕正さんが望むなら、」
「いや、私は君を大事に思っているから、欲望のまま、抱き潰したいと思わないよ」
優しく頭を撫でられて。
ああ。
幸せって、こういうことなのかもしれない。
美味しい物を食べるのも、とても幸せだと思ったけど。
好きな人に優しくされるというのは、とても幸せなことなんだ。
知らなかった。
「ん、」
中にあったのを、ずるりと引き抜かれて。
「乾いたローションがべたべたして気持ち悪いだろう? 身体を流そう」
顕正さんは起き上がって浴衣を羽織り、ぼくの膝裏と背に腕を回して。
持ち上げられてしまった。軽々と。
身長が190センチ近くあり、体格も立派な顕正さんと比べれば、細身に見えるけれど。
ぼくだって、170センチはある男だ。60キロ……はないだろうけど、それに近いくらいの重量はあると思う。
「あの、重くない?」
「ジムで鍛えているからね。軽いものだ」
休日などには自宅にあるジムで、100キロのベンチプレスを持ち上げたりして鍛えているらしい。
だから、こんな引き締まった身体なのか。
ぼくを持ち上げている腕も、しっかりして安定感がある。
そのまま、身を委ねてしまいたいと思うほど。
*****
「結婚式は来年になるが。早めに婚姻届けを出してしまいたいと思うのだが」
顕正さんの膝の上に乗せられて、湯船の中。
そんなことを言われた。
「婚姻届……結婚式の前に、籍を入れる、ということですか?」
「ほら、また敬語になっているぞ?」
頬を撫でられる。
甘えたいとは思うけれど。なかなか難しい。
「今のところ、私は、君の身を預かっているだけの状態だ。何かあった場合、出来ることが限られてしまう」
婚約者というだけでは、何の拘束力もない。
婚姻届けを出せば、例えばもし重傷を負って昏睡状態になった場合でも近くに行けるけど、他人のままでは入れない、という。
「君の弁護士に相談したら、証人欄に名を入れてくれると言っていた」
「穂積が?」
「もう一人の証人欄は、爺と喬任でもめていたがね」
くっくっ、と笑うと、腹筋が動いているのが背中に伝わってくる。
言い争う二人の姿が容易に想像できてしまう。
ぼくも思わず笑ってしまった。
「ちなみに、私の名と判の入った婚姻届けはもうすでに用意してある。後で渡そう」
準備万端だった。
「普通のものだが。調べたらキャラクターものやご当地ものの婚姻届もあるようだ。そちらの方がいいかな?」
冗談めかして言う顕正さんに。
「普通のを下さい。サインします。印鑑は、こちらに移動してありますか?」
*****
「え?」
「……あと、戸籍謄本が必要なら取りに行きます。いつがいいでしょう? 早い方が良いんですよね?」
確か、現住所の移動にも必要だと言っていた。
顕正さんは、一瞬、沈黙して。
「そんな、素直に受け入れてしまって。本当に後悔しないか?」
声は低い。
「はい?」
「君に嘘は言いたくないから、正直に言おう。実は、……ジジ……祖父の遺言書には、自分の死後半年以内に久世家の人間と入籍しろ、と書かれていた」
「……はい」
顕正さんは大企業のトップで。120のグループ会社と関連会社の社員、皆の生活を背負っている。
だから、そんな理不尽な理由で会社を取り上げられてしまいそうになった顕正さんが、凄く焦っただろうことは理解できる。
実際に、会社で働く姿をこの目で見たから。
社員をとても大切にしていること。責任感が強いことも。
「祖母を亡くしたばかりだというのに、突然アポも取らず押しかけ、同居など、半ば無理強いさせて急いだのは、そのせいもあった。……だが。君のことを知っていき、君を愛し、幸せにしたいと思う気持ちは本当だ。入籍のことも、遺言に従うからではない」
「はい。ぼくは自分の意思で顕正さんと結婚したいと願い、受け入れようと思ったのです」
ぼくの肩に置かれた手に、自分の手を重ねる。
顕正さんはひゅっ、と息を呑んだ。
こうして、正直に言ってくれたのは。
誠意をもって、ぼくと付き合う覚悟があるからだと思う。
でも。
顕正さんは確かに強引だったけど。優しかった。
それに、ぼくを愛してくれたから。
「……ありがとう。あまりの嬉しさに、心臓が停まるかと思った。大切なものは、君の部屋のクローゼットの下にある金庫に入っているよ。暗証番号は……」
大切な物……久世家の印鑑も?
「戸籍謄本を取りに行く時は、私も同行しよう。二人のことだからね。婚姻届けも、二人で一緒に出そう」
この家のある区は、同性結婚を認めているので大丈夫だそうだ。
認められていなければ、他にも不動産を持っているので同性婚を認めている区に現住所を移動すればいいだけだという。
「……区役所内、大騒ぎになりそうですね……?」
顕正さんは、ただでさえ人目を惹くハンサムな上に、有名人なのだし。
優しい声。
頬を撫でる、大きな手のひら。
「ん、」
少しの間、意識を飛ばしてしまったようだ。
顕正さんの愛情表現が、あまりにも激しくて。
まだ汗の引いていない身体。
ぼくの足の間には、顕正さんの身体が挟まっている。
中にも、まだ入ってる。
*****
「すまなかった。君の身体を思いやれず、夢中になって、貪ってしまった……」
額にキスされて。
「謝らないで……、顕正さんが、それほど求めてくれるなら、嬉しいから」
「そんなことを言って。私はまだまだ食い足りないと言ったら?」
中に入ってる、顕正さんの性器が反応しているのがわかった。
「……顕正さんが望むなら、」
「いや、私は君を大事に思っているから、欲望のまま、抱き潰したいと思わないよ」
優しく頭を撫でられて。
ああ。
幸せって、こういうことなのかもしれない。
美味しい物を食べるのも、とても幸せだと思ったけど。
好きな人に優しくされるというのは、とても幸せなことなんだ。
知らなかった。
「ん、」
中にあったのを、ずるりと引き抜かれて。
「乾いたローションがべたべたして気持ち悪いだろう? 身体を流そう」
顕正さんは起き上がって浴衣を羽織り、ぼくの膝裏と背に腕を回して。
持ち上げられてしまった。軽々と。
身長が190センチ近くあり、体格も立派な顕正さんと比べれば、細身に見えるけれど。
ぼくだって、170センチはある男だ。60キロ……はないだろうけど、それに近いくらいの重量はあると思う。
「あの、重くない?」
「ジムで鍛えているからね。軽いものだ」
休日などには自宅にあるジムで、100キロのベンチプレスを持ち上げたりして鍛えているらしい。
だから、こんな引き締まった身体なのか。
ぼくを持ち上げている腕も、しっかりして安定感がある。
そのまま、身を委ねてしまいたいと思うほど。
*****
「結婚式は来年になるが。早めに婚姻届けを出してしまいたいと思うのだが」
顕正さんの膝の上に乗せられて、湯船の中。
そんなことを言われた。
「婚姻届……結婚式の前に、籍を入れる、ということですか?」
「ほら、また敬語になっているぞ?」
頬を撫でられる。
甘えたいとは思うけれど。なかなか難しい。
「今のところ、私は、君の身を預かっているだけの状態だ。何かあった場合、出来ることが限られてしまう」
婚約者というだけでは、何の拘束力もない。
婚姻届けを出せば、例えばもし重傷を負って昏睡状態になった場合でも近くに行けるけど、他人のままでは入れない、という。
「君の弁護士に相談したら、証人欄に名を入れてくれると言っていた」
「穂積が?」
「もう一人の証人欄は、爺と喬任でもめていたがね」
くっくっ、と笑うと、腹筋が動いているのが背中に伝わってくる。
言い争う二人の姿が容易に想像できてしまう。
ぼくも思わず笑ってしまった。
「ちなみに、私の名と判の入った婚姻届けはもうすでに用意してある。後で渡そう」
準備万端だった。
「普通のものだが。調べたらキャラクターものやご当地ものの婚姻届もあるようだ。そちらの方がいいかな?」
冗談めかして言う顕正さんに。
「普通のを下さい。サインします。印鑑は、こちらに移動してありますか?」
*****
「え?」
「……あと、戸籍謄本が必要なら取りに行きます。いつがいいでしょう? 早い方が良いんですよね?」
確か、現住所の移動にも必要だと言っていた。
顕正さんは、一瞬、沈黙して。
「そんな、素直に受け入れてしまって。本当に後悔しないか?」
声は低い。
「はい?」
「君に嘘は言いたくないから、正直に言おう。実は、……ジジ……祖父の遺言書には、自分の死後半年以内に久世家の人間と入籍しろ、と書かれていた」
「……はい」
顕正さんは大企業のトップで。120のグループ会社と関連会社の社員、皆の生活を背負っている。
だから、そんな理不尽な理由で会社を取り上げられてしまいそうになった顕正さんが、凄く焦っただろうことは理解できる。
実際に、会社で働く姿をこの目で見たから。
社員をとても大切にしていること。責任感が強いことも。
「祖母を亡くしたばかりだというのに、突然アポも取らず押しかけ、同居など、半ば無理強いさせて急いだのは、そのせいもあった。……だが。君のことを知っていき、君を愛し、幸せにしたいと思う気持ちは本当だ。入籍のことも、遺言に従うからではない」
「はい。ぼくは自分の意思で顕正さんと結婚したいと願い、受け入れようと思ったのです」
ぼくの肩に置かれた手に、自分の手を重ねる。
顕正さんはひゅっ、と息を呑んだ。
こうして、正直に言ってくれたのは。
誠意をもって、ぼくと付き合う覚悟があるからだと思う。
でも。
顕正さんは確かに強引だったけど。優しかった。
それに、ぼくを愛してくれたから。
「……ありがとう。あまりの嬉しさに、心臓が停まるかと思った。大切なものは、君の部屋のクローゼットの下にある金庫に入っているよ。暗証番号は……」
大切な物……久世家の印鑑も?
「戸籍謄本を取りに行く時は、私も同行しよう。二人のことだからね。婚姻届けも、二人で一緒に出そう」
この家のある区は、同性結婚を認めているので大丈夫だそうだ。
認められていなければ、他にも不動産を持っているので同性婚を認めている区に現住所を移動すればいいだけだという。
「……区役所内、大騒ぎになりそうですね……?」
顕正さんは、ただでさえ人目を惹くハンサムな上に、有名人なのだし。
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