上 下
52 / 52
おまけ:イアソン

三毛猫は幸運を運ぶ

しおりを挟む
馬車を置いて、馬で移動することになって。
二頭立ての馬車だったため、誰かが相乗りになる。

もちろん、ユキミはアレクセイと一緒だけど。
スウェーンは鞍の後ろに荷物を載せていた。ティグリスの馬はティグリスだけでいっぱいいっぱいだろうし。


先生は乗馬が苦手だと知った。
となると。

「じゃあ、ぼくの後ろにどうぞ」
まあ、そうなるよね。

「ええっ、学士なのに、馬に乗れるのかい?」

驚かれた。
王都じゃ、騎士くらいしか馬に乗らないもんね。

ぼくは田舎育ちだし、馬が乗れないとどこにも行けなかった。
身を守るためにも乗馬は必要だったしね。

「まあ同種だし……」

馬同士。
とか言って。

「え、一角獣って、馬の気持ちもわかるの?」
真顔でずずいと迫ってきた。

この人も、学者肌だなあ。


「ヒトの気持ちもわかるけど。だいたい」
「精神感応力か。すごいもんだねえ」
とか言いながら、普通にぼくの腰に掴まってきている。

変わってるなあ。
通常、そういうことを聞いたら、心を読まれるのが嫌で寄って来ないのがほとんどなんだけど。


*****


オウィスの館は、悪意で気分が悪くなるほどだった。

アレクセイは、ぼくとユキミに外に出てるよう指示した。
オウィスを粛清するのだろう。

あれは、よくないものだ。

ユキミは、自分だって清廉潔白なわけじゃない、と言った。
言い方が、少し気に掛かった。


ユキミは”ケモノ”化を一斉に解除した。
戻したのは、ユキミのお願いで現れた精霊たちを、アレックスの指示によってどうにか残った魔術師や魔法師だった。

彼らも、こちらの勝利を確信しているようだ。


アレクセイ達が館から出てきて。
館を焼き尽くしたいという要望に、ユキミは館を更地にしてみせた。

更地は無理だって、先生ががっくりしてた。
流れで先生のゴーレムを見られたのは面白かったけど。


*****


先の町で一泊することになって。

宿は貸切にして、周囲の安全を確認して、結界を張った上で、寝た。
今日も盛りだくさんの一日だったなあ。


朝になって。
露天風呂があるというので、入りに行った。

汗を流して湯に浸かると、心地好い。

「おっ、イアソンじゃないか」
「おはようございます、イアソン」

先生とアーノルドが入ってきた。
廊下で会ったらしい。

「おはよう。いい朝だね」
ぼくも挨拶をする。

先生は、頭をかいて。
「ゆうべも入りたかったんだけど、中でイチャイチャしてるのがいてねえ。まいったよ」

ああ、アレクセイか。
「しょうがないよ、ロリだから」

「困ったものですね」
アーノルドが頷く。


「馬車の中でも思ったけど、すっごい身体だなあ」
先生は、ぼくを見てしみじみと言った。

おじさん羨ましいよ、と言いながらぺしぺし叩かれる。
まったく嫌な気がしないのが凄いな。


何故か三人で筋肉談義になって。
風呂の隅で、スウェーンが微笑んでそんなぼく達を見ていた。

この人、ほとんど気配がないんだよね。
闇魔法の付与された弓矢でのフォローは心強いけど。

気配消しすぎてて、たまにびっくりする。


*****


次の所では、堂々と”ケモノ”が礼拝堂を建てて、集落を乗っ取っていた。

今回、ユキミの護衛兼後方支援は先生とアーノルドだ。
じゃあ思いっきり暴れられるな。

嫌な気配がするやつだけを粛清して。
後は外に誘導した。


目くらまし程度の攻撃で、幹部の腹に風穴が空いてしまって。
精霊魔法が強化されてることを知った。

ユキミの恩恵かな?

そしてユキミが放った特級魔法”劫魔の火炎”で見事礼拝堂は消滅。
後からやってきた三人も、粛清された。


その時に、ユキミが悩んでいたことを知って。
やっぱりこの子は優しくていい子なんだなと思った。

治癒能力に、精霊魔法、神聖魔法まで特級とか。全能どころじゃない。
もはや神だよ。

それなのに、全然普通の子なんだ。
面白いな。


「じゃあ、みんなで世界を救っちゃおう!」
その言葉通りに。


みんなで世界を救ってしまったんだ。


*****


帰りは移動魔法円を使わないで、ゆっくり帰ることにした。


「露天風呂、離れの方にもあるんだってよ」

先生に誘われて、ちょっと先にある露天風呂に入った。
こちらも貸切だ。

「いやー、大仕事の後の風呂は格別だねえ」

すっかりリラックスしてる。
両脚放り出しちゃって。

もう映写石で記録してないからって、だらけすぎじゃないかな。


「馬並み、とまではいかないけど、こっちもご立派だよな!」
……どこを見て言ってるのかな?

「しかしこの立派さには敵うまい」
と、立ち上がって。

水気を飛ばした、ふさふさのしっぽを出した。

「ご立派で……」
掴んでみたら。


「はうっ、」
先生は、びくり、と身体を震わせて。

真っ赤になってる。

……あれ?

先生も、あれ? という顔をして。
ぼくを振り返った。


ぼくも立って。
馬のしっぽを、十年ぶりくらいに出した。

先生は、そろそろと、しっぽに手を伸ばして。


握られた途端。
全身に、快感が走った。


「っ、」
「まさか……」

先生は、ぼくを指差して。


「ツガイ!?」


*****


そうとわかったら。
先生を抱き締めて。唇を奪ってしまった。

「んうううっ、」

先生のしっぽを掴んで。
揉むようにしてやると、身体の力が抜けていって。

ふにゃふにゃになったのを、膝の上に乗せて。
後ろを慣らしていく。


「ちょ、待った。俺が受けるほうなの!?」
「……こんな全身ふにゃふにゃ状態で、ぼくのこと抱けるの?」

黙ってしまって。
むう、とぼくの胸板に身体を預けてきた。

恥ずかしそうなのも、かわいらしい。


ああ。
ツガイって、こんな愛おしいものなんだ。

とろとろになるまで慣らして。
後ろを向かせて、貫いた。

「くぅ……、イアソンの、おっきすぎ、だって、……ああっ、」

腰を揺らすと、鳴き声を上げる。

特級魔術師で。
格好良くて。ぼくよりも強いのに。

ぼくの腕の中ではかわいく鳴いて。快楽に腰を振ってるなんて。

どうしよう。
何回抱いても、収まらないよ。


ねえ、もっとぼくの名前を呼んで。
好きって言って。

ぼくも、それ以上に返すから。


*****


先生は、すっかりのぼせてしまって。

お姫様抱っこで運んでたら、アレクセイが面白がって映写石で記録してた。
それ、あとでデータちょうだい。


途中で馬車を引き取って。
帰りもずっと一緒だ。

アレクセイはすごいな。
ぼくなら、手に入れたツガイとは、ひと時も離れたくないよ。

先生も、そうみたい。


王国に戻ったら、魔術師と学士の仕事に戻るっていうし。
仕事場も、そんな離れてない。

いつでも会える。ぼくの愛おしいツガイと。


三毛猫は幸運を運ぶって、本当なんだと思う。
ぼくにも、幸せを運んでくれた。




おわり
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

異世界転移したら何故か獣化してたし、俺を拾った貴族はめちゃくちゃ犬好きだった

綾里 ハスミ
BL
高校生の室谷 光彰(むろやみつあき)は、登校中に異世界転移されてしまった。転移した先で何故か光彰は獣化していた。化物扱いされ、死にかけていたところを貴族の男に拾われる。しかし、その男は重度の犬好きだった。(貴族×獣化主人公)モフモフ要素多め。 ☆……エッチ警報。背後注意。

チート魔王はつまらない。

碧月 晶
BL
お人好し真面目勇者×やる気皆無のチート魔王 ─────────── ~あらすじ~ 優秀過ぎて毎日をつまらなく生きてきた雨(アメ)は卒業を目前に控えた高校三年の冬、突然異世界に召喚された。 その世界は勇者、魔王、魔法、魔族に魔物やモンスターが普通に存在する異世界ファンタジーRPGっぽい要素が盛り沢山な世界だった。 そんな世界にやって来たアメは、実は自分は数十年前勇者に敗れた先代魔王の息子だと聞かされる。 しかし取りあえず魔王になってみたものの、アメのつまらない日常は変わらなかった。 そんな日々を送っていたある日、やって来た勇者がアメに言った言葉とは──? ─────────── 何だかんだで様々な事件(クエスト)をチートな魔王の力で(ちょいちょい腹黒もはさみながら)勇者と攻略していくお話(*´▽`*) 最終的にいちゃいちゃゴールデンコンビ?いやカップルにしたいなと思ってます( ´艸`) ※BLove様でも掲載中の作品です。 ※感想、質問大歓迎です!!

猫が崇拝される人間の世界で猫獣人の俺って…

えの
BL
森の中に住む猫獣人ミルル。朝起きると知らない森の中に変わっていた。はて?でも気にしない!!のほほんと過ごしていると1人の少年に出会い…。中途半端かもしれませんが一応完結です。妊娠という言葉が出てきますが、妊娠はしません。

元暗殺者の少年は竜人のギルドマスターに囲われる

ノルねこ
BL
暗殺者の少年は、魔王討伐メンバーで、今は冒険者ギルド・ライムギルドのギルドマスターをしている竜人レオンハルトの暗殺に失敗し、彼に所属していた暗殺者ギルドを壊滅させられる。 行き場を失った名無しの少年、暗殺者ナンバーKはレオンハルトに捕らえられ、「ケイ」という名で冒険者兼ギルド職員として働き始める。 辺境のライムギルドの受付には色々な冒険者が来る。そんな冒険者たちとの触れ合いと、冒険者生活、自分のことをつがいだと言って口説いてくるレオンハルトとのまったりスローライフを不定期連載でお送りします。 レオンハルト(魔王討伐メンバー、元SSS級冒険者、ギルマス、竜人)×ケイ(元暗殺者の少年、ギルド受付と冒険者兼業) 軽いふれあいはありますが、本格的なえっちは後半です。別カプにはあります。作者はレオンハルトに「執筆スピード上げてケイを早く成人させろ!」と怒られた! 作中のおまけと補遺を後書きで登場人物がしてくれます。本文より長くなる場合も…。 ※BLはファンタジー。竜や竜人の生態は全て作者の創作です。チキュウやニホンなど、似たような名前が出てきますが、実際の地球や日本とは名前が似ているだけの別物です。 別サイトでも掲載中。

オタク眼鏡が救世主として異世界に召喚され、ケダモノな森の番人に拾われてツガイにされる話。

篠崎笙
BL
薬学部に通う理人は植物採集に山に行った際、救世主として異世界に召喚されるが、熊の獣人に拾われてツガイにされてしまい、もう元の世界には帰れない身体になったと言われる。そして、世界の終わりの原因は伝染病だと判明し……。 

平凡くんの憂鬱

BL
浮気ばかりする恋人を振ってから俺の憂鬱は始まった…。 ――――――‥ ――… もう、うんざりしていた。 俺は所謂、"平凡"ってヤツで、付き合っていた恋人はまるで王子様。向こうから告ってきたとは言え、外見上 釣り合わないとは思ってたけど… こうも、 堂々と恋人の前で浮気ばかり繰り返されたら、いい加減 百年の恋も冷めるというもの- 『別れてください』 だから、俺から別れを切り出した。 それから、 俺の憂鬱な日常は始まった――…。

転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。 どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。 だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。 こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す! ※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。 ※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。 ※R18は最後にあります。 ※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。 ※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。 https://www.pixiv.net/artworks/54224680

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...