異世界でチート過ぎる三毛猫にされた俺は、オオカミ騎士から溺愛されてます。

篠崎笙

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おまけ:イアソン

運命の出会い

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研究室の廊下で。
女の子が、ぼくの顔を見るなり青褪めて。大急ぎできびすを返した。

……またか。


ぼくは一角獣の守護獣を持ってるけど。
別に非処女を角で突き殺したりなんかしないのに。

精神感能力が高くて、悪意を感じると嫌悪感を覚えるだけなんだけどね。

だいたい、非処女が嫌いなら、どうやって繁殖するのさ。
ツガイを突き殺すわけないじゃない。


学士ですら、こうなんだから。
一般市民になると、恐怖の対象にされたりする。

神の使いであるといわれる幻獣だから、殺されたりはしないけど。

万病を癒す、という角を狙ってくる輩は大勢いて。
角を削ろうとしてくるのを撃退しているうちに、攻撃魔法や格闘技まで強くなってしまった。

地元からも、それが原因で出たようなものだ。

お陰で一角獣の治癒能力を買われて王国研究室で拾われて、こうして医療魔法師兼学士としてやっていけるわけだけど。


こんなぼくに、普通に声を掛けてくる変わり者なんて、数えるほどしかいない。
恋人とか、夢のまた夢だ。

好きな研究をして生きられれば、それでいいや。
そう思ってたんだけど。


「え、救世の神子と、”ケモノ”退治に行け、だって!?」

王様から直々に指名されてしまったら、断れない。
しょうがないから行くか。


リーダーは銀狼の遊撃騎士、アレクセイか。
じゃあ、アレクセイが人選したんだろう。ぼくの能力を買ってくれるのは嬉しいけど。

ぼくでお役に立てるかなあ?


*****


時間前に、待ち合わせの王城門前に到着してしまった。
無自覚ながら、わくわくしてたみたい。


「おや、イアソンじゃないですか。お早いですね」
アーノルドの銀髪がさらりと流れた。

聖騎士の鎧を装着していて、気合い充分だね。

「おう、イアソン」
ティグリスも来た。

服は新品で、滅多につけない防具をつけてる。
斧も、磨かれてピカピカだ。

映写石に記録されて、戦況報告が国王に入る、というのでぼくも正装だ。
目指せ給料アップ。なんてね。


ケモノの噂は届いていて。
正直、このメンバーでも勝てるかどうかわからない。

生きて帰れれば御の字、という感じかな。


「皆様、お早いお着きの様子で……」
案内役という、ルーファスという男が来た。

信用できない感じだけど、本当にこの人連れてくの?


*****


しばらくして。
アレクセイは従者のスウェーン、それと見知らぬ小さな子を伴ってやって来た。

待ち合わせ時間ぴったりだ。
相変わらずきっちりしてるよね。


小さな子は、ユキミといって、アレクセイのツガイらしい。
子供に見えたけど、16歳だった。

異世界から召喚された神子がツガイだなんて、運命的だよね。
猫の守護獣持ちで、耳としっぽが出てる。

かわいらしい子だ。
しかも三毛猫なんて、旅の連れには縁起がいい。


「イアソン」
アレクセイに耳打ちされた。

ルーファスは敵の間者だと思う。
動向を警戒しつつ、ユキミを守って欲しい、と。

ずいぶん信頼されたもんだね。
その信頼に応えないと。


ちゃんと守るよ。質問責めにはするけどね!


*****


「ねえねえ、アレクセイは、性器も犬みたいだった? ツガイなら、見たよね?」


無邪気を装ったセクハラに、ユキミは顔を真っ赤にさせた。
かわいいなあ。

「じゃあ、イアソンは馬並みなの?」
ユキミは唇を尖らせて言った。


この一角獣ぼくに。
まさか、セクハラ返しする人が現れるなんて!

異世界人なのに、なかなか肝が据わってる。
気に入った。


「……まいったな。一本取られたよ。馬並みじゃないけど、角は出せるんだよ。滅多に出さないけど」

角を狙ってくるやつを撃退する為に鍛えたんだよ、と筋肉を見せたら。
無防備にぺたぺたと触ってくる。

触られても、全然嫌な感じはしなかった。

まるで水や空気みたいな、清々しい気を感じる。
不思議な子だ。


*****


うっかり油断して、ルーファスの攻撃を食らってしまい、肺に穴を空けたけど。
ユキミが無詠唱で治してくれた。僕より上位だ。

医療魔法師としてのぼく、必要なくない!?

さらに、精霊までも容易く魅了してくれちゃって。
まったく、自信なくすよ。


ユキミは昨日異世界からこちらに来たばかりで、ほとんど何も聞かされないまま、連れてこられたと知って。

一角獣の習性が、むくむく疼いた。
世話したがり、教えたがりだ。

でもユキミはうざがらずに感心して聞いてくれた。
いい子だ。

ぼくも、こういうかわいいツガイが欲しいなあ。


*****


途中から、ジャスパーというジャッカルの獣持ちが、案内役として入ることになった。

”ケモノ”化からユキミが解放した、いうなれば敵側だっていうのに。
アレクセイは全く警戒してなかった。

まあ、嫌な感じはしないから、悪意はないのだろうけど。


それにしても。
ジャスパーという名前で、ジャッカル持ち……。

この甘い顔立ち。
すごく見覚えがあるんだけど。

猟師の格好をして、方言訛りで話してるけど、言動の端々に、育ちのよさを感じるんだよね。


ユキミの子猫姿を見て悶絶したり、色々あって。

敵襲により馬車が揺れて。
2人がすっ飛んでしまいそうなのを捕まえた。

ジャスパーは、ぼくの筋肉を見て、学士なのにすごいと言った。
襟章だけで学士だとわかる猟師はいないと思うんだけどね?

それに、妖精の話で確信した。
間違いない。


ジャスパー=ルウェリン。
5年前に失踪した、特級王国魔術師だ。

教わるのを楽しみにしてたのに。いなくなっちゃってがっくりしたものだ。
こんなとこで何をやってるんだか。


*****


問い詰めたら、あっさり白状した。

油断して、うっかり捕まったとか。
うっかり致命傷食らったぼくは何も言えないけど。

先生の魔術を、”ケモノ”に悪用されなくてよかった。
特級の精霊魔法だけじゃなくて、次元魔法の使い手でもあるし。


先生から見ても、”ケモノ”のボスであるグレゴリーは怖ろしく、勝ち目のない相手だと思ったらしい。

けど。ユキミと、ツガイを得てパワーアップしたアレクセイなら勝てる、と確信したようだ。
だよね。


先生は映写石の存在をめちゃくちゃ意識してて笑った。
すごい格好つけてるの。

服の構成を組み替える魔法を解いて、王国魔術師の白地に金の装飾の制服に変えたのは、すごく決まってた。

ユキミの前に、跪いて。
「シルヴェスター王国特級魔術師ジャスパー=ルウェリン。神子様の力となるべく、尽力致します」

思わず溜め息が出るくらい、格好良かったのに。


ユキミに、特級なのにつかまっちゃったんだ、と突っ込まれて。
しょげてる姿は年上なのに、かわいかったけどね。
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