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血のにおい
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うちの食堂ほどの広間に、絨毯が敷かれていて。
そこに、ぼろぼろになった魔術師や魔法師がへたり込んでいる。
あいつら、火と風の精霊から逃げたやつらだな。すっかり怯えた様子だ。
気持ちはわからないでもない。
……におうな。
血のにおいが充満している。
ここでも、何人か……いや、大勢の人が殺されたのだろう。
そして。
「脅されて、入らされたのです。強い獣を求めていたようで。従わなければ、死を選べと言われてね」
白々しい。
領主はジャスパーの制服に気付いたようで、注視した。
「そこの特級魔術師のあなた……最近仲間入りした、ジャッカルでは? 偽装で潜入していたのでしたか……さすが特級ですね」
スパイだったと思われているが。
「いや、本当に捕まって、グレゴリーの手で”ケモノ”にされた。だが、元に戻してもらったのだ」
何故そんなことを得意げにバラすんだジャスパー。
「……元に戻る方法を知りたくないか?」
にやりと笑った。
ああ。
そういうことか。自分は”ケモノ”落ちをしたが、このように戻れたのだと証明するためか。
魔術師たちがそれに反応した。
戻りたいという者の中なら、においの薄いものだけ選別し、外へ出るように指示した。
心当たりがあるのだろう。
選ばれなかったものは、絶望の表情だった。
悔やむなら、欲望に負け、犯した己の罪を悔やむがいい。
*****
「イアソン、ユキミを頼む。一緒に外のやつらを戻してやって欲しい」
イアソンはユキミの背を押し、外へ出た。
念のため、とスウェーンも後を追わせる。
この先は。
ユキミには、見せないほうがいい。
人を好んで傷付けたり、殺害するものからは、必ずそのにおいがする。
洗っても、それは決して落ちないものだ。
魂まで、べっとりとまとわりついている。
血のにおいだ。
「時に、オウィスとやら」
俺は領主の方に初めて視線を向けた。
「本物のオウィス氏は、貴方が被っている、その皮ですか?」
ティグリスとアーノルドがそれを聞いて、嫌そうな顔をした。
ジャスパーも気付いていたようだ。
ひどいにおいがするしな。
「やはり、同種の鼻は誤魔化しきれないか」
羊の皮の下から、コヨーテの姿が現れた。身体は小さいが、凶暴な獣である。
「……我が身に宿りし銀狼よ。……その大いなる力を我に与えよ」
”力”を全身に巡らせ。
全員に告げる。
「残った者は、総て断罪せよ」
*****
魔術師らはその声を聞いて、立ち上がった。
精霊から契約を解消され、使える術は僅かだというのに。
刃向かうか。
だが。
「本当は、従いたくなかった……」
魔術師らは、自決した。
次々と血飛沫が上がり、絨毯を紅に染めてゆく。
獣性を操られ、本能の赴くままに殺戮を繰り返した者達の最期だった。
「臆病ものどもめ」
コヨーテは吐き捨て、抜刀した。
「罪を贖ったものを嗤うな。禽獣が」
抜刀、そして光の刃を放つ。
コヨーテはそれを魔法防御で防ごうとしたが。
光は刀をすり抜け、ケモノだけを断ち切った。
「何だと……!?」
獣化を解かれ、その正体を現した。
短躯の男。
顔には火傷の痕だ。
「メスチーソ!」
ティグリスが知っている者だったようだ。
「刺青……罪人のしるしを焼いたな。俺の故郷で指名手配されてた悪党だ。だが、コヨーテではなかったはずだ」
同じ故郷のお尋ね者だったようだ。
憑いているケモノが変わっているのは、グレゴリーの仕業か。
誰かのコヨーテを剥がし、より悪辣なメスチーソに憑かせたのだろう。
メスチーソの背後に回っていたアーノルドが、血吸鳥を飛ばした。
俺からの攻撃を警戒していたため、背中はがら空きだった。
油断したな。
そいつは聖騎士のくせに、俺よりえげつない攻撃をするというのに。
「ぐわあっ、」
背中に刺さった血吸鳥は真っ赤に染まり、獲物の全身の血を抜き出すまでは決して離れない。
「同郷のよしみだ。楽にしてやる」
ティグリスは、手斧でメスチーソの首を飛ばした。
外に出て、火の魔法で家屋を燃やそうとしたら。
ユキミが自分がやりたい、と言って。
その祈りにより、総てを土に還した。
獣達のために、祈っている。
中で何が行われたかも、わかっているようだ。
*****
先の宿場町で一泊することにした。
海沿いで、温泉のある宿だ。
ここに敵はいないのはすでに確認済みである。
さすがに疲れたようで、皆はもう寝るという。
ユキミは一足先に温泉に入っていた。
安全のため貸切にしたので、今日は俺たちの他に客は居ない。
「みんなは入らないの?」
無邪気に言うが。
「湯を血で染める気か……?」
そんな白くてすべすべでやわらかそうな肌を見たら、鼻血で温泉が真っ赤になりそうだ。
地獄絵図になってしまう。
それに、ツガイの肌を、俺が他人に見せると思うか?
隣で湯に浸かっていたら、ユキミが俺の身体を凝視していた。
何だ?
何故か不機嫌そうに耳を伏せている。
「むー」
泳いで、俺から離れていく。
「猫って泳げるのか……」
普通は水に浸かるのを嫌がるものだが。
「俺、元々泳げるし。猫じゃないし」
拗ねるのも可愛らしいが。
「犬の方が泳ぎは上手だぞ」
腕の中に捕まえた。
「狼でしょ……」
可愛い口を尖らせて。
「俺の可愛いツガイは、どうして拗ねてるのかな?」
「教えない」
つん、と顔をそむけられる。
ふうん?
そんな態度も可愛らしいが。
抱き締めて。
もう一度聞いても言わないのなら。
……身体に訊くとしようか。
そこに、ぼろぼろになった魔術師や魔法師がへたり込んでいる。
あいつら、火と風の精霊から逃げたやつらだな。すっかり怯えた様子だ。
気持ちはわからないでもない。
……におうな。
血のにおいが充満している。
ここでも、何人か……いや、大勢の人が殺されたのだろう。
そして。
「脅されて、入らされたのです。強い獣を求めていたようで。従わなければ、死を選べと言われてね」
白々しい。
領主はジャスパーの制服に気付いたようで、注視した。
「そこの特級魔術師のあなた……最近仲間入りした、ジャッカルでは? 偽装で潜入していたのでしたか……さすが特級ですね」
スパイだったと思われているが。
「いや、本当に捕まって、グレゴリーの手で”ケモノ”にされた。だが、元に戻してもらったのだ」
何故そんなことを得意げにバラすんだジャスパー。
「……元に戻る方法を知りたくないか?」
にやりと笑った。
ああ。
そういうことか。自分は”ケモノ”落ちをしたが、このように戻れたのだと証明するためか。
魔術師たちがそれに反応した。
戻りたいという者の中なら、においの薄いものだけ選別し、外へ出るように指示した。
心当たりがあるのだろう。
選ばれなかったものは、絶望の表情だった。
悔やむなら、欲望に負け、犯した己の罪を悔やむがいい。
*****
「イアソン、ユキミを頼む。一緒に外のやつらを戻してやって欲しい」
イアソンはユキミの背を押し、外へ出た。
念のため、とスウェーンも後を追わせる。
この先は。
ユキミには、見せないほうがいい。
人を好んで傷付けたり、殺害するものからは、必ずそのにおいがする。
洗っても、それは決して落ちないものだ。
魂まで、べっとりとまとわりついている。
血のにおいだ。
「時に、オウィスとやら」
俺は領主の方に初めて視線を向けた。
「本物のオウィス氏は、貴方が被っている、その皮ですか?」
ティグリスとアーノルドがそれを聞いて、嫌そうな顔をした。
ジャスパーも気付いていたようだ。
ひどいにおいがするしな。
「やはり、同種の鼻は誤魔化しきれないか」
羊の皮の下から、コヨーテの姿が現れた。身体は小さいが、凶暴な獣である。
「……我が身に宿りし銀狼よ。……その大いなる力を我に与えよ」
”力”を全身に巡らせ。
全員に告げる。
「残った者は、総て断罪せよ」
*****
魔術師らはその声を聞いて、立ち上がった。
精霊から契約を解消され、使える術は僅かだというのに。
刃向かうか。
だが。
「本当は、従いたくなかった……」
魔術師らは、自決した。
次々と血飛沫が上がり、絨毯を紅に染めてゆく。
獣性を操られ、本能の赴くままに殺戮を繰り返した者達の最期だった。
「臆病ものどもめ」
コヨーテは吐き捨て、抜刀した。
「罪を贖ったものを嗤うな。禽獣が」
抜刀、そして光の刃を放つ。
コヨーテはそれを魔法防御で防ごうとしたが。
光は刀をすり抜け、ケモノだけを断ち切った。
「何だと……!?」
獣化を解かれ、その正体を現した。
短躯の男。
顔には火傷の痕だ。
「メスチーソ!」
ティグリスが知っている者だったようだ。
「刺青……罪人のしるしを焼いたな。俺の故郷で指名手配されてた悪党だ。だが、コヨーテではなかったはずだ」
同じ故郷のお尋ね者だったようだ。
憑いているケモノが変わっているのは、グレゴリーの仕業か。
誰かのコヨーテを剥がし、より悪辣なメスチーソに憑かせたのだろう。
メスチーソの背後に回っていたアーノルドが、血吸鳥を飛ばした。
俺からの攻撃を警戒していたため、背中はがら空きだった。
油断したな。
そいつは聖騎士のくせに、俺よりえげつない攻撃をするというのに。
「ぐわあっ、」
背中に刺さった血吸鳥は真っ赤に染まり、獲物の全身の血を抜き出すまでは決して離れない。
「同郷のよしみだ。楽にしてやる」
ティグリスは、手斧でメスチーソの首を飛ばした。
外に出て、火の魔法で家屋を燃やそうとしたら。
ユキミが自分がやりたい、と言って。
その祈りにより、総てを土に還した。
獣達のために、祈っている。
中で何が行われたかも、わかっているようだ。
*****
先の宿場町で一泊することにした。
海沿いで、温泉のある宿だ。
ここに敵はいないのはすでに確認済みである。
さすがに疲れたようで、皆はもう寝るという。
ユキミは一足先に温泉に入っていた。
安全のため貸切にしたので、今日は俺たちの他に客は居ない。
「みんなは入らないの?」
無邪気に言うが。
「湯を血で染める気か……?」
そんな白くてすべすべでやわらかそうな肌を見たら、鼻血で温泉が真っ赤になりそうだ。
地獄絵図になってしまう。
それに、ツガイの肌を、俺が他人に見せると思うか?
隣で湯に浸かっていたら、ユキミが俺の身体を凝視していた。
何だ?
何故か不機嫌そうに耳を伏せている。
「むー」
泳いで、俺から離れていく。
「猫って泳げるのか……」
普通は水に浸かるのを嫌がるものだが。
「俺、元々泳げるし。猫じゃないし」
拗ねるのも可愛らしいが。
「犬の方が泳ぎは上手だぞ」
腕の中に捕まえた。
「狼でしょ……」
可愛い口を尖らせて。
「俺の可愛いツガイは、どうして拗ねてるのかな?」
「教えない」
つん、と顔をそむけられる。
ふうん?
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抱き締めて。
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