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アレックス

もふもふこねこ

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ユキミの警護はイアソンとジャスパーに任せ、出発する。

この先、しばらくは峠道になる。
道も整備されていないので、揺れるかもしれないことも伝えておく。


スウェーンから、すぐにこちらに来て欲しい、とハンドサインが出された。
馬車が停まったので、スウェーンの方へ行った。

緊急事態では無さそうだが。

「スウェーン、どうした? 何か用か?」

無言で後ろを示される。
いいからとっとと行け、って?


何だ、その微妙な顔は?


*****


馬車の後方から、幌を開けたら。
イアソンとジャスパーが床に倒れて悶絶していた。

「な、……どうしたんだお前ら」

ユキミは?
気配はあるのに、姿は見えない。


「なーん、」
子猫の姿になったユキミが、俺の胸に飛びついてきた。

可愛い。
毛を逆立ててしまっている。突然変身してしまって、びっくりしたのか?

「あー、変身しちゃったか。なるほど」
それで二人とも、子猫になったユキミのあまりの可愛さにやられて倒れていたのか。

耐性がないとそうなるよな……。
スウェーンも、かなり我慢していたようだった。

ああ、もふもふ可愛い。
思うさま頬ずりしたいところだが、先を急がねばならないのだ。残念。


ユキミの服を回収して。

「お前らあっち向いてろよ」
といっても、まだ転がってるから大丈夫か。

しかし、凄い威力だな。


そっとキスをすると。
ユキミは元の姿に戻った。


*****


「何があったんだ?」
ユキミの着替えを手伝ってやりながら、事情を聞く。


どうやら、猫の耳をしまおうとして、失敗して。
完全変身してしまったようだ。

俺もそうだが。
獣の姿に完全変身できる人は、完全に人の姿にはなれないものが多い。
生まれた時からこの耳、この尾だった。

ユキミにそう伝えると、がっかりしていた。
こんなに可愛いのに。消してしまったら勿体ないと思うが。


「あんたも完全変身できるのか。すごいな」

俺を見て、ジャスパーは興奮して耳を動かした。尾も振ってる。
こういう風に、感情を素直に表せるのは羨ましい。

俺は小さい頃から耳や尾で感情が表に出ないよう、猛特訓させられたからな。
貴族は腹芸ができないといけない、とかで。


「神子サンはもっとすごかったな。まさか子猫になるなんて。ありゃ勝てねえよ。”ケモノ”のボスにも勝てそうだ」
ああ、確かにそうだな。

「心臓爆発するかと思ったよ。とんでもないよあれ」
イアソンも賛同している。


*****


「……見たかった……」
「どうして呼んでくれないんですか……」

ティグリスとアーノルドが、恨めしそうに俺を見た。

誰が呼ぶか。
ユキミは俺のツガイだと何度言ったらわかるんだ。


「私は見ましたけど」
得意げに言うな。

だが、スウェーンはまあ、仕方ない。
従者だし。以後も見ることがあるだろう。

本当は、誰にも見せたくないが。


「あ、馬、停めさせちゃってごめん。もう大丈夫だよ」
ユキミが俺を見上げる。

「離したくない……」
手に入れたばかりのツガイから離れるのは、狼にとって、かなりつらいものだ。

こんな可愛いのに。片時も離れたくない。


「馬に戻りなよ小児性愛ロリ狼」

イアソン。
何故俺に当たりが強いんだ……?

「来なさい小児性愛ロリ狼」
アーノルドに鎧の襟を掴まれて、引っ張られる。


だからユキミはこれでも16歳だって。
大人だっていうのに……。


「俺の扱いがひどい……」


*****


「来ます」


アーノルドが空から敵を見つけ、俺も気付いたが。
しばらく狭い道が続くため、ここで馬車を停めさせるのは危険だ。

防御魔法を展開しつつ、強行突破で。
広い道に出たら反撃しようと思っていたのだが。


風の精霊が、真横に出現した。
「子猫ちゃんに助太刀を求められた。どうして欲しい?」

ユキミが呼んだのか。

これは、イアソンの指示だろう。
俺に指揮権を譲るとは。ユキミは殺しを好まないからな。参ったな。


「こちらは今、防御魔法で手一杯なので、代わりに馬車や仲間を護って欲しい」
「はは、あんたも護ってやるよ。ツガイ殿」
精霊にも知られてるのか。

「感謝する」
防御魔法を切った途端。

周囲を風に包まれると同時に、すさまじいカマイタチが敵の魔法師や魔術師を襲った。

攻撃を受けると自動的に反撃する、風魔法。
それも、最高出力だ。

十数人が、一瞬で血塵と化した。何という過剰防御だろう。


アーノルドが唖然としている。
こちらが攻撃魔法を仕掛ける隙もなかった。

張り切りすぎだ、風の精霊……。


*****


「風の、我の分も残しておけ」

熱気。
うわ、火の精霊も来たのか。


「ふはははは、助太刀に参ったぞ!」

やる気満々な火の精霊……。
イアソンの嘆きが伝わってくるようだ。可哀想に……。

「では、攻撃してくる者にだけ、仕置きを願う。逃げるのは放置で」

「何故だ。一網打尽にしてしまえば良かろう」
不満そうだが。

「過剰な攻撃は、ユキミが悲しむ」
「うむ。肝に銘じよう」


凄いことになってるな……。

火と風の精霊が、争うように守護する姿とか。
とんでもない光景を目の当たりにしている……。どう見ても過剰防衛だが。

敵の魔法師、魔術師は、火と風の関連する魔法全てを無効化されただけでなく、精霊本体が攻撃に来てることに、驚愕していた。

そりゃそうだ。
契約時に姿を見せるのも稀なくらいで。普通、精霊本体が出てくることはない。あり得ないことである。


賢いものは撤退したようだ。
そうでないものは全て、死体も残さず塵になった。
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