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幸見

みんな大好き

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佐野は、スウェーンの実家から突然消えてしまったという。

脱出不可能な屋敷なのにって。ちょっとどういうことなのか聞きたい気がするけど。
やめておこう。

じゃあ、ちゃんと元の世界に帰れたんだろう。
良かった。

やっぱり、神様と逢ったのは夢じゃなかったんだ。


『ユキミ、アマロウ焼き食べるか?』
「うん」

大変な仕事を終えたばかりだということで。

アレックスはご褒美にしばらくの間、休暇を貰ったらしい。
そんな忙しい仕事なんだ。


アレックスが休暇なら、遊撃騎士補佐の俺も休暇だ。
なので、新婚気分を味わおうと言われて、デート中だったりする。

城下町を、だけど。


『おやじ、みっつくれ』
アレックスは焼き菓子を三個買って。俺とスウェーンに一つずつ渡してくれた。

「ありがとう」
「ありがとうございます。……お邪魔虫気分ですよ全く」
スウェーンと二人で、アレックスにお礼を言う。

サービスだって、店のおじさんが、オマケにもう三個くれた。
おじさんにもお礼を言う。


スウェーンはアレックスの従者であって、俺のボディガードでもあるらしいので。
出かけるときに一緒にいるのは当たり前なんだけど。

なんか、遠慮してる感じだ。いいのに。
家族も同然なんだし。


「おいしいね」
『ええ』
笑顔を返してくれる。


直後、スウェーンは真顔になって。
がばっと抱き締められて。

アレックスに。俺を抱き締めてるスウェーンごと抱きかかえられた。


*****


そのすぐ後、轟音が響いた。
爆風とか破片とか、飛んできたみたい。


「な、なに? 何かの攻撃!?」
『いや、事故だ。どうやら、どこかの屋台の燃料が爆発したっぽいな』

アレックスは、爆発と同時に防御魔法を展開したみたいだ。
さすがだ。


事故で、辺りは大騒ぎだ。

そこかしこから、煙が上がってるし。
怪我人も大勢、でたようだ。

子供が、泣きながら歩いてる。頭から、血を流して。
思わず駆け寄った。

「だいじょうぶ?」

ああ。
俺に、治癒能力が残っていれば。治してあげられたのに。

と。
触れたら、子供の怪我が治った。


「あれ? ……怪我、治った?」
頭とか、痛くなくなった! と、子供もびっくりした顔をしている。


『え?』
「俺。治癒能力、まだ持ってたみたい。……救助、手伝ってくるね!」


『わかった。俺たちは、人を避難させよう』
「ガスとか引火して、二次災害がおこらないよう、気を付けて!」

アレックスは、頷いて。
スウェーンも準備に取り掛かった。


休暇は、とりあえず終わりだ。


*****


怪我人が多く集められている場所に、急いで行く。

火が上がってるところもあって。
「水があれば……、」

と。
思ったところで。

ざばあ、と水が降ってきて、鎮火した。


……水の精霊?
まだ、加護を失ってなかったの?

試しに、火が上がってる場所に鎮火するように水を求めたら。
その場所に水が降った。

「……ありがとう。水の精霊さん」

くすくす笑う、精霊の声が聞こえた。


怪我人が集められてる場所には、俺のことを知ってる人もいて。
すぐ治療に入った。

とりあえず、重傷の人から治していたら。


『ユキミ! やっぱりきみか!』
イアソンが、駆けてきた。

『なんか凄い医療魔法使う人がいるって聞いて、飛んで来たよ。あ、ぼくは軽傷を受け持つね』
今、手が空いてる医療魔法師はイアソンだけだったらしい。


俺とイアソンで、手分けして怪我人の処置をして。
アレックスやスウェーンは、怪我人の運搬や避難する人の誘導とかで走り回っていた。


何とか、騒ぎは収まった。


*****


「神様が、今までのような加護は与えられないって言ってたから。てっきりもう、使えないのかと思ってた」
精霊の加護も、まだあったと言うと。

『治癒能力は、神様の加護じゃなくて、元々、ユキミに与えられた能力だったんじゃないの?』


じゃあ。
こっちに来たとき、怪我が治ってたのも、そうなのかな?

前から欲しいと願っていた能力を、異世界に来たときに、神様からギフトとして与えられたのではないかと。


『精霊は、そりゃそうだよ。あれだけベタ惚れしてるのに、あっさり見放すわけないじゃない』

そうか。
まだ、ミケもついてるし。

それで協力してくれてるのか。ありがたいな。


火が早めに鎮火したのも、火の精霊が協力してくれたからみたいだ。

じゃ、神様お願い系が使えなくなった、ってことかな?
ケモノを元に戻すとか、神聖魔法とかの。

それでも、充分チートすぎるよ。


俺に、人を助けられる力があって。よかった。
ありがとう、神様。


*****


『火元は、魔動機具を使った施設だったよ、っと』
障害物を避けながら、ジャスパーが来た。

『あ、やっぱりユキミちゃんだったか』

俺を見て。
にやりと笑った。

『天使が現れて、傷を癒してくれたって評判になってるぞ?』

天使って。

『うん。ぼくもそれ聞いて飛んできたんだー』
イアソン……。


『お、イアソン、ジャスパー。久しぶりだな』

アレックスが戻ってきた。
スウェーンも。

『久しぶりって。おととい別れたばっかでしょ?』
『なんか、長い間ずっと一緒にいた感じあるよなー。おじさん今、寂しくてしょうがないわ』
イアソンとジャスパーが笑ってる。


『おや、出遅れましたね』
アーノルド。

『瓦礫の撤去とか手伝うぜ』
ティグリスも。

『何、みんな寂しくなって来ちゃった感じ?』
『この顔ぶれが揃ってると、なんか安心するんだよな』
『わかる』


みんな笑顔だ。
俺も、みんなに逢えて嬉しい。


*****


『あ、瓦礫の撤去とか、土の精霊に頼んでみたら?』
イアソンに提案されて。

「崩れた建物とか、元に戻してください」
お願いしたら。

爆発で壊れた壁とか。全部、元通りになった。

「わあ、すごい。ありがとうございます!」


『……ねえ、これ、土魔法じゃないよね……』
『ええ、特級神聖魔法、”ありのままの姿に戻したまえ”ですね。神の加護、まだ有効なのでは……?』
イアソンとアーノルドが話してるのが聞こえた。

え。
ほんとに?


『やっぱり、皆うちのにゃんこが可愛くて仕方がないようだな!』
アレックスが、俺を抱き締めた。

『ま、俺が一番愛してるけどな』

「俺も、アレックスが一番だよ」
アレックスに、抱きつく。


元通りになったし、騒ぎも収まったので撤収だ。
休暇も再開。

『ご馳走様です……続きはうちでやんなさい』
『じゃあ、またな!』
『遊びにきてくださいね』
『またね~』

手を振って。
笑顔で別れた。


「みんな、大好きだよ。また会おうね!」




おしまい。
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