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幸見

守護するもの

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小学生……ってわかんないか。俺が、6歳の頃だった。

お祖母ちゃんは、心臓が弱くて。
いつも、心臓の薬を持ち歩いてたのは知ってた。


今にも雪の降りそうな、とても、寒い日だった。

学校から帰ったら。ただいまって言っても、いつもみたいにお祖母ちゃんの返事が返って来なくて。
お祖母ちゃんは、外に出ることはめったになかったから。入って、探したんだ。


そしたら、離れの居間で。
お祖母ちゃんが倒れてて。苦しそうにうめいてたんだ。

側には、薬の容器が転がってた。

いつも優しいお祖母ちゃんが、別人みたいな顔をしてうなってるのが、こわくて。
どうしたらいいのかわからなくて。

俺、その場から、逃げちゃったんだ。


どうしよう、どうしようって思いながら、外を走って。
しばらくして。

大人を呼べばいいことに気がついた。


急いで、戻って。
本殿にいたお祖父ちゃんたちを呼んだんだけど。
救急車が到着したときにはもう、すでに心臓は止まってたんだ。


もう、手遅れだった。


*****


倒れてるのを見たときに、声を掛けて薬を飲ませるか、すぐに大人を呼べば。
間に合っていたかもしれないのに。

俺が、お祖母ちゃんを見殺しにしたんだ。


俺が死なせてしまったようなものだ。

苦しかっただろう。
逃げだしてしまった俺を、恨んでいるかもしれない。


三日くらい寝込んで。
結局、葬儀にも出られなかった。


だから、俺は優しい人間なんかじゃないし。

本来、神様の加護なんか与えられるような人間じゃないんだよ。
ミケは、生まれたばっかで捨てられたから、俺しか知らないから、俺を護ってくれてるだけで。

子猫とかを拾ったのも、優しさじゃない。

そういう風に育てられたから、しただけなんだ。
怪我をした鳥とか、弱い生き物を見捨てるのはいけないことだと教わったから。


結局、助けられなくて。
意味無いじゃないか。ただの自己満足だ。

それなのに。


どうして。
俺を護ってくれるの?


*****



『ユキミ』
頬を、優しい手が包む。

スウェーンの手が、離れた。


『三毛猫は、何も知らなかったわけじゃない。自分を捨てた人間も、通りかかっても見ない振りをして去った人間も知っていた。生きるのを諦めていた。でも、ユキミが拾ってくれて。頑張れと声を掛けてもらって。その優しい手を知って、もっと一緒に居たくて、生きようと頑張ったんだ。だが、叶わなかった。だから、守護獣になったんだ』

アレックス。

『祖母ちゃんだって、びっくりさせて怖い思いをさせて悪かった、と思ってるだけで。ユキミを恨んでなんかいないぞ。寿命だった、気にしないで欲しいと言ってる。今も心配して、見守ってる。……異世界では、人間も守護に憑くことがあるんだな。知らなかった』


お祖母ちゃんが、いるの?

今も。
俺を見守ってくれてるの?


アレックスには、見えてるの?


「ごめんねって、言いたかったんだ。助けられなくて。葬儀にも、出られなくて、ごめんって」
『大丈夫だ、怒ってないし、謝る必要はないって言ってる』
アレックスは、優しく抱き締めてくれた。


自分なんか、と卑下するのは。
自分を愛し、守護しているものたちを卑下しているのと同じことだ。

自分を大事にして、感謝するから。
それだけ守護の力も強くなるのだとアレックスは言った。


わかった。
俺はもう、過去のことでくよくよ迷わない。

ミケ、お祖母ちゃん、妖精たち。
俺を護ってくれている、すべてに感謝する。

俺は、俺のツガイと。
護ってくれるものたち、仲間を信じる。


みんなの無事を。勝利を信じよう。


*****


アレックス、スウェーン、イアソン、ジャスパー、アーノルド、ティグリスの周囲が、光に包まれた。


『わ、』
『力が、湧いて来る……?』

『”貴方の人生に幸あらんことを”。総てにおいての能力を上げる祝福です。……特級神聖魔法……我らの神も、神子の加護をされておられたのですね』
アーノルドが微笑んだ。

輝く笑顔が、聖母のようだ。

『ちょっと待ってよ。治癒能力に、精霊魔法、神聖魔法まで特級とか……全能じゃない』
イアソンが俺の背中をぽん、と叩いた。

大サービスだね。
神様、ありがとう。


「じゃあ、みんなで世界を救っちゃおう!」

『ああ』
アレックスは頷いた。

愛してるよ、俺のツガイ。

『及ばずながら』
スウェーンは謙遜しすぎだと思うよ。

『御意』
アーノルドは優美に騎士の礼をした。

『おう!』
ティグリスは力強く拳を振り上げて。

『もちろんだよ』
『おじさんも頑張っちゃうよ!』
イアソンとジャスパーに手を出されて。その手を叩く。


行こう。
みんなで。世界を。”ケモノ”を救うために。


”ケモノ”のボス、ヒグマのグレゴリーのいる、悪神の教会本部へ。


*****


それは、国の外れにあった。

悪神の教会。
上空には、暗雲が立ち込めている。

禍々しい雰囲気がするのは、気のせいじゃないと思う。


悪神は、人々の悲しみや憎しみ、あらゆるマイナスの感情を力にする。
仲間を増やし、人々を襲わせたのも、悪神の力を増すためだ。

悪神の教会から、この世の総てに対してのすさまじい憎悪を感じる。


この憎しみから、解放してあげよう。
ヒグマを。

哀れなグレゴリーを。
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