異世界でチート過ぎる三毛猫にされた俺は、オオカミ騎士から溺愛されてます。

篠崎笙

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幸見

刺客vs.精霊

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『俺は生まれた時からこうだから、仕舞えない』

アレックスの耳は生まれつきだったようだ。
この状態から、狼に変身はできるけど。完全な人の姿にはなれないそうだ。

獣の姿に完全変身できる人は、たいていそうだという。


『だから、ユキミもたぶん、そうだと思う』

そうなんだ……。
猫耳、しまえないのか。残念。

『へえ、あんたも完全変身できるのか。すごいな』

アレックスを見て、ジャスパーの犬耳がぱたぱた動いた。
ジャスパーが出せるのは、耳としっぽだけだそうだ。それだけでも、力が強いというあかしだって。

『神子サンは、もっとすごかったな。まさか子猫になるなんて。ありゃ勝てねえよ』
ジャスパーの呟きにみんな同意して、しみじみと頷いてる。

『”ケモノ”のボスにも勝てそうだ』
え、そこまで?


『かわいさのあまり、心臓爆発するかと思ったよ。とんでもないよあれ』
イアソン……。

『ああ、そうだな』


なんかみんな納得してるけど。
いったいそれって、何の勝負なんだよ……?


*****


『……見たかった……』
『どうして呼んでくれないんですか……』

ティグリスとアーノルドは、心底残念そうだった。

これが、王国最強を誇る騎士団の、選ばれしメンバーか……。
大丈夫?

もし、敵に子猫とかがいたら、戦えるのか? それで。


『私は見ましたけどね』
スウェーンはドヤ顔だった。

それで馬を停めて、アレックスを呼んでくれたらしい。
何と有能な……。


「あ、馬、停めさせちゃってごめん。もう戻れたし。大丈夫だよ」
俺を抱き締めたままのアレックスに言う。

『離したくない……』
それは嬉しいけど。


『馬に戻りなよロリ狼』
イアソンに、しっしっと追い払われている。

『来なさいロリ狼』
アーノルドが、アレックスの鎧の襟を掴んで引っ張っていく。細身のわりに、力持ちだ。


『俺の扱いがひどい』

仲良いよね。


*****


猫じゃらしみたいにぱたぱたさせているジャスパーのしっぽをもふもふしてたら。


大きな犬耳が、ぴくっと動いた。
『……来た。ヤツらだ』

ヤツら?


ジャスパーは、おもむろに立ち上がると。

『……から来てる。他は、』
『こちらは大丈夫です。神子様を、』

馬を操ってたスウェーンに、何やら話をして。
こっちに戻ってきた。


『今から揺れるだろうから、備えてろってよ』

『わかった』
イアソンが頷いた。

何だろう?
どこかに掴まってればいいのかな?


うわ。
いきなり、車体が斜めになった。

馬車のスピードも、かなり上がってるみたいだ。
ガタガタと大きく揺れてる。


『どわ、』
衝撃に吹っ飛ばされかけたジャスパーと、転げかけた俺を、イアソンが抱き寄せた。

細身に見えるのに、筋肉すごいし。力持ちだ。


『あ、あんた、学士サマだってのに、意外と、力持ちなんだな?』

ジャスパーは、イアソンの盛り上がった筋肉を見て驚いてる。
イアソンは得意そうに笑った。


*****


何か、外で爆発音とか聞こえてるんだけど。
大丈夫かな?


『風の精霊に助太刀をお願いしてみるとかどう?』
そわそわしてたら、イアソンが呟いた。

「って、何をお願いすればいいのかなあ?」

『うーん、仲間を助けて、で大丈夫だと思うけど』
「わかった。やってみる」


手を組んで。祈る。
「風の精霊さん、力を貸して」

風が吹いて。
回転する風が、人の形をかたどっていく。

緑色の髪と目の、いたずらっこみたいな顔をした少年の姿だ。

『やっとおいらを呼んでくれたな子猫ちゃん! 待ってたぜ! さあ、願いは何だ?』
待たれてた。


「外にいる、仲間を助けて欲しいんだ」
『いいぜ。……火のやつも、待ってるから呼んでやってよ!』
と、消えた。

待ってるのか……じゃあ。
「火の精霊さん、力を貸して?」

『おお、待ちかねたぞ!』
待ちかねられてた。

渦巻く炎が現れて、魔神みたいな大男の姿になった。
全身火で出来てるようで。赤とオレンジで構成されてる感じだ。

満面の笑顔だった。


『神の愛し子、愛らしき子猫よ。我に願うが良い。全力をもって叶えよう』
ぜ、全力はいいです……。

「外にいる、仲間を助けてくれる?」
『容易いことだ』
消えた。


ジャスパーは、口を開けてぽかーんとしてる。
イアソンは頭を抱えていた。

『あんなデレッデレの火の精霊、見たくなかったよ……』
あれって、デレてたんだ?


*****


外の音が聞こえなくなった。

風の守護魔法が遮断してるんじゃないかってイアソンが言うので。
よくわからないけど、そうなんだろう。

ジャスパーは、ぴくぴく耳を動かして。
何かを感知してるのか、うわぁ、とかとんでもねえな、とか言ってる。

いったい外で、何が起こってるんだ……。


しばらくして、馬車が停まった。

『仲間は無傷だぜ』
風の精霊が戻ってきた。

「ありがとう、風の精霊さん」

『へへ、いつでも呼んでくれよな!』
と、消えて。


火の精霊も。
『風のに後れを取った。次はもっと役立ってみせよう』
悔しそうだった。

「来てくれてありがとう。火の妖精さん」
『我らはもう、名を呼ばずとも力を貸そう。願うが良い、叶えよう』
と、消えた。


イアソンは、また頭を抱えている。
火の精霊に、とてつもない厳格なイメージを抱いていたらしい。

『いやー、貴重なモンを見たな……精霊同士って、交流あるのかねえ?』
ジャスパーは半笑いだった。

『……精霊界で話し合ってるとか?』

あ、イアソンが復活した。

『今、その可能性が生まれたな。精霊は、会話自体好まない、無表情なもんかと思ってたが。デレるもんなんだなあ』
ジャスパーも、精霊に詳しいのかな?

俺に、にやりと笑いながら。
『偏った呼び出しをしたら、精霊間で争いが起こるかもしれないな?』


ええ、そんな。
気をつけよう……。
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