異世界でチート過ぎる三毛猫にされた俺は、オオカミ騎士から溺愛されてます。

篠崎笙

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幸見

”ケモノ”との遭遇

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宿のトイレに入って用を済まして、手を洗っていたら。

天井の、板がずれている。
なんだろう、と思って見てたら。


ズズズ、と板が動いて。
足が出てきた。

『……っと、』
犬系の動物の顔をした人間? が。ストン、と降りてきた。

顔は狐みたいだけど、微妙に違う感じ。
手まで毛が生えてて、もふもふだ。

もしかして、これ。
”ケモノ”?


*****


『しまった、まだ人がいたか……、』
俺をひと目見るなり、毛を逆立てたけど。

『にゃ、にゃんこ……!?』

あ、めちゃくちゃしっぽ振ってる。

『こわくない、こわくないよ~、咬んだりしないぞ?』
敵意はないと、手のひらを向けてみせた。

あ、肉球はないんだ?
人の手に毛が生えてて、爪が鋭い感じだ。

なんか、めちゃくちゃ好意しか感じないんだけど。
本当にこの世界の人って、猫に弱いの……?


「あなたはだあれ? 何をしてるの?」
わざと幼い感じでこてん、と首を傾げてみせると。

狐みたいな顔の男は、ふにゃふにゃした様子で。
『おじさんはね、ジャッカルの”ケモノ”で、ジャスパーと言うんだよ』

「ジャスパー?」

うんうん頷きながら。
『この宿に、騎士団の連中が来てるっていう情報が入ったから、様子を探りに来たんだよ』


『ちょ、お前、何をベラベラと、……!?』

天井からもう一人、スタン、と降りてきた。

角が生えてる。
鹿だ。鹿人間。二足歩行の鹿。目がくりくりしてる。


『えっ、何、このかわいい生き物……!?』
声は若い。


「おにいさん、だあれ?」
首を傾げてみせる。

『お兄さんはね、ヘラジカの”ケモノ”。ハートリーだよ』


イケメンみたいなポーズをとる鹿がいた。
ちょろい。


*****


元々守護獣の力が強かったため、ボスからスカウトというか、脅されて、仲間に入らされて。
まだ”ケモノ”になったばかりで、初仕事がこの偵察だと自分から話してくれた。

そういう人もいるのか。


「悪いことしてないなら、まだ、遅くないよ? ”ケモノ”をやめて、警察……騎士団とかに保護してもらったら?」

『でもね。ボスは騎士団よりも強くて、怖いんだ。逆らったら、殺されてしまうんだよ……』
ジャスパーは耳を伏せた。しっぽもしょげてる。

『それに、”ケモノ”化させられてしまったら、もう二度と元の身体には戻れないし。こんな姿では、元の生活には……』
ハートリーも、悲しそうに目を伏せた。


ハートリーの手を取って。
願った。


「ハートリーの守護獣さん。元の姿に戻って」


『……嘘だろ……』
ハートリーは、人間の青年になっていた。

良かった。できた。
”ケモノ”を、元の姿に戻せたんだ。


ジャスパーも。

見たら、喜んで手を差し出してきたので、手を握って。
戻るように祈ると。


ジャスパーは人間の、わりと渋めの、整った顔をしたおじさんだった。
意外だ。

かっこいい。


*****


『すごい! ほら、守護獣も元通りだ』
耳としっぽを出して見せた。

……ということは。ジャスパーって、わりと強いんだ。
だからスカウトされたんだな。


ハートリーは喜んで、涙目だった。
『ありがとう。……君はいったい……』


『救世の神子。”ケモノ”をこの世から消すために異世界より召喚された』
アレックス。

いつの間に。
他のみんなも、扉の前で様子を見てくれてたようだ。


『俺のかわいいツガイだ』
後ろから、ぎゅっと抱き締められる。


ジャスパーとハートリーはぽかんと口を開けて。

『『ロリコン狼!』』

ハモった。


*****


ハートリーは、まだ罪を犯してないから、王国の方で保護してもらえるようになったようだ。
良かった。

同じく無罪のジャスパーは、案内人代わりとして連れていくらしい。


ジャスパーは今まで、山で猟師をしてたけど。
獲物を売りに町へ下りたときに、”ケモノ”に捕まってしまったんだそうだ。

『狩りをする時はこっちの方がよく聞こえるから。うっかり仕舞い忘れてねえ』
大きくてふさふさした犬耳を見せた。

狐みたいな顔してた。
ジャッカルって、アフリカとかにいる犬の仲間なんだっけ? しっぽももっふもふだ。

「耳って、しまえるものなの?」

『仕舞えるよ。ほら、こう、気合いで』
むーん、と念じるようにしたら、犬耳の代わりに人間の耳が現れた。

そうしてると、白いメッシュの入った黒っぽい髪の、普通にかっこいいおじさんだ。
少したれ目っぽくて、甘い顔立ちをしてる。

気合いか。
うーん。


「にゃー!?」

間違ったー! また、猫になっちゃった!
服の中に埋もれてしまう。


『消えた!?』
『え、どこ!?』
2人が慌てて俺を探す声がする。


「ふみゃー、」
どうにか服から抜け出して、存在をアピールしたら。

『か、カワ……っ』
ジャスパーが悶絶して倒れて。

『やばカワ……!』
イアソンも悶絶している。


駄目だ、この世界の人たち。
猫を見たくらいで、何なのその反応……。


*****


『な、……どうしたんだお前ら』
アレックスが、馬車の後部から顔を出した。


気がついたら、馬車は停まってた。

「なーん」
アレックスに飛びつくと。

大きな手のひらで、受け止めてくれた。

『あー、変身しちゃったか。なるほど』
と。
馬車の中で悶絶している2人を見た。


服を回収して。

『お前ら、あっち向いてろよ』
2人から隠すように、キスをしてくれた。

戻ったので。
アレックスのマントの陰で、慌てて服を着た。
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