底辺オタクがチート性能ガチ盛りなフタナリ美形に転生~魔法王国の王様に俺はなる!

篠崎笙

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ローラン・ロートレック・ド・デュランベルジェの人生

Je ne t’oublierai jamais. (あなたのことが忘れられない)

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忠告もむなしく……いや、私が声を掛けたせいで立ち止まったのか。
その人に、落下物が直撃した。

落下物は、赤子の頭くらいの大きさの石の破片だった。


私は秘書に特別回線で救急車を呼ぶよう言いつけ。
慌てて非常階段を降り、その人のところへ駆け寄った。

「ああ……、なんてことだ……」

頭から血を流し倒れていた青年のオーラを見て。
私は自分を呪った。


この人こそ、私が探し求めていた”運命の相手”だったのに。

魔術で治療しようとしたが。
何故か、全く魔術が効かない。ヒーリングが弾かれる。

からの妨害? 何故だ。何故、邪魔をする。神が、人命救助を?


*****


しばらくして、救急車が到着。
事情を話し、救急車に同乗した。秘書には彼の持ち物から身柄を調べるように指示。

手術には、同意書にサインが必要だ。
私は魔術を使い、自分が身内であると催眠をかけた。

それは正解だった。
彼の実の両親は、彼のことは知らないと言い、見捨てたのだ。


それならば、結構。
私が彼をもらい受けよう。

彼の名は、エイジ・エノモト……榎本英司といった。
アジア人は若く見えるというが。まさか41歳、5歳も年上だったとは思わなかった。

”オタク”は顔立ちが幼い者が多いそうだが。彼もそうなのだろう。


もしかしたら、と一縷の望みをかけたが。
手術も無駄に終わった。

英司は脳死状態になり、呼吸を補助する器具を外せば、呼吸も停止する。

私は諦めきれず、延命措置を頼み。自らの手で英司の身の回りの世話をした。
私の運命の人の世話を、他人任せにはしたくなかった。

綺麗に身体を拭い、垂れ流される排泄物を処理する。
仕事は部下に任せた。


英司の身辺整理も済ませた。

社員寮の狭い部屋の中には本が山積みだった。
隠すようにしまわれていた薄い本は、同人誌というものだ。手荷物の中にもあった。

こういう本が好きなのか、と。
英司のことをもっと知りたくて、蔵書をすべて読み漁った。面白かった。


目を覚ましてくれたら、本の内容について語り合いたいのに。


*****


「英司。君は何故、あの日、あんな場所にいたのかな?」
手を握り、声を掛けても答えはない。

「私と出会うため、何かに呼ばれて来たの?」
頬に触れる。

彼はずっと外に出ない仕事だったためか、色白だった。
白人はピンク色だが。

彼は陶磁器のように白く滑らかな肌で。触り心地が良い。

「ねえ、早く目覚めておくれ、私の眠り姫。君と、話をしたいんだ」
何も話してくれない唇に、キスをした。


部下に調べさせた彼の人生は、恵まれたものではなかった。

世界にはもっと悲惨な人生を送る者も居るだろうが。この平和な日本でもそんなことがあるのだと知った。
入手した過去の写真で、彼は少女のような恰好をしていた。

長い黒髪をツインテールにして、とても愛らしいが。
現在短く刈った髪は、その反動だろうか?

勤務態度は真面目だが、人付き合いは悪い。
風俗に誘っても絶対に来なかった? それはセクシャルハラスメントだろう。

清らかなオーラからして、童貞なのは間違いない。
かといってゲイでもないようだ。性器も肛門も綺麗なものだ。


*****


病室の窓から、光が差し込んだ。
ぞくりと背筋が凍り付く。はるか上位の存在を感じた。

身体が動かない。指先すら。


私の目の前で。神の見えざる手によって。
英司の魂がどこかへ連れ去られていくのを、ただ眺めていることしかできなかった。

人の身で、神に敵うなどと思い上がってはいない。
神の意志に逆らう気もない。


だが。
連れ去られた魂を、追いかける自由くらいは許されるだろう。


すぐに魂の残滓をトレースし、移動先を特定。

延命治療を中止し。
全ての機能が停止した英司の肉体は、荼毘に付された。
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