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ローラン・ロートレック・ド・デュランベルジェの人生
dans un rêve.(夢の中)
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そうだ。
俺……私は。
以前、……ローラン・ロートレック・ド・デュランベルジェとして生まれる前の人生では。
ヘンリー ・ドイルという名で。
イングランドはバークシャー州で生まれたのだった。
実家は代々貴族の家系だったが、爵位は先々代で返上。
しかし、私はさるやんごとなき身分の女性の危機を救った功績で、サーの称号を戴くことになった。
表の世界では馬主、人材派遣会社を経営。裏の世界では魔術結社”王の秘蹟”の魔術師として。善いことも、悪いこともした。
幼少時に受けた頭の傷により魔術回路が開き、そこから神秘主義にのめり込んで自ら魔術結社を作ったのだが。人材派遣業は、結社の団員を色々な業種に送り込む良い隠れ蓑になった。
会社も結社も大きくなり、到達者レベルの魔術師だけでも50人ほど抱えるようになった。
そうなると、他の魔術結社からも敵視されるようになり。
魔術的攻撃を受けては防御、反撃をし、敗れた相手教団を取り込むなどして、また大きくなっていった。
*****
若い頃から男女問わず声を掛けられ、相手をしたが。
どれも魅力を感じなかった。
30歳になる頃には、性魔術も多く使っていたためもあり、性行為自体にうんざりしていた。
そして、35を過ぎた頃。
日本のアニメーションやマンガというものが、マフィアの資金源を間接的に減らしていることを知った。
アニメにはまった若者が、麻薬やドラッグを買う金を惜しみ、アニメグッズを買い漁っているため、マフィアが壊滅しそうだという。
なんと痛快な話だろうか。
しかし、今度はマフィアが海賊版を手掛け、資金を得ようとしていた。
ならば正規の製品を仕入れ、売る業種を立ち上げるべきだろう。
私も日本のアニメやマンガに興味を持ち、日本語を学んだ。
仕事にも関係すると思ったのがきっかけではあるが。何か予感めいたものを感じたのだ。
そして、36歳の時。
私は”運命の出会い”を果たすことになる。
8月の半ば、日本に降り立った私は、日本のオタク文化を学ぶために、年に二度行われるオタクの祭典、”コミケ”なる催しの取材へ向かった。
残念ながら、マーケットを立ち上げた人物は亡くなっており、その理念もかなり変化しているように思えた。
しかし、会場には熱気溢れる大勢の人。アニメのキャラクターの衣装に身を包む人々。
倒れそうに暑い中、着ぐるみで歩いてるクレイジーなコスプレイヤー。
いわゆる”ギーグ”と日本の”オタク”は何か違う気がした。
次のスケジュールのため、長居できなかったが。
次回は参加者に話を聞こうと思い、帰路の車に乗った。
日本の高速道路は速度が遅い上に渋滞が酷い、と車窓を眺めて。車間を開けるよう言ったが、すかさずその隙間に車が入り込む。
もし事故が起こったら、どうするつもりなのだと思っていた。
悪い予感は的中した。
玉突き事故に巻き込まれたのだった。
*****
幸い、私と秘書、護衛らと運転手は無傷で済んだ。車の強度に助けられたのだ。
しかし、そのままそこに居れば、漏れ出たガソリンから爆発炎上などの二次災害に巻き込まれる恐れがあった。
周囲の日本人にも呼びかけ、直ちに避難しようと非常用の階段へ向かう途中。
魔が差す、というのだろうか。
ふと、高速道路の下を見たくなったのだ。
車体が壁に突っ込み、ちょうど下が見られるような隙間があった。
普段の私だったら、そんな真似はしなかっただろう。
しかし。
私は何かに急かされるように、崩れた壁へ近寄った。
隙間から、人の姿が見え。
もう少し身を乗り出そうとして触れた壁が、大きく崩れた。
このままでは、下にいる人に、落下物に当たってしまう。
「頭上に気をつけろ!」
声を上げたら。
その人は、こちらを見上げた。
目が合った、気がした。
俺……私は。
以前、……ローラン・ロートレック・ド・デュランベルジェとして生まれる前の人生では。
ヘンリー ・ドイルという名で。
イングランドはバークシャー州で生まれたのだった。
実家は代々貴族の家系だったが、爵位は先々代で返上。
しかし、私はさるやんごとなき身分の女性の危機を救った功績で、サーの称号を戴くことになった。
表の世界では馬主、人材派遣会社を経営。裏の世界では魔術結社”王の秘蹟”の魔術師として。善いことも、悪いこともした。
幼少時に受けた頭の傷により魔術回路が開き、そこから神秘主義にのめり込んで自ら魔術結社を作ったのだが。人材派遣業は、結社の団員を色々な業種に送り込む良い隠れ蓑になった。
会社も結社も大きくなり、到達者レベルの魔術師だけでも50人ほど抱えるようになった。
そうなると、他の魔術結社からも敵視されるようになり。
魔術的攻撃を受けては防御、反撃をし、敗れた相手教団を取り込むなどして、また大きくなっていった。
*****
若い頃から男女問わず声を掛けられ、相手をしたが。
どれも魅力を感じなかった。
30歳になる頃には、性魔術も多く使っていたためもあり、性行為自体にうんざりしていた。
そして、35を過ぎた頃。
日本のアニメーションやマンガというものが、マフィアの資金源を間接的に減らしていることを知った。
アニメにはまった若者が、麻薬やドラッグを買う金を惜しみ、アニメグッズを買い漁っているため、マフィアが壊滅しそうだという。
なんと痛快な話だろうか。
しかし、今度はマフィアが海賊版を手掛け、資金を得ようとしていた。
ならば正規の製品を仕入れ、売る業種を立ち上げるべきだろう。
私も日本のアニメやマンガに興味を持ち、日本語を学んだ。
仕事にも関係すると思ったのがきっかけではあるが。何か予感めいたものを感じたのだ。
そして、36歳の時。
私は”運命の出会い”を果たすことになる。
8月の半ば、日本に降り立った私は、日本のオタク文化を学ぶために、年に二度行われるオタクの祭典、”コミケ”なる催しの取材へ向かった。
残念ながら、マーケットを立ち上げた人物は亡くなっており、その理念もかなり変化しているように思えた。
しかし、会場には熱気溢れる大勢の人。アニメのキャラクターの衣装に身を包む人々。
倒れそうに暑い中、着ぐるみで歩いてるクレイジーなコスプレイヤー。
いわゆる”ギーグ”と日本の”オタク”は何か違う気がした。
次のスケジュールのため、長居できなかったが。
次回は参加者に話を聞こうと思い、帰路の車に乗った。
日本の高速道路は速度が遅い上に渋滞が酷い、と車窓を眺めて。車間を開けるよう言ったが、すかさずその隙間に車が入り込む。
もし事故が起こったら、どうするつもりなのだと思っていた。
悪い予感は的中した。
玉突き事故に巻き込まれたのだった。
*****
幸い、私と秘書、護衛らと運転手は無傷で済んだ。車の強度に助けられたのだ。
しかし、そのままそこに居れば、漏れ出たガソリンから爆発炎上などの二次災害に巻き込まれる恐れがあった。
周囲の日本人にも呼びかけ、直ちに避難しようと非常用の階段へ向かう途中。
魔が差す、というのだろうか。
ふと、高速道路の下を見たくなったのだ。
車体が壁に突っ込み、ちょうど下が見られるような隙間があった。
普段の私だったら、そんな真似はしなかっただろう。
しかし。
私は何かに急かされるように、崩れた壁へ近寄った。
隙間から、人の姿が見え。
もう少し身を乗り出そうとして触れた壁が、大きく崩れた。
このままでは、下にいる人に、落下物に当たってしまう。
「頭上に気をつけろ!」
声を上げたら。
その人は、こちらを見上げた。
目が合った、気がした。
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