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ローラン・ロートレック・ド・デュランベルジェの人生
Les grands esprits se rencontrent.(運命的な出会い)
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あの日、俺は”運命”と出逢った。
神の決めた定めに、ヒトは、どう足掻こうが逃れられない。
それが運命というものだと思い知ることになる。
*****
ルミエール王国は世界最大の国土を持ち、魔法王国とも呼ばれている。
国の中で最も魔素の多い者が国王となり、国を統べる。
何故か昔から身体に黒を多く持った者が魔素を多く持っていたため、髪や肌の色が濃い者が尊ばれるようになったという。
代々貴族を多く輩出した家柄である我がデュランベルジェ家は、その血の濃さゆえか、魔素が多い子が産まれやすい。
当代デュランベルジェ家の長子である俺も、肌と髪の色が濃く魔素が多かったため、産まれ落ちた時点で国王より伯爵の地位を授けられた。
祖父は子爵、父親は男爵であった。
以前より領地も広がり、立派な城に住めるようになり家族は喜んだ。この子は次期国王になるだろう、と。
しかし、俺は国王の座には興味がなかった。
この国で、代々貴族でいられるような家系は、大抵まともではない。
おぞましい手段で、その血統を保ってきたのだろう。両親や親戚に付きまとう怨霊の影。そこかしこに怨嗟の声が染みわたっている。
それらが見えない、聞こえない彼らが羨ましかった。
強く念じれば消えるような儚い存在ではあるが、数が多すぎていちいち祓うのも鬱陶しい。
国王ともなれば、更に陰惨なものを見る羽目になるだろう。
魔素の多さが全てであり、少ない者には価値が無い。
そんな制度がまかり通っているこの国の危うさ、歪さに疑問を覚えていたのは、デュランベルジェ家の中では自分一人だけだった。
5歳になる頃には、自分の考えが周囲とは違い、どこか異質なものだと気づいた。
それと同時に。
時々、何故自分はここにいるのだろう、何か大切なものを忘れてはいないか、といった考えに悩まされた。
その答えは、12年後にわかるのだが。
*****
幼少期は人前に出ても恥をかかない礼儀作法、貴族としての教育をひととおり受けて育った。
この国では皆、8歳で社交界へ出て、16歳で成人を迎える。
8歳になった俺は、国王と挨拶をするため、毎年王城で開かれる舞踏会へ行った。
そこで、俺は。
自分がここでこうして生きている、その理由を知ったのだ。
ベリエ伯アンリ・アントワーヌ・ガブリエル・ド・ジュスタン。
黒い髪に、黒い瞳。国王陛下の一番のお気に入りと名高い”黒薔薇”。
その姿の可憐さに、少女かと見間違えそうになったが。
彼の纏う青く瑞々しい空気は少年特有のものだ。どんな穢れも寄せ付けない魂の輝き。
肌の白さは、この国では厭われるが。彼はその色の白さで、黒い髪と瞳の美しさが際立って見えた。
こんな綺麗な生き物を見るのは、生まれて初めてだった。
ひと目で恋に落ちた。
そして、理解した。
俺は、この”魂”と出逢うために、この世に生まれてきたのだと。
*****
彼に近づくためには、何をすればいいのか。
瞬時に頭を働かせた。
噂によると彼は次期国王の座を望んでいると聞いた。
それならば、是非その王佐になり、彼を支えたいと思ったが。初対面でいきなりそのようなことを言ったら、警戒されるだろう。
ならば、答えは決まっている。
自分も国王候補であり、どちらが国王の座を得るか高め合う好敵手になればいい。
他の候補者を蹴落とし、根回しを進めている間に彼と親交を深め。彼にとって、敵には回したくない、なくてはならない大事な存在にならねば。
心臓が爆発するかと思うくらい緊張したが。
無事、最初の挨拶を交わした。
彼をアンリと呼ぶ無礼も、子供だからと見逃された。
そして、自分のことは”ロロ”と呼んで欲しいと言ったのだが。
自分の名前であるローラン・ロートレックの頭文字を略してロロというのは、どこから出てきたのだかわからなかった。
この国……いや、この世界では、そのような略し方はしない。
その時は、誰もそう呼ばない呼び方で名を呼ばれたい気持ちが生み出したのだと思っていたのだが。
神の決めた定めに、ヒトは、どう足掻こうが逃れられない。
それが運命というものだと思い知ることになる。
*****
ルミエール王国は世界最大の国土を持ち、魔法王国とも呼ばれている。
国の中で最も魔素の多い者が国王となり、国を統べる。
何故か昔から身体に黒を多く持った者が魔素を多く持っていたため、髪や肌の色が濃い者が尊ばれるようになったという。
代々貴族を多く輩出した家柄である我がデュランベルジェ家は、その血の濃さゆえか、魔素が多い子が産まれやすい。
当代デュランベルジェ家の長子である俺も、肌と髪の色が濃く魔素が多かったため、産まれ落ちた時点で国王より伯爵の地位を授けられた。
祖父は子爵、父親は男爵であった。
以前より領地も広がり、立派な城に住めるようになり家族は喜んだ。この子は次期国王になるだろう、と。
しかし、俺は国王の座には興味がなかった。
この国で、代々貴族でいられるような家系は、大抵まともではない。
おぞましい手段で、その血統を保ってきたのだろう。両親や親戚に付きまとう怨霊の影。そこかしこに怨嗟の声が染みわたっている。
それらが見えない、聞こえない彼らが羨ましかった。
強く念じれば消えるような儚い存在ではあるが、数が多すぎていちいち祓うのも鬱陶しい。
国王ともなれば、更に陰惨なものを見る羽目になるだろう。
魔素の多さが全てであり、少ない者には価値が無い。
そんな制度がまかり通っているこの国の危うさ、歪さに疑問を覚えていたのは、デュランベルジェ家の中では自分一人だけだった。
5歳になる頃には、自分の考えが周囲とは違い、どこか異質なものだと気づいた。
それと同時に。
時々、何故自分はここにいるのだろう、何か大切なものを忘れてはいないか、といった考えに悩まされた。
その答えは、12年後にわかるのだが。
*****
幼少期は人前に出ても恥をかかない礼儀作法、貴族としての教育をひととおり受けて育った。
この国では皆、8歳で社交界へ出て、16歳で成人を迎える。
8歳になった俺は、国王と挨拶をするため、毎年王城で開かれる舞踏会へ行った。
そこで、俺は。
自分がここでこうして生きている、その理由を知ったのだ。
ベリエ伯アンリ・アントワーヌ・ガブリエル・ド・ジュスタン。
黒い髪に、黒い瞳。国王陛下の一番のお気に入りと名高い”黒薔薇”。
その姿の可憐さに、少女かと見間違えそうになったが。
彼の纏う青く瑞々しい空気は少年特有のものだ。どんな穢れも寄せ付けない魂の輝き。
肌の白さは、この国では厭われるが。彼はその色の白さで、黒い髪と瞳の美しさが際立って見えた。
こんな綺麗な生き物を見るのは、生まれて初めてだった。
ひと目で恋に落ちた。
そして、理解した。
俺は、この”魂”と出逢うために、この世に生まれてきたのだと。
*****
彼に近づくためには、何をすればいいのか。
瞬時に頭を働かせた。
噂によると彼は次期国王の座を望んでいると聞いた。
それならば、是非その王佐になり、彼を支えたいと思ったが。初対面でいきなりそのようなことを言ったら、警戒されるだろう。
ならば、答えは決まっている。
自分も国王候補であり、どちらが国王の座を得るか高め合う好敵手になればいい。
他の候補者を蹴落とし、根回しを進めている間に彼と親交を深め。彼にとって、敵には回したくない、なくてはならない大事な存在にならねば。
心臓が爆発するかと思うくらい緊張したが。
無事、最初の挨拶を交わした。
彼をアンリと呼ぶ無礼も、子供だからと見逃された。
そして、自分のことは”ロロ”と呼んで欲しいと言ったのだが。
自分の名前であるローラン・ロートレックの頭文字を略してロロというのは、どこから出てきたのだかわからなかった。
この国……いや、この世界では、そのような略し方はしない。
その時は、誰もそう呼ばない呼び方で名を呼ばれたい気持ちが生み出したのだと思っていたのだが。
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